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第九章 永遠に
孤児
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港町の空気は潮風をはらみ、重く体にまとわりついた。
貴族の乗る豪華客船から降りると、荷物を持ったヒリヤは何も言わずにこちらをちらりと見た。
僕はめんどくさくて彼の視線を無視し、そのまま何も言わずに迎えの馬車に乗った。
「お父様……」
乗り込むと、そこにいつもはいない義父がいた。
真顔で僕を見つめ、そしてふっと静かに微笑んだ。
僕はこの人に助けられた、それは文字通り、海に落ちた僕を救いあげたこともあるが、その後の人生を与えてくれたのもこの人。
あのか弱い少年だった頃から比べれば僕も成長した、だが……まだほんのひよっこだと、義父を見るたびに思う。
この人のようになりたい……この人の役に立ちたいと。
「大きくなったな、賢丸」
「はいお父様、あれからもう8年です」
「今回もうまくやれたようだな」
「ええ、お客様はどなたも満足されていますよ」
幼い子の手を引き、自ら客に差し出す役目。
初めはそれに戸惑い悩み、そして嫌悪すらした。
しかし今は違う、子らを貴族の子として『出荷』するための礼儀作法を教え込む役目、そして自ら交渉までもする。
ーーあれらはどうせ、孤児なのだ、秘密裡に子を欲しがる金持ちに斡旋することの何が悪いというのだ。
それはあれらの幸せにきっと繋がる。
僕はそう信じた。
「今年、20歳になるのか、お前も」
「はい」
義父の目を見つめる、優し気な光をたたえ、微笑むその姿が僕にはなによりも美しく見えた。
「そろそろ、独立を考えても良い時期だね」
「え?」
心臓がどきりと跳ねた。
瞬間「嫌だ!」と叫びそうになる、この方から離れるなんて考えたくもない。
「いやいや、そんな顔をするでないよ、賢丸、私はね、もう表に立つことが年々難しくなっているんだよ、簡単に言えば年を取りすぎた」
「そんなことはございません、お父様はいつまでもお若くお元気で」
「いや、賢丸、私はねお前を養子にした時点で、すでに年寄りだった。どんな薬を飲もうとも今より若くなることはない、誰でも年を取るんだよ」
「それは……」
呆然とし、真っ白の髪と狐耳を見つめた。
「体が年々きつくなる。私は養生しに温泉地に隠居しようと思うのだ、だから、お前に門矢家の当主の座を継いでもらいたいんだよ」
義父は僕の手を取り、そっと撫でた。
「たくましくなった……結婚に失敗し、子をなすことのなかった私だ……このままひとりのまま過ごすだけかと思った晩年を、偶然に出会ったお前を引き取ることで、どれだけ安らいだ時を得たか……」
「お父様……」
「そんな顔をするな、私はまだ死なぬし、それに、お前が別荘に尋ねてくれば良いだけだ、いつでも会えるではないか」
「はい……」
義父は僕の手をポンと叩いた。
「だが、門矢の表の商売、裏の商売、それらを『我が君』のために、お前に託すよ。いいかい、必ず成し遂げてくれ」
僕は言葉にならず、ただうなずいた。
門矢の表の商売は、宿の経営、各地に豪華な宿を建てて経営しているのだ。
優秀な番頭がいて、彼に任せておけば間違いはない。
ただ……義父が『我が君』と呼ぶ方のために人身売買をしていることはいわゆる裏稼業だ。
誰にも悟られることなく遂行しなくてはならない。
『我が君』のために。
「……その……お父様、我が君とは……一体、どなたなのですか」
僕の遠慮がちな質問に義父は目をそらし、そして窓から流れる景色を見つめた。
「今まで言わなくて悪かったね、いっそ知らないほうがお前のためだと思っていたのだが、こうなってはそうもいかない」
「え?」
「江利紗王だよ、我々は江利紗王のために資金を調達する、そういう役目を負っているのだ。これは名誉なことと、そう思うのだよ」
貴族の乗る豪華客船から降りると、荷物を持ったヒリヤは何も言わずにこちらをちらりと見た。
僕はめんどくさくて彼の視線を無視し、そのまま何も言わずに迎えの馬車に乗った。
「お父様……」
乗り込むと、そこにいつもはいない義父がいた。
真顔で僕を見つめ、そしてふっと静かに微笑んだ。
僕はこの人に助けられた、それは文字通り、海に落ちた僕を救いあげたこともあるが、その後の人生を与えてくれたのもこの人。
あのか弱い少年だった頃から比べれば僕も成長した、だが……まだほんのひよっこだと、義父を見るたびに思う。
この人のようになりたい……この人の役に立ちたいと。
「大きくなったな、賢丸」
「はいお父様、あれからもう8年です」
「今回もうまくやれたようだな」
「ええ、お客様はどなたも満足されていますよ」
幼い子の手を引き、自ら客に差し出す役目。
初めはそれに戸惑い悩み、そして嫌悪すらした。
しかし今は違う、子らを貴族の子として『出荷』するための礼儀作法を教え込む役目、そして自ら交渉までもする。
ーーあれらはどうせ、孤児なのだ、秘密裡に子を欲しがる金持ちに斡旋することの何が悪いというのだ。
それはあれらの幸せにきっと繋がる。
僕はそう信じた。
「今年、20歳になるのか、お前も」
「はい」
義父の目を見つめる、優し気な光をたたえ、微笑むその姿が僕にはなによりも美しく見えた。
「そろそろ、独立を考えても良い時期だね」
「え?」
心臓がどきりと跳ねた。
瞬間「嫌だ!」と叫びそうになる、この方から離れるなんて考えたくもない。
「いやいや、そんな顔をするでないよ、賢丸、私はね、もう表に立つことが年々難しくなっているんだよ、簡単に言えば年を取りすぎた」
「そんなことはございません、お父様はいつまでもお若くお元気で」
「いや、賢丸、私はねお前を養子にした時点で、すでに年寄りだった。どんな薬を飲もうとも今より若くなることはない、誰でも年を取るんだよ」
「それは……」
呆然とし、真っ白の髪と狐耳を見つめた。
「体が年々きつくなる。私は養生しに温泉地に隠居しようと思うのだ、だから、お前に門矢家の当主の座を継いでもらいたいんだよ」
義父は僕の手を取り、そっと撫でた。
「たくましくなった……結婚に失敗し、子をなすことのなかった私だ……このままひとりのまま過ごすだけかと思った晩年を、偶然に出会ったお前を引き取ることで、どれだけ安らいだ時を得たか……」
「お父様……」
「そんな顔をするな、私はまだ死なぬし、それに、お前が別荘に尋ねてくれば良いだけだ、いつでも会えるではないか」
「はい……」
義父は僕の手をポンと叩いた。
「だが、門矢の表の商売、裏の商売、それらを『我が君』のために、お前に託すよ。いいかい、必ず成し遂げてくれ」
僕は言葉にならず、ただうなずいた。
門矢の表の商売は、宿の経営、各地に豪華な宿を建てて経営しているのだ。
優秀な番頭がいて、彼に任せておけば間違いはない。
ただ……義父が『我が君』と呼ぶ方のために人身売買をしていることはいわゆる裏稼業だ。
誰にも悟られることなく遂行しなくてはならない。
『我が君』のために。
「……その……お父様、我が君とは……一体、どなたなのですか」
僕の遠慮がちな質問に義父は目をそらし、そして窓から流れる景色を見つめた。
「今まで言わなくて悪かったね、いっそ知らないほうがお前のためだと思っていたのだが、こうなってはそうもいかない」
「え?」
「江利紗王だよ、我々は江利紗王のために資金を調達する、そういう役目を負っているのだ。これは名誉なことと、そう思うのだよ」
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