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第九章 永遠に
エルフの長との語らい
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「阿羅彦殿、どうぞこちらへ」
エルフの長に誘われ、美しく整えられた庭園の木陰で食事となった。
どうすればこのような緻密な細工が施せるのかと、素人目にも思うほどの、見事な意匠のテーブルに椅子、そしてテーブルの上のエルフ料理も、異国情緒があり、めったなことで心が動かなくなってきた俺の心を満たしてくれた。
「色々と、重なりましたな」
金色の髪に金色の瞳、王者の風格で言えばこれまで出会ってきた誰よりも上だ。
「そうですね、年若い者が逝くのを見るのは堪えます。しかも私に関わったためにそのようなことに巻き込まれたとあっては」
「悔やまれる……か」
「そうです、その通りです」
金色に輝く長は、何も言わず、給仕たちを下がらせた。
すでに、料理はすべてテーブルに並べられており、あとは飲み物を選びグラスに注ぐだけ。
日の光を浴び、美しく反射するグラスをじっと見て、俺は立ち上がった。
「私がお入れしましょう、長」
「王自らそのようなことを」
言葉とはうらはらに、長は嬉しそうに冴えた水色の酒を指さした、俺は丁寧に酒を注いだ。
これはエルフの里で取れる水色の果物を使って作られる酒、中原では「エルフ酒」と言われ高級酒だ。
「阿羅彦殿は?」
「私もこれをいただきましょう」
自分のグラスにも同じものを注ぐ。
ボトルをワゴンに戻し、席に再びつくと、どちらからともなく乾杯をした。
「人の寿命というものは、人それぞれ、ケガや病気、また事故で死ぬのも、また寿命。そういうものですぞ」
長の言葉が染み入り、俺のグラスを持つ手が止まった。
「そうかもしれませんね」
「阿羅彦殿が、責任を感じることではありません」
「……そうでしょうか」
「国を背負うということは、そういうこと」
「最近思うのですよ」
「何をです?」
「私は一体、何のために国を興したのだろうかと」
エルフの長はグラスを置き、口をつぐんだ。
「しかし、これから阿羅国をどうしてゆきたいのか、全く何も希望がないわけではないのでは?」
するどい質問に思わず笑みが出た。
「その通りですよ、私はこの期に及んで、まだ……阿羅国を発展させたいと願っているのです」
「それは、当たり前でしょう、あなたの国だ」
「しかし、エクトル、そして梢紗、特に身近にいた二人が、今はもうないということが……これほど……」
言葉の途中で、俺はあの感触を覚え、空を見上げた。
ーー間違いない……これは、紗国のお嫁様が界を渡って来たあの感覚。
「どうなされた、阿羅彦殿」
「申し訳ございません、いま、私の助けが必要な者の気配を感じ取りました」
「……なんと……それは、どちらから?」
「わかりません、紗国の方角かと」
「どうぞ、遠慮なく、我らはまた会える」
「ええ、また、きっと」
俺は立ち上がり、エルフの正式な礼をした、長も立ち上がりそれを返すのを見届け、共に笑顔でうなずきあった。
エルフの長に誘われ、美しく整えられた庭園の木陰で食事となった。
どうすればこのような緻密な細工が施せるのかと、素人目にも思うほどの、見事な意匠のテーブルに椅子、そしてテーブルの上のエルフ料理も、異国情緒があり、めったなことで心が動かなくなってきた俺の心を満たしてくれた。
「色々と、重なりましたな」
金色の髪に金色の瞳、王者の風格で言えばこれまで出会ってきた誰よりも上だ。
「そうですね、年若い者が逝くのを見るのは堪えます。しかも私に関わったためにそのようなことに巻き込まれたとあっては」
「悔やまれる……か」
「そうです、その通りです」
金色に輝く長は、何も言わず、給仕たちを下がらせた。
すでに、料理はすべてテーブルに並べられており、あとは飲み物を選びグラスに注ぐだけ。
日の光を浴び、美しく反射するグラスをじっと見て、俺は立ち上がった。
「私がお入れしましょう、長」
「王自らそのようなことを」
言葉とはうらはらに、長は嬉しそうに冴えた水色の酒を指さした、俺は丁寧に酒を注いだ。
これはエルフの里で取れる水色の果物を使って作られる酒、中原では「エルフ酒」と言われ高級酒だ。
「阿羅彦殿は?」
「私もこれをいただきましょう」
自分のグラスにも同じものを注ぐ。
ボトルをワゴンに戻し、席に再びつくと、どちらからともなく乾杯をした。
「人の寿命というものは、人それぞれ、ケガや病気、また事故で死ぬのも、また寿命。そういうものですぞ」
長の言葉が染み入り、俺のグラスを持つ手が止まった。
「そうかもしれませんね」
「阿羅彦殿が、責任を感じることではありません」
「……そうでしょうか」
「国を背負うということは、そういうこと」
「最近思うのですよ」
「何をです?」
「私は一体、何のために国を興したのだろうかと」
エルフの長はグラスを置き、口をつぐんだ。
「しかし、これから阿羅国をどうしてゆきたいのか、全く何も希望がないわけではないのでは?」
するどい質問に思わず笑みが出た。
「その通りですよ、私はこの期に及んで、まだ……阿羅国を発展させたいと願っているのです」
「それは、当たり前でしょう、あなたの国だ」
「しかし、エクトル、そして梢紗、特に身近にいた二人が、今はもうないということが……これほど……」
言葉の途中で、俺はあの感触を覚え、空を見上げた。
ーー間違いない……これは、紗国のお嫁様が界を渡って来たあの感覚。
「どうなされた、阿羅彦殿」
「申し訳ございません、いま、私の助けが必要な者の気配を感じ取りました」
「……なんと……それは、どちらから?」
「わかりません、紗国の方角かと」
「どうぞ、遠慮なく、我らはまた会える」
「ええ、また、きっと」
俺は立ち上がり、エルフの正式な礼をした、長も立ち上がりそれを返すのを見届け、共に笑顔でうなずきあった。
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