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天駆ける2

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「おなりでございます」

襖がするっと開き、中に入ると、20名ほどの王族がみな起立し、頭を垂れていた。

僕は体をビクッと震わせて立ち止まってしまった。
蘭紗様はそんな僕を上手くエスコートしてくれて、席に着く。

「本日は良く集まってくれた……もう見知っている者もあろうが、ようやく我の嫁を皆に紹介できる……王族みなで薫を大切にしてほしい」

一斉に顔を上げた王族たちは、皆柔和な表情でうんうんと頷いて僕をじっと見つめた。
その中に笑顔の留紗と喜紗さんもいたので少し緊張が解けた。

「……薫です、皆さまご挨拶が遅くなりました。どうぞよろしくお願いします」
「まあまあ、ほほほ」
「可愛らしいお姿ですなあ……お嫁様は確か男性と聞き及んでおりましたが、まるで女神のような美しいお姿であらせられる……蘭紗様に相応しい」
「よき出会いでございましたな、蘭紗様……この爺、これでようやく思い残すことなく旅立てそうじゃぞ」
「何を言う翁、そなたはまだまだ民の為に働いてゆかねばならぬだろう?……それに、我らは皆、薫様のおかげで身に余る魔力と生命力をいただいたのだ。これをお返しせずに世を去る算段をするなど……」
「そうじゃ、そなたは私より3つも年下ではないか」
「ふむ、そうであったな」

わははと一同が笑った後、蘭紗様が着席をとの一言で皆が席に着いた。

……一人の小さな女性だけが立ったままにこやかにこちらを見ていた。
よく見るとその瞳は白く、光を映していないのがわかる。

あ、この人がもしや

「薫様……本当にお美しいお心と清廉なる魔力をお持ちじゃ……わが弟の蘭紗にとって、これほどの出会いがあろうか……わらわは生きていてこれほど感動するのは初めてじゃ」

その女性は真っ黒な髪を腰まで伸ばし、一つに結び長く垂らしていて赤い着物を重ねて一番上に薫と同じような白い紗の羽織を羽織り、にっこりと笑ってくれた。
12,3歳にしか見えない……

「姉上だ、薫」
「あ、はい! 佐良紗様、以後どうぞお見知りおきを……」
「まあ、名を……覚えておいでか……私にこのような美しい弟がもう一人増え、本当にうれしく思うぞ、蘭紗、おめでとう」
「姉上、ありがとうございます……式ではお世話になります」
「ふふ……楽しみじゃの」

佐良紗様は森の神殿の儀式を司る神殿長として、信仰心の篤い森の民と暮らしているのだ。
今回の僕たちの結婚式は、佐良紗様が行ってくれるという。

「しかしなんですなあ……この度お二人の出会いがもたらした瑞兆は凄まじいものでしたな、単なる馬が伝説の天馬になったなどと!」
「本当にそうでございますとも……私も見に行きましたぞ、あれはなんとも神々しくも頼もしく素晴らしい天馬でございましたな」
「しかも、その天馬3頭引きの天駆ける馬車にて阿羅国よりお帰りになった薫様はもはや、伝説のお嫁様でいらっしゃる」
「まことそうよのう……あの様子は神話そのものであった」

皆が楽しく話す内容に、給仕の侍女が入れてくれたアイスティー(常温)を落としそうになった。

……そうなのだ。
僕はあれから、熱も引き体力が戻ったところで帰国となったのだが、さてどうやって帰国するかが問題となった。

空間転移はわりと誰もが使えるのだが、新人君みたいにこの世界のどこからでもヒョイと運べるような力は誰も持っていないのだ。

阿羅国は天突く高い山々と深い渓谷に囲まれた広い盆地の形状をしているのだが、その国を囲む山が厄介で……つまり急すぎる上、高すぎるのだ。
その山を越えることが出来たとしても、次には深い谷、そして今度は深い深い森が続くのだ、魔物がうようよいて人が近寄れないその森が果てしなく続き、そしてようやく阿羅国の隣国である「ヴァヴァル王国」に到着だ。

……ヴァヴァル王国はなんと……龍族の国なんだって……ぜひ獣化したところを見てみたいよねえ……

なので、そんな高低差激しい立地を休みなく飛翔し続ける体力と魔力がないものには、阿羅国には入れないし出れないということになるのだ。
だからこそ守れた阿羅国の秘密、ということなのだろう。

僕の場合、魔力は十分なのだけど肝心の飛翔がまだ安定していないのと、体力不足が懸念されて、どうしようとなっていたところ……

紗国から颯爽と現れたのがその『天馬の天駆ける馬車』だった。

唖然とする僕たちの目の前に天馬たちは着陸すると、すっと首を下げ、優し気なまなざしで僕をじっと見てきた。
天馬たちはあきらかに知性があり、そして僕を認識していて僕を迎えに来ているってすぐにわかった。
感動した僕は3頭の天馬を両手いっぱい広げて抱きしめて「ありがとう!」ってたくさんたくさんお礼を言ったんだよ。

なんでも、厩舎の人たちが僕を迎えに来るために天馬を利用することを思いつき、訓練をしようと綱を付けて空に放したところ、訓練など初めから必要ないくらいに統制の取れた動きで優雅に空を駆けて見せたので、馬車を繋いで約二日目にもう出発したのだという。

そして世にも稀な天駆ける馬車の出来上りなのだ。
ねえ、それって限りなくサンタさんだよね?

「皆には、我の留守の間……国の結界を守ってくれたそうだな、感謝する」
「ええ、久しぶりにあんなに魔力を出しましたが、あれですよ……薫様のもらたしたお力により我らの魔力は非常に上がっておりますのでね、3人ずつでなんとか回せましたぞ」
「とはいえ、やはり私は役立たずで……面目ない」
「何を言う喜紗殿は宰相として忙しくしておられたのだ、出来る者が出来ることをすればよいのだよ」
「僕もそのうち、お役に立てましょうか?」

留紗の可愛らしい声に皆が笑顔で振り向き「うんうん」と頷いた。
ここでも留紗はやはり天使!

「とにかく何もかも……丸く収まってよかったの。薫様が誘拐との一報には肝を冷やしたが」
「無事にお戻りになられたし、そしてまもなく式もございますからなあ」
「楽しみでございますよ」

僕は静かに笑って頷いた。

……ああ僕は、とうとう本当に結婚するんだ。
蘭紗様とずっと一緒に……ずっと幸せに。
そして何があっても、離れたくない。

新人君、見ていてね。
最後会えてうれしかったよ、そしてまたいつか会える日まで、穏やかに過ごしていてね。

隣に座る銀色に光り輝く愛する人を見て自分の幸せを噛み締めた。


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