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縞馬の剣と恋心
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見ず知らずの二人と一緒に歩くというのは不思議な気持ちだった。しかも二人とも相当に変わった人である。
詩音は由羅に遠慮して二人のやや後方を歩いていた。時間は既に五時半を回っていて、空は夕焼けに変わりつつある。
沈む太陽をぼんやりと見つめながら、詩音は一人、『縞馬の剣』の事を考えた。
確かに面白いドラマだった。舞台は経済成長に失敗したパラレルワールドの日本。主人公の東条真理は、八歳のとき年上の謎人物から縞馬の剣を授かった。いや、授かったのかどうかは定かではない。原作でも事細かには書かれておらず、ドラマでは真理と謎の少年が二人で縞馬の剣を触っている静止画が流れただけだ。そもそも縞馬の剣とは、人を斬り殺すための剣ではあるが普通の武器とは違う。この剣で殺された人は跡形もなく消滅し、人々の記憶自体から消え去る。そして代わりに、本来なら死んでいたはずの誰かが生きていた世界線に変化するのだ。人間の生死を入れ替え歴史ごと改変してしまう剣。
真理は存在ごと消えたがっている人間がこの世には数多く存在している事を知る。時を経て大人になった真理は暗黒面に立ち、両親を生き返らすため死を求める人間を何百人と斬り続けた。それが彼らにとっても正しい救済になると信じて。
にゃー、と猫の鳴き声がした。詩音はハッとして声のする方を振り向く。塀の上にいつもの野良猫がいた。
愛おしくなり、詩音は立ち止まって手招きする。猫は塀からぴょんと飛び降りて詩音の足元にすり寄った。
「あららにゃにゃにゃ」
詩音はしゃがんで猫の頬をくすぐる。猫が目を瞑って気持ちよさそうにしている。やばい。かわいすぎる。むり。
「愛咲何やってんだよ」
立ち止まったことに気づいた雨村が声をかけた。
「それ野良猫だろ。野生動物は体の表面に大量の菌を宿しているから、安易に触ったら危ないぞ」
「大丈夫だよ、後で手を洗うから」
詩音は見向きもしない。
「あの猫、全然由羅に懐かないのに」
雨村の隣で呟く。
「やれやれ。しかしなぜそもそも猫を捨てようと考える人間がいるのか不思議なものだな。こんなにも猫という動物は……」
猫はふさふさの腕を伸ばして、首をかきかきしている。
「うわ! 見て雨村君。すごく気持ちよさそう」
詩音と猫は満面の笑みを雨村に向けた。
「お、そうか」
彼は顔を赤らめて詩音の直視から逃げた。
そして由羅の方をちらりと向く。
「ん、なんだ」
「戸坂。生物が異性に反応するのは、子孫を育み、一つの種族としての繁栄を促すよう本能に埋め込まれているためだ。そして良質な異性に強い反応を覚えるのは、それが強力な子孫を遺すために必要不可欠な因子であるからだ」
由羅は退屈そうな顔をしている。
「おう。その話はもう飽きる程聞いたぞ」
その時聖が束の間、詩音に目をやるのを見た。それで由羅は察した。
眼光が錐のように鋭くなる。
「聖。まさか、惚れたの?」
「ち、違う」雨村の声が裏返った。
「……少しノイズが混じっただけだ」
詩音は由羅に遠慮して二人のやや後方を歩いていた。時間は既に五時半を回っていて、空は夕焼けに変わりつつある。
沈む太陽をぼんやりと見つめながら、詩音は一人、『縞馬の剣』の事を考えた。
確かに面白いドラマだった。舞台は経済成長に失敗したパラレルワールドの日本。主人公の東条真理は、八歳のとき年上の謎人物から縞馬の剣を授かった。いや、授かったのかどうかは定かではない。原作でも事細かには書かれておらず、ドラマでは真理と謎の少年が二人で縞馬の剣を触っている静止画が流れただけだ。そもそも縞馬の剣とは、人を斬り殺すための剣ではあるが普通の武器とは違う。この剣で殺された人は跡形もなく消滅し、人々の記憶自体から消え去る。そして代わりに、本来なら死んでいたはずの誰かが生きていた世界線に変化するのだ。人間の生死を入れ替え歴史ごと改変してしまう剣。
真理は存在ごと消えたがっている人間がこの世には数多く存在している事を知る。時を経て大人になった真理は暗黒面に立ち、両親を生き返らすため死を求める人間を何百人と斬り続けた。それが彼らにとっても正しい救済になると信じて。
にゃー、と猫の鳴き声がした。詩音はハッとして声のする方を振り向く。塀の上にいつもの野良猫がいた。
愛おしくなり、詩音は立ち止まって手招きする。猫は塀からぴょんと飛び降りて詩音の足元にすり寄った。
「あららにゃにゃにゃ」
詩音はしゃがんで猫の頬をくすぐる。猫が目を瞑って気持ちよさそうにしている。やばい。かわいすぎる。むり。
「愛咲何やってんだよ」
立ち止まったことに気づいた雨村が声をかけた。
「それ野良猫だろ。野生動物は体の表面に大量の菌を宿しているから、安易に触ったら危ないぞ」
「大丈夫だよ、後で手を洗うから」
詩音は見向きもしない。
「あの猫、全然由羅に懐かないのに」
雨村の隣で呟く。
「やれやれ。しかしなぜそもそも猫を捨てようと考える人間がいるのか不思議なものだな。こんなにも猫という動物は……」
猫はふさふさの腕を伸ばして、首をかきかきしている。
「うわ! 見て雨村君。すごく気持ちよさそう」
詩音と猫は満面の笑みを雨村に向けた。
「お、そうか」
彼は顔を赤らめて詩音の直視から逃げた。
そして由羅の方をちらりと向く。
「ん、なんだ」
「戸坂。生物が異性に反応するのは、子孫を育み、一つの種族としての繁栄を促すよう本能に埋め込まれているためだ。そして良質な異性に強い反応を覚えるのは、それが強力な子孫を遺すために必要不可欠な因子であるからだ」
由羅は退屈そうな顔をしている。
「おう。その話はもう飽きる程聞いたぞ」
その時聖が束の間、詩音に目をやるのを見た。それで由羅は察した。
眼光が錐のように鋭くなる。
「聖。まさか、惚れたの?」
「ち、違う」雨村の声が裏返った。
「……少しノイズが混じっただけだ」
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