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離れの宮3

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 蘭紗様は端的にわかりやすく事実のみを教えてくれた。
不幸な出来事だ。

わずか3才で罪の重さを背負ってしまった久利紗様を思うとつらかった。
……それから、生まれてすぐに母上を亡くしてしまった蘭紗様のことも。
そして、僕は蘭紗様の悲しみを知らずに過ごしていたのかと、呆然となった。

「蘭紗、私は……紗国にそのような悲しい過去があったと知って正直驚いている、そなたの母は体が弱く亡くなったと聞いていたからね」
「あぁ、我も王に即位するまで知らなかったことだ。何度か姉に文を出していたのだが……その中で打ち明けてくれたのだよ」
「他に知っている方はいるの?」
「叔父上と、我の他は数人の侍女と侍従だ」
「神殿長の佐良紗様も、深い事情はご存知ないでしょう。久利紗様が皆様の前に出ないのは体と心が弱いからと思っていらっしゃる。兄が、佐良紗様には全てを伝えなかったので」

喜紗さんがうっすらと微笑んだ。
きっと、亡き兄王を思い出しているのだろう。

「そうか……その、言っては何だが……難しいね。本人は自分の罪の重さに耐えきれずにそのようになさってるのだろうけど、3才なんて……赤子のようなものではないか。魔力が暴発してしまったのなら、それは事故なんだから、ご自分のせいではないだろうに」
「我もそう思っているし、叔父上もそう思っているだろう。もちろん亡き父もだ。だが、姉は『はっきりと意志を持って、弟などいなければいいのにと思った』と『あれははっきりとした私の意志であった』……と。本人からすればあれは、明確に抱いた殺意だったのだろう。今、姉は孤独になることで罪を償っておられるのだ」

蘭紗様はさみしげに呟いた。

「だが……我には会えなくても、薫には会いたいと言うのなら、ぜひ願いは叶えてあげたい。姉の初めての願いだ」
「僕……なぜ、僕なんでしょう」
「折りに触れ、何かと気にかけ贈り物やらをしてくれるそなたのことを、前から気にしていたようだ。しかも、本日の昼前に留紗に出会ったようだが、その後すぐにその文が届いたことからも、姉の気持ちは逸っているようで、薫に会えることを心待ちにしている様子が見て取れる」

僕は一度深呼吸をしてから文を開き中を見た。
美しい字が並んでいた。

蘭紗様あてに、『あなたの大切な方を呼ぶのは不安だろうが、何もせぬので安心してくれ』と書いてある。

そんな一言……いらないのに。
誰も久利紗様を疑ったりしないのに。

「わかりました、僕はもちろん久利紗様にお会いしたいです……早いほうがいいのでしょうか?いつにしましょう」
「私が侍女に返事を持たせ、日時を調整いたしましょう」
「ではおまかせします」

喜紗さんはいい笑顔で頷いてくれた。




 数日後、僕は留紗と翠の手を引いて森の中を歩いていた。
馬車を出すと言ってくれたのだが、どうせなら美しい景色を楽しんで歩きたいと思ったのだ。

「おかあさま!久利紗様のお屋敷はまだですか」
「ん……僕もよくわからないけど」
「もうちょっと先だったような……」

留紗が首を傾げたところで、先導していた侍従の一人が振り向いて微笑んだ。

「この先に泉がございまして、そこの奥になります、もう少しですよ」
「わあ!楽しみ!」

翠はすっかりはしゃいで遠足気分だ。
僕も今日のために色々と用意してきていた。
市井から取り寄せた、すっかりおなじみの和菓子と、翠と二人で作った手作りの焼き菓子、それから阿羅国の緑茶だ。
お気に召してくださればいいのだけど。

「こちらです」

案内人が指し示すのは細い道だった。
そうと言わなければ気づかないようなそれは、ひっそりと森の奥に続いていて、この先にまさか王女の暮らす宮があるなどと、誰も思わないだろうと思った。

鳥がさえずる声を聞きながらその細い道に入ると、やがてチロチロと水の流れる音がしてきた。
そちらを向くと小川が流れており、両端に可愛らしい白い小花が咲き乱れていた。

「この小川は湧き水の出る泉から流れていましてね、これはそのまま城下町の方に流れる川の源流になるのです」
「なるほど、そうですか、美しい流れですね……」

しばらく歩くと急に目の前がひらけて、小さな可愛らしい建物が見えてきた。
壁も屋根瓦も白く、周りの木々に守られるようにあった。

侍女が二人玄関口に立ち、こちらを認めると頭を下げた。

「薫様、翠紗様、留紗様でございますね?久利紗様がお待ちでございます」
「出迎えありがとう」

僕は礼を言い、門をくぐった。

玄関に入ると美しい白木で作られた室内はとても清潔で、そして花の匂いで溢れていた。
見れば様々な場所に生花が飾られ、僕たちを歓迎するために飾ってくれたのかと嬉しくなった。

侍女がすっと襖を開けると、美しい四季の描かれた屏風の前に、幾重にも重ねた着物をお召の久利紗様が正座されていた。
僕はその様子に驚いて一瞬固まってしまった。
まるで雛人形をそのまま大きくしたような美しい人だった。
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