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第八章 紗国の悪夢
お嫁様
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その日の夜、あの気配が来た。
誰かが俺を夢で呼んでいる。
まばゆい白い光が辺り一面にさしていて、俺は思わず目を細め手でひさしを作った。
「そこに、誰か、いるのですか? たす……たすけてください、おねがいします……」
その声には聞き覚えがあった。
しかし、いくら目を凝らしても、光の内部は見えない。
俺はどこかだわからないただただ白い光の中へ足を踏み入れた。
「お前は誰だ?」
手を伸ばし、声の主に差し伸べようにも、前が見えない。
「あ……あなたは、あの時の!」
「あの時の?」
意味はわからないままだが、どんどんと歩みを進め、ついに人の姿を見た。
俺はあまりの驚きに一瞬動きを止めた。
「君……」
「あぁ、やっぱり……」
目の前の布団に寝かされているのは、紗国で助けた『お嫁様』だろうと思われる少年。
日本人らしいその容姿が懐かしく、思わず微笑んだ。
「まだ具合が悪いか」
俺は少し慣れてきたまばゆさの中、膝をついて彼の額にかかる髪をよけた。
汗ばんだ彼は、荒い息のまま、薄く微笑んだ。
「あの時、獣に襲われていた僕を、助けてくれてありがとうございました」
「……いや……それはかまわぬが……まだ熱が下がらないのか?」
俺はあの時、初めて人に医療行為のマネをした。
彼が受けた毒を自分に移し、そして体外に放ったのだ。
だからあの時彼を助けられたはずと、そう思っていたのだが……
俺は思わず手をかざし、彼の体をスキャンしようとした、だがその俺の手を彼は掴み、目に強い光を称えてもう一度言った。
「お願いします、ここから助け出してください」
彼の強い意思がこめられたその言葉に、俺は息をのんだ。
「ここを出たいということか? どうして……ここは君には一番良い場所のはずだろう? 君の運命の人がこの城にはいるだろう?」
俺は脳裏に銀色冷たい顔の男を思い浮かべた。
「……あの人は……」
彼は怯えたように身をすくめ、そしてぶるぶると震えた。
「どうした」
俺は心配になり、彼の頬に手をあてた。
熱さに驚く、熱が高い。
「寒いか?」
「いえ……そうではなくて……僕……」
そう言いながら、彼は布団をそっとはいだ。
彼の細い体があらわになる、薄い着物を一枚着せられただけのその姿は、とても大事にされているようには見えなかった。
彼は右手で左手首を掴み、そしてゆっくりと持ち上げた。
その動作で気づくーーもしかして……
「僕の手は麻痺したままです、あの時あなたが切らずに処置してくれて、今こうやって生きている、それはわかっています、あなたには感謝しかありません。しかし、あの時毒を受けた左腕は完全に麻痺してしまって、そして左の足もしびれが残り、普通には歩けないのです」
「それは……すまなかった……俺の処置が悪かったのかもしれん」
「そうではないのです、あなたはできるだけのことをしてくださった、この国の医師がどれぐらいのレベルなのかはわからないけれど、その人たちもそう言っていました。なかなかできることではないと……ただ、どうやって解毒したのかは、説明できなかったのです、僕は眠っていましたし」
そういわれて苦笑する。
俺のやり方はほかの医師には無理だろう。
「あなたはさっき言いましたよね、僕の運命の人と……それは、紗国王のことですか?」
俺はしばし返答ができなかった。
彼の表情があまりにも固く、何かを拒絶しているような、とても魂の伴侶を得て幸せをかみしめているようには見えなかったのだ。
「……そうだ、君のように、異世界から王の伴侶が舞い落ちる、そのように言い伝えのある国なんだよ」
「僕は……」
彼は眦に涙を浮かべた、悲しそうに。
誰かが俺を夢で呼んでいる。
まばゆい白い光が辺り一面にさしていて、俺は思わず目を細め手でひさしを作った。
「そこに、誰か、いるのですか? たす……たすけてください、おねがいします……」
その声には聞き覚えがあった。
しかし、いくら目を凝らしても、光の内部は見えない。
俺はどこかだわからないただただ白い光の中へ足を踏み入れた。
「お前は誰だ?」
手を伸ばし、声の主に差し伸べようにも、前が見えない。
「あ……あなたは、あの時の!」
「あの時の?」
意味はわからないままだが、どんどんと歩みを進め、ついに人の姿を見た。
俺はあまりの驚きに一瞬動きを止めた。
「君……」
「あぁ、やっぱり……」
目の前の布団に寝かされているのは、紗国で助けた『お嫁様』だろうと思われる少年。
日本人らしいその容姿が懐かしく、思わず微笑んだ。
「まだ具合が悪いか」
俺は少し慣れてきたまばゆさの中、膝をついて彼の額にかかる髪をよけた。
汗ばんだ彼は、荒い息のまま、薄く微笑んだ。
「あの時、獣に襲われていた僕を、助けてくれてありがとうございました」
「……いや……それはかまわぬが……まだ熱が下がらないのか?」
俺はあの時、初めて人に医療行為のマネをした。
彼が受けた毒を自分に移し、そして体外に放ったのだ。
だからあの時彼を助けられたはずと、そう思っていたのだが……
俺は思わず手をかざし、彼の体をスキャンしようとした、だがその俺の手を彼は掴み、目に強い光を称えてもう一度言った。
「お願いします、ここから助け出してください」
彼の強い意思がこめられたその言葉に、俺は息をのんだ。
「ここを出たいということか? どうして……ここは君には一番良い場所のはずだろう? 君の運命の人がこの城にはいるだろう?」
俺は脳裏に銀色冷たい顔の男を思い浮かべた。
「……あの人は……」
彼は怯えたように身をすくめ、そしてぶるぶると震えた。
「どうした」
俺は心配になり、彼の頬に手をあてた。
熱さに驚く、熱が高い。
「寒いか?」
「いえ……そうではなくて……僕……」
そう言いながら、彼は布団をそっとはいだ。
彼の細い体があらわになる、薄い着物を一枚着せられただけのその姿は、とても大事にされているようには見えなかった。
彼は右手で左手首を掴み、そしてゆっくりと持ち上げた。
その動作で気づくーーもしかして……
「僕の手は麻痺したままです、あの時あなたが切らずに処置してくれて、今こうやって生きている、それはわかっています、あなたには感謝しかありません。しかし、あの時毒を受けた左腕は完全に麻痺してしまって、そして左の足もしびれが残り、普通には歩けないのです」
「それは……すまなかった……俺の処置が悪かったのかもしれん」
「そうではないのです、あなたはできるだけのことをしてくださった、この国の医師がどれぐらいのレベルなのかはわからないけれど、その人たちもそう言っていました。なかなかできることではないと……ただ、どうやって解毒したのかは、説明できなかったのです、僕は眠っていましたし」
そういわれて苦笑する。
俺のやり方はほかの医師には無理だろう。
「あなたはさっき言いましたよね、僕の運命の人と……それは、紗国王のことですか?」
俺はしばし返答ができなかった。
彼の表情があまりにも固く、何かを拒絶しているような、とても魂の伴侶を得て幸せをかみしめているようには見えなかったのだ。
「……そうだ、君のように、異世界から王の伴侶が舞い落ちる、そのように言い伝えのある国なんだよ」
「僕は……」
彼は眦に涙を浮かべた、悲しそうに。
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