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第九章 永遠に
ニィシェの元で
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時は流れた。
梢紗亡きあと、5年の年月は、俺の心を変えていた。
あの事件の後、紗国でやるべきことをサリヴィスに託し、俺は梢紗を抱きかかえ阿羅国に飛んだのだ。
瞬間移動で帰国することは稀なこと、さらにはその腕に梢紗の亡骸があったものだから、執務室の役人らは慌てふためいた。
それからしばらく、何を見ても色が感じられなかった。
玲陽とアレクシス、葵衣そしてサリヴィスが代わる代わる夜伽に訪れ、彼らの体温を感じる時だけ、いくばくかの喜びを感じた。
だが、その瞬間でさえ、頭の中に血を流して横たわっていた、あの姿が浮かぶのだ。
小さな動かない白い手を取り、優しく撫でた。
久しぶりに訪れたエルフの里、眠り巫女のニィシェの顔をじっと見つめた。
人払いがされた室内、他には誰もいない。
「ここはいつも、綺麗だね、ニィシェ」
俺の声だけが静かな室内に響く。
「外には君の母君が植えたという花が満開だよ」
語りかけたとて、返答などあるはずもない。
だが、それが心地よく感じた。
「愛する人がね、寿命で逝くのを見届ける。俺にはそういう役目があるんだと、悲しくともきちんと見送らねばと、そう思ってきたんだけどね」
そよ風が開け放たれた窓から入って来た。
花の香りとともに。
思わず窓の外を見る。
綺麗に整えられた植木の向こうに、青空が見えた。
「だが……まだ若い梢紗が殺されてしまったんだよ……俺のせいだ」
ニィシェの小さな手は、動かない。
だが、俺を慰めてくれているような気がした。
俺が去った後、紗国に残っていたサリヴィスが各所に知らせ、もちろん捜査もされた。
はじめ、梢紗の亡骸を持ち去ったことで、まず阿羅国が疑われたそうだ。
しかし、斉井の証言、サリヴィスの証言、そして、その場に残された犯人につながる証拠を鑑み、俺にかけられた嫌疑は無くなったらしい。
一緒にいたのがサリヴィスでよかったと思う。
イラフェ族の長だった彼は、紗国においても信用されているのだ。
犯人と思われる人物は、城からそう遠くない場所にある湖にて、見つかった。
男の名はヒリヤ、彼は門矢に幼いころ拾われ育てられた孤児だ。
正式な養子にはならず、使用人として働いていた。
養子になった賢丸の用心棒として、常に息子の側に置くほどに彼のことを信頼していたようだ。
彼には異能があった。
彼の異能のことについては、門矢以外は知らなかったようだが。
ヒリヤという男の異能は、波動を出し、一瞬で辺り一面の生き物を根絶やしにするという強烈なものだ。
何歳ごろに発現したかはわからないが、どこでも気軽に出せるものではない。
しかも、護衛としても使い物にならない異能だ。
発動してしまうと守る対象にまで害が及ぶわけで、一定の範囲にいる者全てに術が効くからだ。
それゆえ、跳光家に一度はおとなしく捕縛された。
その場に守るべき賢丸がいたからだ、彼のそばにいる時にその能力は使えない。
そして牢に入れられた後、彼は隙を狙い能力を発揮した。
逃げ出した彼は門矢で鍛えられた技で警備をかいくぐり、梢紗を見つけた。
城を出る馬車の後ろに紛れ込み、人気の無くなった山道で、その能力を使ったとのことだ。
見つかった時、彼の能力は枯渇しており、再び発現するかどうかもわからなかったそうだが、紗国の者らは彼を恐れ、即座に死刑にしたという。
俺は、なぜ梢紗が彼の目的となったのかを紗国に問うた。
『王族のために……江利紗王のために尽くしてきた門矢家を、江利紗と同じ王族でありながら梢紗が裏切った、賢丸様にケガを負わせ、捕縛した。梢紗は門矢の敵だ』
彼の言葉が本当にその通りだったとすれば、完全なる巻き添えだ、ヒリヤという男の浅慮が梢紗をおそわせた。
そして……梢紗が江利紗のことを調べ上げた理由……それは俺だ。
俺を守るため、阿羅国を敵視する江利紗を追いつめたのだ。
俺と出会わなければ、梢紗はまだ生きていたのかもしれない。
水滴が、小さな白い手に落ちた。
俺の涙か……
「ニィシェ、俺は、何のために阿羅国を作ったのだろうか……」
ニィシェの顔を見た。
白く丸い、あどけない顔は、穏やかな笑みを浮かべているかのような安らかさで、俺を包み込んでくれた。
梢紗亡きあと、5年の年月は、俺の心を変えていた。
あの事件の後、紗国でやるべきことをサリヴィスに託し、俺は梢紗を抱きかかえ阿羅国に飛んだのだ。
瞬間移動で帰国することは稀なこと、さらにはその腕に梢紗の亡骸があったものだから、執務室の役人らは慌てふためいた。
それからしばらく、何を見ても色が感じられなかった。
玲陽とアレクシス、葵衣そしてサリヴィスが代わる代わる夜伽に訪れ、彼らの体温を感じる時だけ、いくばくかの喜びを感じた。
だが、その瞬間でさえ、頭の中に血を流して横たわっていた、あの姿が浮かぶのだ。
小さな動かない白い手を取り、優しく撫でた。
久しぶりに訪れたエルフの里、眠り巫女のニィシェの顔をじっと見つめた。
人払いがされた室内、他には誰もいない。
「ここはいつも、綺麗だね、ニィシェ」
俺の声だけが静かな室内に響く。
「外には君の母君が植えたという花が満開だよ」
語りかけたとて、返答などあるはずもない。
だが、それが心地よく感じた。
「愛する人がね、寿命で逝くのを見届ける。俺にはそういう役目があるんだと、悲しくともきちんと見送らねばと、そう思ってきたんだけどね」
そよ風が開け放たれた窓から入って来た。
花の香りとともに。
思わず窓の外を見る。
綺麗に整えられた植木の向こうに、青空が見えた。
「だが……まだ若い梢紗が殺されてしまったんだよ……俺のせいだ」
ニィシェの小さな手は、動かない。
だが、俺を慰めてくれているような気がした。
俺が去った後、紗国に残っていたサリヴィスが各所に知らせ、もちろん捜査もされた。
はじめ、梢紗の亡骸を持ち去ったことで、まず阿羅国が疑われたそうだ。
しかし、斉井の証言、サリヴィスの証言、そして、その場に残された犯人につながる証拠を鑑み、俺にかけられた嫌疑は無くなったらしい。
一緒にいたのがサリヴィスでよかったと思う。
イラフェ族の長だった彼は、紗国においても信用されているのだ。
犯人と思われる人物は、城からそう遠くない場所にある湖にて、見つかった。
男の名はヒリヤ、彼は門矢に幼いころ拾われ育てられた孤児だ。
正式な養子にはならず、使用人として働いていた。
養子になった賢丸の用心棒として、常に息子の側に置くほどに彼のことを信頼していたようだ。
彼には異能があった。
彼の異能のことについては、門矢以外は知らなかったようだが。
ヒリヤという男の異能は、波動を出し、一瞬で辺り一面の生き物を根絶やしにするという強烈なものだ。
何歳ごろに発現したかはわからないが、どこでも気軽に出せるものではない。
しかも、護衛としても使い物にならない異能だ。
発動してしまうと守る対象にまで害が及ぶわけで、一定の範囲にいる者全てに術が効くからだ。
それゆえ、跳光家に一度はおとなしく捕縛された。
その場に守るべき賢丸がいたからだ、彼のそばにいる時にその能力は使えない。
そして牢に入れられた後、彼は隙を狙い能力を発揮した。
逃げ出した彼は門矢で鍛えられた技で警備をかいくぐり、梢紗を見つけた。
城を出る馬車の後ろに紛れ込み、人気の無くなった山道で、その能力を使ったとのことだ。
見つかった時、彼の能力は枯渇しており、再び発現するかどうかもわからなかったそうだが、紗国の者らは彼を恐れ、即座に死刑にしたという。
俺は、なぜ梢紗が彼の目的となったのかを紗国に問うた。
『王族のために……江利紗王のために尽くしてきた門矢家を、江利紗と同じ王族でありながら梢紗が裏切った、賢丸様にケガを負わせ、捕縛した。梢紗は門矢の敵だ』
彼の言葉が本当にその通りだったとすれば、完全なる巻き添えだ、ヒリヤという男の浅慮が梢紗をおそわせた。
そして……梢紗が江利紗のことを調べ上げた理由……それは俺だ。
俺を守るため、阿羅国を敵視する江利紗を追いつめたのだ。
俺と出会わなければ、梢紗はまだ生きていたのかもしれない。
水滴が、小さな白い手に落ちた。
俺の涙か……
「ニィシェ、俺は、何のために阿羅国を作ったのだろうか……」
ニィシェの顔を見た。
白く丸い、あどけない顔は、穏やかな笑みを浮かべているかのような安らかさで、俺を包み込んでくれた。
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