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親友1

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 あれから一ヶ月と少し経って、僕も翠も城で暮らす冬に慣れて来た。
城の中は暖かい。
火鉢が部屋に置かれたり着物に薄綿が入っていたりと、細かな気遣いで僕たちは快適に過ごせている。

特に、開け放たれて外の風が入ってくるのに温かいというのが不思議なんだけど……

居住空間を温めたり涼しくしたりするのは、空間魔法の得意な人が調整してくれているのだと聞いて驚いた。
城にはそれ専門の魔術師がいるのだという。

恒例の王族の食事会は雪を見ながら楽しむという趣旨で、世界中の植物を集めた温室で催された。
ガラス張りの温室は天井も高く、日差しが乱反射してキラキラしてきれいだった。
そこから見える日本庭園には雪が積もり、美しかった。
食事も輝いて見えて、そしてとっても美味しくいただけた。

そして僕は食後にバイオリンを披露して、皆の拍手をいただいた。
はじめて聞いた翠も驚いて楽しそうに体を揺らしていたのが可愛かった。
練習をわざと翠のいない時間を見計らってしていたのが功を奏したかも……ね。

「薫、この前の話だが……」

呼び出されたのは粉雪の降る夕刻、研究所の仕事が終わり、部屋に戻って着替えをした直後だった。

執務室へ寄ると、涼鱗さんの横でカジャルさんが緊張しているのを見て、なんとなくわかった。

「僑から、さらに精度があがったので、そろそろ大丈夫だという報せが来ている。この2人には二日前に話してあるので、夫婦で話し合って結論を出したようだ……そしてやはりカジャルの気持ちは変わらないということでな」

蘭紗様は静かにつぶやくように僕に話してくれた。

そうだよね、夫婦で決めることだよね。
僕は日々彼らと過ごす時間が長いけど、見ていて思うのは、何を失っても得ても、それで2人の間が何か変わるわけではないということ。
2人はとても強い絆で結ばれているから、どんな結果でも大丈夫、そんな気がした。

「はい。僕も……立ち会っても大丈夫なんですか?」
「うむ、僑も、かなりの時間と労力を割いて研究した成果なのに、どこにも披露せずに終わりそうなのだからな、その点は気の毒ではある。だからせめて我らが見届けてやりたいという気持ちもあるのだ」
「なるほど、それもそうですね」

静かに氷入りのアイスティーを飲んでいた涼鱗さんは、粉雪の舞う外をじっと見ていたが、カジャルさんの手を握ってキスをした。
王子様がお姫様にするあれだ……
大事そうにその手をじっと見ている。

「お二人が決めたことなら、僕は応援しますから」
「ふふ……薫がいれば絶対大丈夫な気がするって、言うんだよカジャルが……妬けるよねえ、私がいればじゃなくて、薫がいればなんだから」
「いや、そういう意味じゃないから」

カジャルさんは慌てて否定するが、皆の笑いを誘うだけだった。

「それで、いつ?」
「今日これからだよ、明日から研究所休みだからね、ちょうどいいかもって」

そうなのだ、研究所から1週間お休みなのだ。
順調に増えた研究員にもきちんとお休みをあげなくてはということで、ずっと詰めていた人もいたので一気に皆で冬休みとしたのだ。
この時期を利用して里に帰る研究員もいる。

「カジャルさん緊張してる?」
「んーどうだろう?なんていうか楽しみってのが強いかな」

僕たちは微笑みあった。

蘭紗様と涼鱗さんのどこか心配そうな顔と、僕とカジャルさんの2人の表情は対照的に思えた。

「じゃあ、移動する?」

皆がなんだかいつまでも動かないので、僕が言ってみる。
蘭紗様は僕の腰に手をやり、一緒に歩いてくれた。
涼鱗さんとカジャルさんは手を繋いで僕たちのすぐ後にいる。

……寿命かぁ……

難しいなと思う。
地球人の夫婦の寿命や年齢の違いなど、大きくても50年ぐらいのものだっただろう。
それだって、かなり寂しくつらいだろうけど……
だけどこちらでは長寿の種族とそうでない種族では200年以上なのだ。
片割れに死なれてから、更に何百年も生きなければならないなど、想像もできない苦しみだ……
だけど、その間に出会いがあって他に愛する人ができるかもしれないし。
やがて苦しみや悲しみが癒えていって、ずっと嘆いてばかりでもないのかもしれないし。
まあ、一概には言えないのだけど。

この2人を見ていて思うのは、カジャルさんが先に亡くなったとして、涼鱗さんが他に愛する人を見つけるなんて無いだろうということ。

それはきっと蘭紗様も感じているはず。
だからこそ2人に決断を任せたんだろうと思った。


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