俺が出会ったのは、淫魔だった

真白 桐羽

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第八章  紗国の悪夢

お嫁様2

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「どうして泣くんだ」

俺はその涙をぬぐった。
光り輝く涙の粒は、とめどなく流れた。

「彼は僕を……罵りました。腕が動かない、足が不自由……なんと見栄えの悪いことかと」
「なんだって?」

俺はその言葉を聞いて胸が苦しくなった。
本人さえもまだ受け止めていないだろう不自由な体を、そんな言われ方をして……まだ、少年に見える彼の頭をなでた。

「正式にはお嫁様が来たことを発表を控えると……僕がこんな体だから、紗国の恥になるからと」
「……」

よもや、そんな考えをするとは思いもしなかった。
どこかで、彼の良心を信じた俺が甘かったのか……

「だけど、力の元だからと、毎晩彼は僕を無理やり抱きます、痛くてたまらない、嫌で嫌で苦しくてたまらないのに、僕を怒鳴りつけて勝手に腰を振るのです、僕は不自由な体で逃げることもできずに、目をつむってやり過ごすだけです」

震える右手で、彼は僕にすがった。

「お願いです、助けてください。僕を、あなたのもとへ連れ帰ってください……あぁ……こんなことを言ったって……これは……夢なのに……」

絶望している彼の震える体を、俺は抱き寄せた。
背に回した手で、そっと抱きしめ、そして立ち上がった。

「俺は、半分淫魔だ。夢を通して人に会える」
「……い、淫魔?」

彼は俺の腕の中で目を見開き、俺をじっと見つめた、しかし、やがて嬉しそうに、花がほころぶように微笑んだ。

「だったら! だったらこれはあなたの夢ってことなんですか?」
「ああ、そうだ、その話を聞いて、ここには置いておけない、そう望むなら、俺の国に連れ帰るよ、本当にいいのか? 魂の片割れと別れることになっても」

彼はこくりとうなずいた。

「魂の片割れというのが、あの男のことを言ってるのなら、そんなこと僕にはどうでもいいことです、僕にとって彼は、性犯罪者にすぎないから、あんな男のもとにいたいと思うわけないですよ」
「わかった」

俺はうなずき、そして阿羅国に飛んだ。









 阿羅国の春は美しい。
長く厳しい冬の間に蓄えられた力が一気に芽吹き、森林は若葉の美しい黄緑に彩られ、かわいらしい花々が彩りを添える。
それらすべては、イバンが植えたもの、嬉しそうに『ここにはこの木を』と、そう呟きながら植えていたあの姿を思い出す。

「阿羅彦様、お客人がお目覚めです」
「ああ、行く」

玲陽と梢紗、そしてアレクシスが気遣わしげに俺を見た。

「お前たちも来るんだ、一緒に話を聞くぞ」
「しかし、私のことを受け入れてくださるでしょうか? 阿羅彦様のお話によると、彼は紗国王に暴行を受けていたわけでしょう?」
「特に私は、狐族だし、そして兄と色も同じ」

そう言って目をそらした梢紗の肩に手を置いた。

「お前と江利紗は別の人間だ。それに、彼は男全員に怯えているわけではないと思う、まあこれはカンだが」
「そうでしょうか……」
「ともかく、お前たちも俺が彼を助け、城石の館に連れ帰った時、その場にいたではないか? 彼もお前たちを見たはずだ、大丈夫」

3人は神妙な顔でうなずいた。

 今、阿羅国でも医院の設備を整えようとしている。
医師の佐加江の希望を聞きながら、たくさんの者が病院建設に携わっている。

こちらでは魔力が全てだ、大きな石も大きな木も、彼らは魔力で操り、積み上げる。
それをじっと見つめていると、こちらに気づいた作業員たちが頭を下げた。
俺は手を振りそれに応えた。

「夏の終わりには立派な治療院ができるでしょうなあ」

 現場に立っていたサリヴィスは、日に焼けた黒い肌でニカっと笑った。
彼は進んでこの作業に参加してくれて、指導している。
意外なことに彼はアオアイで建設のことを学んだそうだ。
 イラフェ族は移動して住んでいたが、いつか安住の地を見つけた時に、少しでも役に立てるよう学んだというから、彼の先見の明には恐れ入る。

「サリヴィス、俺たちは今から、彼を見舞うのだが、一緒に行くか?」

サリヴィスは一瞬動きを止め、そしてパンパンと服を叩いて埃を取った。

「ええ、お供します、しかし今このように汗と埃にまみれておりますので、身ぎれいにしてから追い付きますよ」
「ああ、それでは先に行ってるよ」

 俺は現場で働く者らに笑顔を残し、3人を連れ、診療所に向かった。
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