俺が出会ったのは、淫魔だった

真白 桐羽

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第九章  永遠に

城からの知らせ

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 数えきれない過ちを犯した。
そのどれもが、愛する人の息子のため。
はじめから、いばらの道だった我が人生に、一度だけ咲いた恋の花にすがったことをいったい誰が責められるというのか。

 私は、年甲斐もなく愛した少女のために、法を犯し続けたのだ。

 ガラガラと馬車が多く通り過ぎる大通り、私はふと立ち止まり、建物の向こうに見える小高い森を見た。

 かつて婚姻を結んだ女がいた、その女がどんな顔だったか、それさえも定かではない。
それほどどうでもよい人だった。
ただ、扱いは間違ったのだろう、あれはすぐに下人の男と恋仲になり出奔した。

私の悪名にまた一つ、『妻に逃げられた男』というものが足された。

だが……こうなるとは思ってもみなかった展開で、かつて『第3王子』だった江利紗様が王になられた。
本当に、こんなことになるとは思ってもみなかった……
これでもう私は手を引こう、いや、引くべきだと、立派なお姿の江利紗様を見てようやく思えた。

動くこともつらくなってきた老体。
どうせ朽ちるのならば、その前に少しは楽にさせてもらおうと、そう思ったとて、誰が否と言うだろう。

 思いのほか立派に育った賢丸は、拾ってきた孤児とは思えぬ美しい子で、くすんだ銀色の髪と尾を持つ。
あの子はおそらくどこかで王族と繋がりがあるのだろうと推測した。

ーー良い子を手に入れた……私は懸命に学ぶあの子の姿を心に浮かべ、目を細めた。
我が子ではないが、ある意味、我が子以上だ。
他に何も持っていない私たちは、お互いだけが家族と言える。

 杖をつき、歩き始めた私に黙って付き従う数名の使用人たちも皆、同様に年を取った。

 その時、馬車のゆるやかな足運びと明らかに違う、馬の駆けて来る音がうるさく聞こえ、振り向いた。
一頭の葦毛の馬は私の前に止まった。
馬上の男は私を見下したまま、馬をいなしながら言葉を発した。

「門矢殿、知らせがございます」
「どこの者か?」
「城の使いです」

そう言われ、軽く目を見開いた。

「……城?」

男はうなずくと、馬からするりと降り、頭を下げ私の耳元に小さな声で告げた。

「王母殿下がお亡くなりになりました、江利紗様は外遊中、このことはまだ公にはできません、しかし、自分がこうなった時にはすぐさまあなたに伝えるようにと、かねてより命じておられましたゆえ、私が参った所存です」

……生涯ただ一人愛した少女……

死ぬにはまだ早い……早いではないか? なぜ。

「それでは……私はこれで」

去ろうとする役人の袖を思わず掴み、私はすがった。

「なぜ……なぜ?」
「詳しくは申せません、お許しを」

頭を深く下げ、同情の表情を浮かべた男はそのまま騎乗し、素早く去って行った。

「お館様!」

使用人たちの声が響き渡る中、私は路地に崩れ落ちた。
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