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第九章 永遠に
探る 梢紗視点
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兄がいない間になんとしても……
窓から眼下の都を見る。
紗国城は山の上にあり、見下ろすと一望できるのだ。
そこに暮らす人々の行き交う姿が小さいがよく見える、小さいころからそれをじっと見ては、思いをはせたものだ。
あれらの人々は、幸せなのだろうか?と。
1週間後、アオアイでは即位式、そして婚儀が行われる予定だ。
世界中の王侯貴族が集まるのだ、きっと、阿羅彦様も出席される。
あのまま阿羅国にいたならば、その横に私もいたのだろう。
今、私は紗国に戻り、臣下として兄に仕えている。
もしもそのアオアイの儀に参加するならば、紗国人としてだっただろう。
だが、私は行かなかった。
体調不良を理由とし、出発の2日前から医師の協力を仰ぎ、寝込む芝居をした。
兄は一度も見舞いに来なかったが、侍従は何度も訪れ私を観察した。
その侍従は兄の幼き頃から側にいた者だ、完全に兄側の者と言える。
「皆さまアオアイにご出発になられました」
「そうか……では、調べを始めるとするか」
声をかけてきたのは私がまだ王子だったころから共にいた侍従ら数名だ。
彼らとともに、兄の悪事を暴くつもりでいる。
「まずは……執務室の書庫になりますか」
「証拠をあさるよりも、聞いた方が早いということもあるだろう……」
「と、申しますと?」
調べると聞いて、一つ一つの書類を調べようとしていたらしい侍従は不思議そうに私の顔を見上げた。
「膨大な資料をひとつひとつ当てもなく漁っても、目的の物は探せないと、そう思うのだよ」
「そうですね……では、どのように?」
「まず、跳光家の者に会いたいと知らせを出してくれ」
「……跳光……了解いたしました」
侍従はいそいそと戸の向こうに消え、一人残ったものがゆっくりとした動作でお茶を差し出した。
「梢紗様、江利紗様の目は残っておりますよ」
「ああ、そうだな」
適温で入れられた茶を飲み、そしてため息をついた。
兄が私に監視を置いているだろうというその指摘はもっともだ。
「めぼしはついているか?」
「はい、その者らは江利紗様から特別手当が出ております、ですので、私にははっきりとわかっております」
静かにそう話す侍従の顔を見た。
幼い私の手を取り、ずっと世話をしてきてくれた彼は、やさしげな眼差しを私に返し、うなずいた。
「跳光が堂々と表門から入ったりはいたしません、大丈夫です」
「そうだな」
「しかし、今、梢紗様は床に伏せっておられるはずの身です、あまり動き回らないほうが良いと思うのです」
「うむ……私はこの部屋から出ずに、誰かに指示をというわけだな」
「はい、我々も監視対象ですから下手に動けませんが、私たちの足となるものはいくらでもおります。梢紗様のためならなんでもしたいと思う者たちです」
心に浮かぶのは阿羅彦様の顔。
私がここに残ることを喜んではいないはずだ、余計な心労をおかけしているという自覚はある。
だが、斉井殿があのまま罰せられれば、それはそれであの方は深い傷を負われることだろう。
私は生きている、だが、斉井殿があのまま地下牢に入れられていれば、処刑されていたかもしれない、斉井殿を救うにはあれしかなかったと、後悔はない。
それなのに、心に浮かぶ阿羅彦様が恋しい、そして、会いたくてたまらない。
夢の中で叫べば、あの人は来てくださる。
それはわかってはいても、この紗国城はあの方にとって敵地にも等しい、そんな場所に呼んだりしてはいけない……
「梢紗様」
目線を上げると、見知った顔が音もなくそこに現れた。
「波海、しばらくだったな」
紗国の隠密行動の要である『跳光家』の家長がそこにいた。
窓から眼下の都を見る。
紗国城は山の上にあり、見下ろすと一望できるのだ。
そこに暮らす人々の行き交う姿が小さいがよく見える、小さいころからそれをじっと見ては、思いをはせたものだ。
あれらの人々は、幸せなのだろうか?と。
1週間後、アオアイでは即位式、そして婚儀が行われる予定だ。
世界中の王侯貴族が集まるのだ、きっと、阿羅彦様も出席される。
あのまま阿羅国にいたならば、その横に私もいたのだろう。
今、私は紗国に戻り、臣下として兄に仕えている。
もしもそのアオアイの儀に参加するならば、紗国人としてだっただろう。
だが、私は行かなかった。
体調不良を理由とし、出発の2日前から医師の協力を仰ぎ、寝込む芝居をした。
兄は一度も見舞いに来なかったが、侍従は何度も訪れ私を観察した。
その侍従は兄の幼き頃から側にいた者だ、完全に兄側の者と言える。
「皆さまアオアイにご出発になられました」
「そうか……では、調べを始めるとするか」
声をかけてきたのは私がまだ王子だったころから共にいた侍従ら数名だ。
彼らとともに、兄の悪事を暴くつもりでいる。
「まずは……執務室の書庫になりますか」
「証拠をあさるよりも、聞いた方が早いということもあるだろう……」
「と、申しますと?」
調べると聞いて、一つ一つの書類を調べようとしていたらしい侍従は不思議そうに私の顔を見上げた。
「膨大な資料をひとつひとつ当てもなく漁っても、目的の物は探せないと、そう思うのだよ」
「そうですね……では、どのように?」
「まず、跳光家の者に会いたいと知らせを出してくれ」
「……跳光……了解いたしました」
侍従はいそいそと戸の向こうに消え、一人残ったものがゆっくりとした動作でお茶を差し出した。
「梢紗様、江利紗様の目は残っておりますよ」
「ああ、そうだな」
適温で入れられた茶を飲み、そしてため息をついた。
兄が私に監視を置いているだろうというその指摘はもっともだ。
「めぼしはついているか?」
「はい、その者らは江利紗様から特別手当が出ております、ですので、私にははっきりとわかっております」
静かにそう話す侍従の顔を見た。
幼い私の手を取り、ずっと世話をしてきてくれた彼は、やさしげな眼差しを私に返し、うなずいた。
「跳光が堂々と表門から入ったりはいたしません、大丈夫です」
「そうだな」
「しかし、今、梢紗様は床に伏せっておられるはずの身です、あまり動き回らないほうが良いと思うのです」
「うむ……私はこの部屋から出ずに、誰かに指示をというわけだな」
「はい、我々も監視対象ですから下手に動けませんが、私たちの足となるものはいくらでもおります。梢紗様のためならなんでもしたいと思う者たちです」
心に浮かぶのは阿羅彦様の顔。
私がここに残ることを喜んではいないはずだ、余計な心労をおかけしているという自覚はある。
だが、斉井殿があのまま罰せられれば、それはそれであの方は深い傷を負われることだろう。
私は生きている、だが、斉井殿があのまま地下牢に入れられていれば、処刑されていたかもしれない、斉井殿を救うにはあれしかなかったと、後悔はない。
それなのに、心に浮かぶ阿羅彦様が恋しい、そして、会いたくてたまらない。
夢の中で叫べば、あの人は来てくださる。
それはわかってはいても、この紗国城はあの方にとって敵地にも等しい、そんな場所に呼んだりしてはいけない……
「梢紗様」
目線を上げると、見知った顔が音もなくそこに現れた。
「波海、しばらくだったな」
紗国の隠密行動の要である『跳光家』の家長がそこにいた。
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