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第九章 永遠に
再び
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小高い丘、港が一望できる場所に立つ宿から、梢紗が兄に対峙する様が見えた。
俺は、梢紗の無事な姿を見つけ、すぐに飛んで抱きしめてやりたい気持ちをなんとか抑えた。
時刻は昼過ぎ、許可のない飛翔が禁じられている紗国で文字通り飛んでいくことはできない上に、現在はアオアイにいることになっている俺が民衆の前に出て行くことも不可能だ。
俺は常人ではできない遠くを見通せる力を使い、梢紗の顔を見つめた、顔色が悪いこと、そして苦し気な表情であることが気がかりだった。
「我が君」
サリヴィスが横で心配げに俺を見つめた。
「うん、梢紗の顔色が優れない」
「それはまあ……いかに悪人であろうとも、実の兄ですからな。普通の感覚ならば我が手で拘束することは苦しいことでしょう」
「そうだな……」
「しかし、あまりにもひどい門矢のやり口、どう決着をつけるつもりなのでしょうな……」
「門矢だけに罪を着せ、江利紗には関係なかったと言えなくもなかったが、公衆の面前で江利紗を捕縛したとなれば……そうも言ってられんな」
「はじめから、江利紗を見逃すつもりはなかったでしょうな、梢紗殿は」
「やっぱ、また紗国王が変わるんですかね?」
セサは、3階の張り出した屋根の上に座り、遠くの港を見つめながら言った。
イラフェ族は魔物並に視力が良いと、クレイダがいつか言っていた。
俺の場合は、望遠鏡をのぞいているかのように、一点にフォーカスして細部を見るが、彼らにはどう見えているのだろう。
「わからんが……罪を犯した王をそのまま頂いているほど、紗国もお人よしではないだろう」
「だとして、次の王は誰なんです? 梢紗様はうちに戻ってくるでしょ? 一番適正があるのは梢紗様だとは思うけど……」
セサは屈託なくそう言った。
「……梢紗は6番目の王子だ、まだ、江利紗との間に兄が二人いる、紗国の王位継承は年功序列、梢紗がなることはあるまいよ」
「だったらいいですねえ! 梢紗様早く帰ってきてほしいな! あの人優しいし、俺に紗国の剣の扱いも教えてくれるって、約束してくださったしな!」
「セサ……お前、なれなれしくしすぎるなよ、紗国の王子ではなくなったとはいえ、阿羅国においても梢紗様は王に近しい方だ」
「サリヴィス、良いのだよ、梢紗もそれを願っているはず」
もう一度港に視線を戻すと、馬車に乗り込んだ江利紗が騎士団に囲まれ出立する様子が見えた。
梢紗はその場に立ち尽くし、唇を引き結んでいたが、やがて、ゆっくりと馬車に向かって歩き出した。
そして次の瞬間、こちらを向いた。
目があった……そう感じた。
不思議そうな表情を浮かべ、こちらを見つめること数秒、文官に話しかけられ、ふと目をそらし、そのまま数名と馬車に乗り込んだ。
彼には我らを見分けられるほどの視力も遠視能力もないはず、俺の思念が通じたのか……
「こっち……見ましたよね! ね!」
セサが屋根の上で喜んだ。
「馬車で都まで移動となると途中最低でも2度、王族ならば3度、宿を取るはず、王族は決まった場所に宿泊することが多い、そこに先回りというのはいかがか? そうすれば梢紗様とお会いになれますよ」
「ふむ……あちらがそう、望んでいてくれたら良いのだが」
「望んでいないはずないでしょう。梢紗様はただ、我が君に害が及ばないよう、ただその一心で問題解決にあたっておられる。俺にはわかります」
「サリヴィス」
「俺は、共にありながら、みすみす江利紗の策略にはまり、梢紗様を紗国に置いてきてしまった……あの時の梢紗様の気持ちは俺が一番理解できていますぞ」
バタバタと廊下を掛ける音がした、3人とも振り返り、障子を見る。
やがて遠慮がちに声がかけられ、応えをすると、支配人が数名の女中を連れて正座で頭を下げた。
「阿羅彦様……こちらへ梢紗様がお見えになります、たった今連絡がございました」
「え! 梢紗様ここに来るの!」
セサが喜び、屋根からベランダにぴょんと乗って、支配人のほうに駆けて行った。
「はい! 梢紗様にこちらで阿羅彦様がお待ちとそうお伝えしたのです」
「よくやってくれた、感謝する」
サリヴィスの言葉に支配人は笑顔でうなずいた。
俺は、梢紗の無事な姿を見つけ、すぐに飛んで抱きしめてやりたい気持ちをなんとか抑えた。
時刻は昼過ぎ、許可のない飛翔が禁じられている紗国で文字通り飛んでいくことはできない上に、現在はアオアイにいることになっている俺が民衆の前に出て行くことも不可能だ。
俺は常人ではできない遠くを見通せる力を使い、梢紗の顔を見つめた、顔色が悪いこと、そして苦し気な表情であることが気がかりだった。
「我が君」
サリヴィスが横で心配げに俺を見つめた。
「うん、梢紗の顔色が優れない」
「それはまあ……いかに悪人であろうとも、実の兄ですからな。普通の感覚ならば我が手で拘束することは苦しいことでしょう」
「そうだな……」
「しかし、あまりにもひどい門矢のやり口、どう決着をつけるつもりなのでしょうな……」
「門矢だけに罪を着せ、江利紗には関係なかったと言えなくもなかったが、公衆の面前で江利紗を捕縛したとなれば……そうも言ってられんな」
「はじめから、江利紗を見逃すつもりはなかったでしょうな、梢紗殿は」
「やっぱ、また紗国王が変わるんですかね?」
セサは、3階の張り出した屋根の上に座り、遠くの港を見つめながら言った。
イラフェ族は魔物並に視力が良いと、クレイダがいつか言っていた。
俺の場合は、望遠鏡をのぞいているかのように、一点にフォーカスして細部を見るが、彼らにはどう見えているのだろう。
「わからんが……罪を犯した王をそのまま頂いているほど、紗国もお人よしではないだろう」
「だとして、次の王は誰なんです? 梢紗様はうちに戻ってくるでしょ? 一番適正があるのは梢紗様だとは思うけど……」
セサは屈託なくそう言った。
「……梢紗は6番目の王子だ、まだ、江利紗との間に兄が二人いる、紗国の王位継承は年功序列、梢紗がなることはあるまいよ」
「だったらいいですねえ! 梢紗様早く帰ってきてほしいな! あの人優しいし、俺に紗国の剣の扱いも教えてくれるって、約束してくださったしな!」
「セサ……お前、なれなれしくしすぎるなよ、紗国の王子ではなくなったとはいえ、阿羅国においても梢紗様は王に近しい方だ」
「サリヴィス、良いのだよ、梢紗もそれを願っているはず」
もう一度港に視線を戻すと、馬車に乗り込んだ江利紗が騎士団に囲まれ出立する様子が見えた。
梢紗はその場に立ち尽くし、唇を引き結んでいたが、やがて、ゆっくりと馬車に向かって歩き出した。
そして次の瞬間、こちらを向いた。
目があった……そう感じた。
不思議そうな表情を浮かべ、こちらを見つめること数秒、文官に話しかけられ、ふと目をそらし、そのまま数名と馬車に乗り込んだ。
彼には我らを見分けられるほどの視力も遠視能力もないはず、俺の思念が通じたのか……
「こっち……見ましたよね! ね!」
セサが屋根の上で喜んだ。
「馬車で都まで移動となると途中最低でも2度、王族ならば3度、宿を取るはず、王族は決まった場所に宿泊することが多い、そこに先回りというのはいかがか? そうすれば梢紗様とお会いになれますよ」
「ふむ……あちらがそう、望んでいてくれたら良いのだが」
「望んでいないはずないでしょう。梢紗様はただ、我が君に害が及ばないよう、ただその一心で問題解決にあたっておられる。俺にはわかります」
「サリヴィス」
「俺は、共にありながら、みすみす江利紗の策略にはまり、梢紗様を紗国に置いてきてしまった……あの時の梢紗様の気持ちは俺が一番理解できていますぞ」
バタバタと廊下を掛ける音がした、3人とも振り返り、障子を見る。
やがて遠慮がちに声がかけられ、応えをすると、支配人が数名の女中を連れて正座で頭を下げた。
「阿羅彦様……こちらへ梢紗様がお見えになります、たった今連絡がございました」
「え! 梢紗様ここに来るの!」
セサが喜び、屋根からベランダにぴょんと乗って、支配人のほうに駆けて行った。
「はい! 梢紗様にこちらで阿羅彦様がお待ちとそうお伝えしたのです」
「よくやってくれた、感謝する」
サリヴィスの言葉に支配人は笑顔でうなずいた。
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