俺が出会ったのは、淫魔だった

真白 桐羽

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第九章  永遠に

タカシ・ハーラ・エルノー

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 そっと降りた木々の隙間。
 
 もう少し歩けば間もなく紗国、そういう位置で呆然と立ち尽くす一人の青年を見つけた。
見知らぬ森の中、突然なぜ自分はここに……そう思っているのだろう。
かつての自分がそうだったように。

「君は、どこから来たのだ?」

俺の声に飛び上がるほど驚き、真ん丸な目で俺を振り返ったのは、栗色の髪の若い男だった。
白いカジュアルなシャツにゆったりしたパンツスタイル。
懐かしい服装に、思わず笑みがこぼれた。

「もしや、君も日本から?」
「はい……あ、え?日本からって。じゃあここはどこなんですか!」

叫ぶように話す青年の声は枯れていた。
俺が来るまで、助けを呼び続けていたのかもしれない。
それに、少しなまりがある、目の色も黒ではない薄いブルー、全体的に色素が薄い。
しかし顔の造作はどことなく日本人めいている……親のどちらかが欧州出身、そう感じた。

「大丈夫だよ、私も……かつて、日本から来た。唐突の森の中に移動し、混乱したのを覚えているよ」
「君は……君は一体誰?」
「俺の日本名は、澄川新人、今は阿羅国の国王・阿羅彦だ」
「国王?」

驚愕に見開かれた目からは、絶望の色が見えた。

「最初に伝えておくよ。黙っておくのはフェアじゃないからね。……俺たちのように異世界を渡ってくる人が時折いるんだ。ここではそれを紗国という国がお嫁様として迎える。俺もはじめはそうだったのだろう、だが、俺に迎えは来なかった」
「それじゃ君はどうやって生きてきたんだ?」
「私は淫魔に拾われ、ひとときを過ごし、そして独立した後自分の国を作った。まだまだ新興国だが、ね」

そうしてなぜかこぼれた笑みを止められなかった。
自分がなぜ笑っているのか、わからなかった。

「君は紗国王の伴侶として、つまり、お嫁様として生きたいか? それを望むなら紗国に連れて行こう……で、これは、提案だが……俺の元で過ごすのはどうだろう、君の安全と自由は保障する。ともに、現代日本を知る者同士、手を取り合って国を大きくしてくれないか」

薄いブルーの瞳が揺れた。

「……僕は、バイオリニストだ、演奏会に行くため、飛行機に乗っていたはず……なのだが、気づけばこの森の中にいた」
「バイオリニスト……」

足元を見ると、小さなバックと共に、確かにバイオリンケースが見えた、遠い昔よく見た見慣れた形状、なつかしい薫を思い出した。

「僕は、紗国とやらには行かないよ、君が僕をはじめに見つけ、迎えに来てくれたんだからね。君は僕の恩人だ」
「そう……ともいえるか……」
「僕には夢がある。君のその国で、それが叶うなら……」
「どんな夢だ?」
「バイオリンを、作りたいんだ……」
「作る……と?」
「ああ、母がバイオリニストを夢見ていた人で、僕が職人になることを選ばせてはくれなかった。母の夢を僕が代わりに叶えて演奏者になったにすぎないんだ」
「君の名前を聞いていなかったが……」
「僕は、タカシ・ハーラ・エルノー、日本は父の国、拠点の一つだ、演奏会も数多くした」
「では、タカシ、君の願いを叶えよう。君の好きに、何でも作るがいいよ。でも……たまにでいい、俺にバイオリンを聞かせてくれないか?」

タカシは少し驚いて、そして笑顔になった。

「ああ、もちろんだよ」
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