名は体どころか運命を表す

ルイ

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1. 大事の決行

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――を明日にでも決行しようとしているのに、このような小事で疲れるとは!

刀川たちかわは大学の読書同好会の活動中に、うまいこと例の計画を悟られずに過ごした。
ただし、そのことで体力を使い果たした自分自身を、午後6時ごろの電車の中で今のように戒めていた。

彼は空腹だった。確かについ先ほどまでは、何も食べる気になっていなかった。
妙に思考がもつれていたからだ。
しかし、大学の読書同好会を無事終えて幾分心が落ち着いたことで、身体の芯が焼けつくような飢えを感じていた。
空腹のあまり、空を歯噛みする寸前だった。

だから目下、彼は6号車の座席に腰を下ろし、コーヒーとパンを口に入れている。
期末試験も近いうだる暑さの7月、駅から少し離れた場所にある、この地域唯一のコンビニで購入したものだ。
彼は周囲の乗客の目も気にせずに、車内で飢えを満たしていった。

――くよくよと迷妄にとらわれることはなかったのだ!
――珈琲一杯にパン一つで、うむ、この通り、たちまち頭はしっかりする、考えもはっきりするではないか!
――第一、が悟られることなどない。

パンを貪りつつ、いつもの哲学的な独語癖で小さくぶつぶつと呟いていたその時、大学に派手な帽子を忘れたことを思い出した。
読書同好会の活動で利用していた、蒸し暑い教室に置き忘れたようだ。
だが、この時彼の頭に浮かんだのは「しまった、取りに戻ろう」という考えではなかった。

――うむ、うむ。まあ、あの帽子は、には目立ちすぎる。取りに戻らなくても良かろう。
――それに、には、には、今日のように太陽が私を照らすこともない。従って、帽子は不要である。

午後6時6分。夕焼けが始まり、広い空が朱色と金色に染まっていく。
都会から遠く離れたこの場所だからこそ、こんな風景が電車の窓から臨める。
しかし、青白くやや細身の彼は、いつものように、その風景を楽しむわけにもいかず、向かいの席でおしゃべりをしている部活帰りの女子高生たちを凝視するわけにもいかなかった。
風景が嫌いなわけでも、女子高生が嫌いなわけでもない。考え事をしなければならないからだ。
彼は呟きながら思案する。の際の服装について。

――あの時にはどのような服装が良いだろうか。とっくりと考量する必要がある。失敗する訳には……。
――おや……あの娘たち、こちらを見ているではないか。
――読唇術を通信教育で学んだから、会話はお見通しである。
――「なんかあの人、食べながら一人でぶつぶつしゃべってるんだけど」と隣の友人にこそっと言っているではないか。
――「チラチラこっち見てきてない? キッモw」
――………。……。…。否、否、日本人にとって、言語は思想を隠す技術にすぎない。
――つまり「気持ち悪い」と言うということは、反対に私のことを好きなのではないか? そうに違いない。

彼はこういう青年だ。

他人からどう思われるか、という視点で物事を考えることが少しだけ苦手で、ポジティブに結論付けることが得意だ。

もちろん彼女が出来たことはない。
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