308 / 317
番外編
ある日の僕の冒険5
しおりを挟む
神殿の最奥に、その一角はあった。
花々が美しく咲き乱れる庭に囲まれた瀟洒な建物。
白亜の壁には美しく彫刻が施され、芸術品のようにみえた。
だけど、どこか……なぜか……僕には、紗国の王墓を思い起こさせたんだ。
美しくあればあるほど、悲しみが増すような、そんな気持ちに。
「こちらです」
ユベンさんは短い詠唱をして、その建物の周りにある結界を解いた。
そして、ゆっくりと扉を押す。
中は意外にも清浄な空気が満たされていて驚いた。
閉め切られていたのに、どうして。
「こちらにはお世話をするために専任の巫女が出入りしております」
僕の疑問は口に出さなくても通じちゃったみたいだ……
「中は明るいのですね」
「ええ、採光には気を使っております。眠り巫女姫が万が一目を覚まされたら、美しい光でお迎えしたいと、そう考えられたようですね」
そして、前室を通り、この家の主が眠る部屋の扉の前に来た。
「私はここでお待ちします。乙女の眠る部屋は男子禁制ですから」
「って、え!僕は男子ですよ!」
ユベンさんは困ったように微笑んだ。
「いえ、薫様はすべてを超越されたお方、それに、眠り巫女姫様はあなたにお会いしたいはず、さあ、どうぞ」
僕はユベンさんの言葉に何も言い返せず、少し躊躇しながら扉に手をかけた。
音もなくするっと開き、面食らった僕は中を見渡す、そして一歩中に入った。
パタンと扉は閉まった。
緩やかな時間の流れを感じさせる内部の設え、エルフの意匠を熟知しているわけではなくとも、この部屋に置かれた家具が、何千年も昔に誂えたものだろうと感じられた、これを用意した人はきっと、この巫女姫の血縁者、愛をこめて、巫女姫のために……
「こ、こんにちは……えと、薫です……って、きこえてますか?」
僕は紗幕のかかる可愛らしいベッドに少し遠くから話しかけた。
「……お眠りなのだし、お答えがなくて当たり前だよね……」
僕はどうしていいのかわからなくなって、そっと、歩みを進めてベッドに近寄った。
「キュルルー」
その時、美しく鳥のなく声が聞こえ、ハッとして宙を見上げる、クーちゃんだった!
「クーちゃん!きてくれたの!」
僕は喜びのあまり両手を差し出して、クーちゃんを抱きしめた。
「わあクーちゃん、来てくれてうれしいよお……なんだか翠の匂いがする……翠は元気?蘭紗様は?みんな心配してるよね、ごめんねごめんね」
僕はしばしクーちゃんとの再会に喜んで、そしてハッとした。
ああ、こんなことしてる場合では。
そしてもう一度ベッドに目をやり、クーちゃんを抱きしめたままそっと近寄った。
紗の向こうには確かに誰かが横になっているのが見える。
だけど、さすがに幕を開けて声をかけるのは躊躇われた。
ユベンさんの言うように、この方は乙女なのだ。
いかに紗国のお嫁様とはいえ僕はれっきとした男子!ここは一線を引かねばと幕の外から声をかけた。
「えっと、僕は紗国から来ました、王妃の薫です。紗国の花嫁として、異世界から来たのですよ、あなたが僕をここに呼んだのですか?」
当然、応えはない。
「そうと仮定して……せっかくですから、僕のお話でもどうですか?」
クーちゃんも「クウー」って鳴いてくれた。
「僕はね、日本という国から来たのです、そこで、大学生という身分でした、まだ学生だったのですよ」
そこまで話した時だった。
急にむせかえるような花の匂いが部屋に充満し、僕は異変を感じて身を固くした。
「な、なに?」
クーちゃんは鳴きもせず、じっと僕に抱かれている。
「ん……」
小さな声が聞こえた。
「え?」
僕はその声の主をじっと見た。
「ん……」
もう一度、確かに聞こえたその声は……なんと眠り巫女姫様が発している。
「えええ?」
思わず幕を開け、中に入り、ベッドの横に膝をついて覗き込む。
「巫女姫様、お目覚めなのですか?!」
「ん……」
一瞬苦し気な表情の後……巫女姫は、ぱっちりとした目を開けて、僕をじっと見つめた。
「ええええ!」
僕の素っ頓狂な声が部屋に響き渡ったんだ。
花々が美しく咲き乱れる庭に囲まれた瀟洒な建物。
白亜の壁には美しく彫刻が施され、芸術品のようにみえた。
だけど、どこか……なぜか……僕には、紗国の王墓を思い起こさせたんだ。
美しくあればあるほど、悲しみが増すような、そんな気持ちに。
「こちらです」
ユベンさんは短い詠唱をして、その建物の周りにある結界を解いた。
そして、ゆっくりと扉を押す。
中は意外にも清浄な空気が満たされていて驚いた。
閉め切られていたのに、どうして。
「こちらにはお世話をするために専任の巫女が出入りしております」
僕の疑問は口に出さなくても通じちゃったみたいだ……
「中は明るいのですね」
「ええ、採光には気を使っております。眠り巫女姫が万が一目を覚まされたら、美しい光でお迎えしたいと、そう考えられたようですね」
そして、前室を通り、この家の主が眠る部屋の扉の前に来た。
「私はここでお待ちします。乙女の眠る部屋は男子禁制ですから」
「って、え!僕は男子ですよ!」
ユベンさんは困ったように微笑んだ。
「いえ、薫様はすべてを超越されたお方、それに、眠り巫女姫様はあなたにお会いしたいはず、さあ、どうぞ」
僕はユベンさんの言葉に何も言い返せず、少し躊躇しながら扉に手をかけた。
音もなくするっと開き、面食らった僕は中を見渡す、そして一歩中に入った。
パタンと扉は閉まった。
緩やかな時間の流れを感じさせる内部の設え、エルフの意匠を熟知しているわけではなくとも、この部屋に置かれた家具が、何千年も昔に誂えたものだろうと感じられた、これを用意した人はきっと、この巫女姫の血縁者、愛をこめて、巫女姫のために……
「こ、こんにちは……えと、薫です……って、きこえてますか?」
僕は紗幕のかかる可愛らしいベッドに少し遠くから話しかけた。
「……お眠りなのだし、お答えがなくて当たり前だよね……」
僕はどうしていいのかわからなくなって、そっと、歩みを進めてベッドに近寄った。
「キュルルー」
その時、美しく鳥のなく声が聞こえ、ハッとして宙を見上げる、クーちゃんだった!
「クーちゃん!きてくれたの!」
僕は喜びのあまり両手を差し出して、クーちゃんを抱きしめた。
「わあクーちゃん、来てくれてうれしいよお……なんだか翠の匂いがする……翠は元気?蘭紗様は?みんな心配してるよね、ごめんねごめんね」
僕はしばしクーちゃんとの再会に喜んで、そしてハッとした。
ああ、こんなことしてる場合では。
そしてもう一度ベッドに目をやり、クーちゃんを抱きしめたままそっと近寄った。
紗の向こうには確かに誰かが横になっているのが見える。
だけど、さすがに幕を開けて声をかけるのは躊躇われた。
ユベンさんの言うように、この方は乙女なのだ。
いかに紗国のお嫁様とはいえ僕はれっきとした男子!ここは一線を引かねばと幕の外から声をかけた。
「えっと、僕は紗国から来ました、王妃の薫です。紗国の花嫁として、異世界から来たのですよ、あなたが僕をここに呼んだのですか?」
当然、応えはない。
「そうと仮定して……せっかくですから、僕のお話でもどうですか?」
クーちゃんも「クウー」って鳴いてくれた。
「僕はね、日本という国から来たのです、そこで、大学生という身分でした、まだ学生だったのですよ」
そこまで話した時だった。
急にむせかえるような花の匂いが部屋に充満し、僕は異変を感じて身を固くした。
「な、なに?」
クーちゃんは鳴きもせず、じっと僕に抱かれている。
「ん……」
小さな声が聞こえた。
「え?」
僕はその声の主をじっと見た。
「ん……」
もう一度、確かに聞こえたその声は……なんと眠り巫女姫様が発している。
「えええ?」
思わず幕を開け、中に入り、ベッドの横に膝をついて覗き込む。
「巫女姫様、お目覚めなのですか?!」
「ん……」
一瞬苦し気な表情の後……巫女姫は、ぱっちりとした目を開けて、僕をじっと見つめた。
「ええええ!」
僕の素っ頓狂な声が部屋に響き渡ったんだ。
15
お気に入りに追加
921
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
今日から始める最強伝説 - 出遅れ上等、バトル漫画オタクは諦めない -
ふつうのにーちゃん
ファンタジー
25歳の春、転生者クルシュは祖国を出奔する。
彼の前世はしがない書店経営者。バトル漫画を何よりも愛する、どこにでもいる最強厨おじさんだった。
幼い頃の夢はスーパーヒーロー。おじさんは転生した今でも最強になりたかった。
その夢を叶えるために、クルシュは大陸最大の都キョウを訪れる。
キョウではちょうど、大陸最強の戦士を決める竜将大会が開かれていた。
クルシュは剣を教わったこともないシロウトだったが、大会に出場することを決める。
常識的に考えれば、未経験者が勝ち上がれるはずがない。
だがクルシュは信じていた。今からでも最強の座を狙えると。
事実、彼の肉体は千を超える不活性スキルが眠る、最強の男となりうる器だった。
スタートに出遅れた、絶対に夢を諦めないおじさんの常勝伝説が始まる。
二度目の異世界に来たのは最強の騎士〜吸血鬼の俺はこの世界で眷族(ハーレム)を増やす〜
北条氏成
ファンタジー
一度目の世界を救って、二度目の異世界にやってきた主人公は全能力を引き継いで吸血鬼へと転生した。
この物語は魔王によって人間との混血のハーフと呼ばれる者達が能力を失った世界で、最強種の吸血鬼が眷族を増やす少しエッチな小説です。
※物語上、日常で消費する魔力の補給が必要になる為、『魔力の補給(少しエッチな)』話を挟みます。嫌な方は飛ばしても問題はないかと思いますので更新をお待ち下さい。※
カクヨムで3日で修正という無理難題を突き付けられたので、今後は切り替えてこちらで投稿していきます!カクヨムで読んで頂いてくれていた読者の方々には大変申し訳ありません!!
*毎日投稿実施中!投稿時間は夜11時~12時頃です。*
※本作は眷族の儀式と魔力の補給というストーリー上で不可欠な要素が発生します。性描写が苦手な方は注意(魔力の補給が含まれます)を読まないで下さい。また、ギリギリを攻めている為、BAN対策で必然的に同じ描写が多くなります。描写が単調だよ? 足りないよ?という場合は想像力で補って下さい。できる限り毎日更新する為、話数を切って千文字程度で更新します。※
表紙はAIで作成しました。ヒロインのリアラのイメージです。ちょっと過激な感じなので、運営から言われたら消します!
髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜
あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。
そんな世界に唯一現れた白髪の少年。
その少年とは神様に転生させられた日本人だった。
その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。
⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。
⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
猫が崇拝される人間の世界で猫獣人の俺って…
えの
BL
森の中に住む猫獣人ミルル。朝起きると知らない森の中に変わっていた。はて?でも気にしない!!のほほんと過ごしていると1人の少年に出会い…。中途半端かもしれませんが一応完結です。妊娠という言葉が出てきますが、妊娠はしません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる