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第九章 永遠に
仲間たち
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タカシが来てから、40年後にユーチェンは亡くなった。
狐族としては早めの死だったが、病と戦いながらも懸命に生きた最初の王妃を、国民皆が涙で見送った。
百合彦はちょうどアオアイに出かけていて死に目に会えず、かわいそうなことをしたと、今でも胸が痛む。
しかし、先に天に召されている斉井の元へ心安らかに召されたに違いないと、そう、玲陽らに言われ、うなずいた。
クレイダの悲しみは大きかった。
あの二人の絆は、友情に加え、家族愛に近いものがあったように思う。
まるで姉妹のように笑いあい、時には小さなケンカもしていた。
よほどこたえたのか、元々の寿命の関係もあって、徐々に弱り、クレイダも旅立った。
クレイダの死は、阿羅国の建国に携わった者がついに自分だけとなる……という意味も持つ。
彼女は最初から最後まで、俺と共にあろうとし、そして、俺の心配をした。
よその国のことなど気にするな。
好きにすればいいんだから、と、笑ってくれた。
あの陽気な仲間がついに……と、俺の心の穴はさらに広がった。
初めて森で出会ったあの時のことを思い出し、今までありがとうと、何度も言いながら、棺に横たわるクレイダの頭をなでた。
それからさらに60年と少し経った頃、今度はサリヴィスが亡くなった。
能力は桁外れだったが、それでも魔物のようには長く生きられない。
享年134歳、彼は死ぬ直前まで俺のそばにいて見守っていてくれた。
彼の力強さ、そして優しさが懐かしく、涙は枯れることなく流れた。
イバン、クレイダ、エクトル、梢紗、ユーチェンの墓が並ぶその横には、彼自身が削りだした石製の墓標がおかれている。
ある日、阿羅国を見下ろすはるか高嶺から、一人で運び出してきた。
豪傑な彼らしいエピソードを思い出しながら、その墓石を触った。
「阿羅彦様」
振り向くと、玲陽が静かな笑みを浮かべて立っていた。
「ああ、玲陽か」
「はい」
能力の高い蛇族を表す白髪、そして赤い目だった彼、若かりし頃と何一つかわらない玲陽の美しさに思わず微笑んだが、差し出された手を見て、年を取ったと思った。
「お前、ちゃんと検診をうけているか?」
今や、医師が20人を越える大病院がある。
彼らは皆、アオアイで医学を学んだエリートだ。
俺は、年老いた仲間らに、年に一度の検診を義務付けている。
「もちろんですよ、まあ、年なりに悪いところもありますが、大きな病気があるわけではないですよ」
ゆっくりとした動作で俺のそばに座った。
かつて、たくましかった体は痩せはしたが、しなやかさはある。
彼は変わらない優しげな笑みで俺を見つめた。
「阿羅彦様、今度の演奏会、お出になるのですか?」
「まさか、俺のバイオリンなど誰が聞きたいのだ」
慌てる俺を見て、玲陽はからからと笑った。
「いいじゃないですか、阿羅国の者は皆、阿羅彦様の演奏が楽しみですのに」
「笑いものにしたいだけだろうが」
笑う玲陽の顔がまぶしかった。
彼も間もなく俺のそばからいなくなる。
俺は……その悲しみに耐えられるのだろうか……
「阿羅彦様、やりたいことをおやりください。あなたのお考えの通りに」
並んだ5つの墓標を見つめた。
阿羅国の遅い春の兆し、あたたかな日差しを受け、輝いて見えた。
「ここにいる誰もが、あなたの幸せを願っているのですよ、死してもなお、そうでありましょう」
玲陽は俺の手を取った、滑らかで優しく、あたたかな手だった。
「お前の希望はなんだ?」
「私は……そうですねえ、演奏会に出てくださいよ、聞きたいですからね」
そういって屈託のない笑顔を見せてくれた。
狐族としては早めの死だったが、病と戦いながらも懸命に生きた最初の王妃を、国民皆が涙で見送った。
百合彦はちょうどアオアイに出かけていて死に目に会えず、かわいそうなことをしたと、今でも胸が痛む。
しかし、先に天に召されている斉井の元へ心安らかに召されたに違いないと、そう、玲陽らに言われ、うなずいた。
クレイダの悲しみは大きかった。
あの二人の絆は、友情に加え、家族愛に近いものがあったように思う。
まるで姉妹のように笑いあい、時には小さなケンカもしていた。
よほどこたえたのか、元々の寿命の関係もあって、徐々に弱り、クレイダも旅立った。
クレイダの死は、阿羅国の建国に携わった者がついに自分だけとなる……という意味も持つ。
彼女は最初から最後まで、俺と共にあろうとし、そして、俺の心配をした。
よその国のことなど気にするな。
好きにすればいいんだから、と、笑ってくれた。
あの陽気な仲間がついに……と、俺の心の穴はさらに広がった。
初めて森で出会ったあの時のことを思い出し、今までありがとうと、何度も言いながら、棺に横たわるクレイダの頭をなでた。
それからさらに60年と少し経った頃、今度はサリヴィスが亡くなった。
能力は桁外れだったが、それでも魔物のようには長く生きられない。
享年134歳、彼は死ぬ直前まで俺のそばにいて見守っていてくれた。
彼の力強さ、そして優しさが懐かしく、涙は枯れることなく流れた。
イバン、クレイダ、エクトル、梢紗、ユーチェンの墓が並ぶその横には、彼自身が削りだした石製の墓標がおかれている。
ある日、阿羅国を見下ろすはるか高嶺から、一人で運び出してきた。
豪傑な彼らしいエピソードを思い出しながら、その墓石を触った。
「阿羅彦様」
振り向くと、玲陽が静かな笑みを浮かべて立っていた。
「ああ、玲陽か」
「はい」
能力の高い蛇族を表す白髪、そして赤い目だった彼、若かりし頃と何一つかわらない玲陽の美しさに思わず微笑んだが、差し出された手を見て、年を取ったと思った。
「お前、ちゃんと検診をうけているか?」
今や、医師が20人を越える大病院がある。
彼らは皆、アオアイで医学を学んだエリートだ。
俺は、年老いた仲間らに、年に一度の検診を義務付けている。
「もちろんですよ、まあ、年なりに悪いところもありますが、大きな病気があるわけではないですよ」
ゆっくりとした動作で俺のそばに座った。
かつて、たくましかった体は痩せはしたが、しなやかさはある。
彼は変わらない優しげな笑みで俺を見つめた。
「阿羅彦様、今度の演奏会、お出になるのですか?」
「まさか、俺のバイオリンなど誰が聞きたいのだ」
慌てる俺を見て、玲陽はからからと笑った。
「いいじゃないですか、阿羅国の者は皆、阿羅彦様の演奏が楽しみですのに」
「笑いものにしたいだけだろうが」
笑う玲陽の顔がまぶしかった。
彼も間もなく俺のそばからいなくなる。
俺は……その悲しみに耐えられるのだろうか……
「阿羅彦様、やりたいことをおやりください。あなたのお考えの通りに」
並んだ5つの墓標を見つめた。
阿羅国の遅い春の兆し、あたたかな日差しを受け、輝いて見えた。
「ここにいる誰もが、あなたの幸せを願っているのですよ、死してもなお、そうでありましょう」
玲陽は俺の手を取った、滑らかで優しく、あたたかな手だった。
「お前の希望はなんだ?」
「私は……そうですねえ、演奏会に出てくださいよ、聞きたいですからね」
そういって屈託のない笑顔を見せてくれた。
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