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第九章 永遠に
母への思い
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ぽつぽつと、雨が降ってきた。
それはやがて強くなり、雨音がうるさく耳に響いた。
ぴかりと稲妻が光り、少し後に恐ろしいほどの大きな雷が鳴った。
「アオアイのスコール、この時期の風物詩だね」
そうつぶやいてから、足元で頭を下げる使者をじっと見つめた。
「お前、その知らせは本当なのかい?」
我の横に立つ侍従は、使者にきつくそう問いただした。
「はい、梢紗様により門矢一門は捕縛され、現在地下牢に入っております、現在、梢紗様により門矢の商いは表も裏も検められているところです」
「なるほど……」
門矢と我との繋がりも、もうわかっているだろうね。
なぜかそう確信できた。
ーーあの子はよくできた”弟”だからね。
「それから……」
「まだあるのか!」
侍従の声が響くと同時に、もう一度稲妻が走った。
使者は顔を上げ、泣きそうな顔で告げた。
「江利紗様……王母殿下がお亡くなりに……」
雷の音で最後は聞き取れなかったが、思わず握りしめた拳に力が入り、一瞬、体が揺れた。
侍従は我を支え、「大丈夫ですか!」と叫んだ。
我は呼吸を整え襟元を直し、足に力を入れた。
母の面影を思う。
体の弱かった我を、あの方が直してくださった。
医師も投げ出す状態の我を、第3王子だった順位の低い我を。
私の主治医が研究していた違法の薬が、門矢の怪しげな資金源から出たものだったとして、感謝はすれど、責めたりはできない。
しかし、必要以上に門矢をかばうこともまた不可能だ、自分の首を絞めるだけ。
ーーだが、何も苦労せずして、周囲の愛を獲得した梢紗のようなものに門矢を裁かれるのは、なんともいえない嫌な気分だった。
「すぐに……支度をせよ。出航することをアオアイの王に伝える文を書く。用意せよ」
「御意」
皆がバタバタと走り用意を急ぐ中、さきほど頭を下げていた男をもう一度見る。
紗国城から港町までは伝書鳥が伝えたはず、鍛えられた鳥の速度は早い、馬車で4日はかかるその道程を半日で飛んだはずだ。
そこから港町の役人であったこの男は、すぐさま高速便でアオアイに来た。
高速が出せる船は乗れる人数が限られ、部屋も豪華ではないが、時間が勝負の商売人たちに人気がある。
それでも紗国からここまで2日はたっぷりとかかる。
時間の経過が気になった……母が亡くなり、門矢が捕縛されて、今頃はもう色々とあぶりだされているだろう。
「高速便で帰国しよう、その手配を」
「……ですが、あれは江利紗様が乗るようなものでは……」
「何を言う、母が亡くなったのだよ、一刻も早く帰国したい」
「……はい……かしこまりました」
私はあえて門矢のことを口にしない。
今後一切だ。
門矢を思った。
幾度となく母と同席で食事をした。
母を見つめるあの視線……あれは、身の程も知らず、我の母を愛していた。
そう、彼は我を愛していたから助けたかったのではない、あいつはあいつの愛する我の母だけを見つめていたのだ。
ーーくだらない。
結局、母だけが私を愛してくれたということか。
ーー落ちるところまで落ちるといいよ、我はお前を切ることで生き残ろう。
母はきっとそう願うはずだからね。
侍従が用意した書類を読み、そこに署名し、アオアイの使用人に託す。
「悪いね、こんな嵐の夜に」
「とんでもございません、我らアオアイ人はこれぐらい慣れておりますよ」
そういって頭を下げ退出していった小さな体を見送り、我はソファーに身を沈めた。
それはやがて強くなり、雨音がうるさく耳に響いた。
ぴかりと稲妻が光り、少し後に恐ろしいほどの大きな雷が鳴った。
「アオアイのスコール、この時期の風物詩だね」
そうつぶやいてから、足元で頭を下げる使者をじっと見つめた。
「お前、その知らせは本当なのかい?」
我の横に立つ侍従は、使者にきつくそう問いただした。
「はい、梢紗様により門矢一門は捕縛され、現在地下牢に入っております、現在、梢紗様により門矢の商いは表も裏も検められているところです」
「なるほど……」
門矢と我との繋がりも、もうわかっているだろうね。
なぜかそう確信できた。
ーーあの子はよくできた”弟”だからね。
「それから……」
「まだあるのか!」
侍従の声が響くと同時に、もう一度稲妻が走った。
使者は顔を上げ、泣きそうな顔で告げた。
「江利紗様……王母殿下がお亡くなりに……」
雷の音で最後は聞き取れなかったが、思わず握りしめた拳に力が入り、一瞬、体が揺れた。
侍従は我を支え、「大丈夫ですか!」と叫んだ。
我は呼吸を整え襟元を直し、足に力を入れた。
母の面影を思う。
体の弱かった我を、あの方が直してくださった。
医師も投げ出す状態の我を、第3王子だった順位の低い我を。
私の主治医が研究していた違法の薬が、門矢の怪しげな資金源から出たものだったとして、感謝はすれど、責めたりはできない。
しかし、必要以上に門矢をかばうこともまた不可能だ、自分の首を絞めるだけ。
ーーだが、何も苦労せずして、周囲の愛を獲得した梢紗のようなものに門矢を裁かれるのは、なんともいえない嫌な気分だった。
「すぐに……支度をせよ。出航することをアオアイの王に伝える文を書く。用意せよ」
「御意」
皆がバタバタと走り用意を急ぐ中、さきほど頭を下げていた男をもう一度見る。
紗国城から港町までは伝書鳥が伝えたはず、鍛えられた鳥の速度は早い、馬車で4日はかかるその道程を半日で飛んだはずだ。
そこから港町の役人であったこの男は、すぐさま高速便でアオアイに来た。
高速が出せる船は乗れる人数が限られ、部屋も豪華ではないが、時間が勝負の商売人たちに人気がある。
それでも紗国からここまで2日はたっぷりとかかる。
時間の経過が気になった……母が亡くなり、門矢が捕縛されて、今頃はもう色々とあぶりだされているだろう。
「高速便で帰国しよう、その手配を」
「……ですが、あれは江利紗様が乗るようなものでは……」
「何を言う、母が亡くなったのだよ、一刻も早く帰国したい」
「……はい……かしこまりました」
私はあえて門矢のことを口にしない。
今後一切だ。
門矢を思った。
幾度となく母と同席で食事をした。
母を見つめるあの視線……あれは、身の程も知らず、我の母を愛していた。
そう、彼は我を愛していたから助けたかったのではない、あいつはあいつの愛する我の母だけを見つめていたのだ。
ーーくだらない。
結局、母だけが私を愛してくれたということか。
ーー落ちるところまで落ちるといいよ、我はお前を切ることで生き残ろう。
母はきっとそう願うはずだからね。
侍従が用意した書類を読み、そこに署名し、アオアイの使用人に託す。
「悪いね、こんな嵐の夜に」
「とんでもございません、我らアオアイ人はこれぐらい慣れておりますよ」
そういって頭を下げ退出していった小さな体を見送り、我はソファーに身を沈めた。
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