141 / 196
第八章 紗国の悪夢
地下牢2
しおりを挟む
扉は分厚い鉄製で、真ん中に鍵穴があった。
玲陽はそこに鍵を差し入れて回す、カチリと音が響いた、扉を押し開ける。
重たい鉄の扉だが、サリヴィスは玲陽の横から片手で押した。
「暗すぎないか?」
思わず出た言葉、クレイダのその声は暗闇に吸い込まれていく。
「でも、ここで合ってるね、アタシにはわかるよ、弟の匂いがする」
「そうか」
「あと、血のにおいもね」
クレイダの瞳が暗闇で怪しげに光っていた。
もはや、魔物であることを押さえる必要も無い。
彼女は今、力を解放している。
「この先だ」
夜目が利く俺とクレイダ、玲陽は進もうとするが、さすがに小さな明かりだけでは無理と思ったのか、第3騎士団が携帯用の明かりを灯そうとしている。
しかし、俺たちはかまわず先に進んだ、いや、追いかけていると言う方が当たっている、進んでいるのはクレイダ、弟の匂いをたどっているのだ。
しばらく歩いて、急に走り出すクレイダ、俺と玲陽も後を追った。
ガシャンと音がした。
クレイダが鉄格子を握り込んでいる、そしてそれを左右に押し広げようと力を込めて曲げようとしていた。
俺と玲陽も魔力を込め、それに加勢する。
そして気づいた、血のにおい……それも濃い。
焦るクレイダは腕力だけで鉄を曲げ、牢の中に滑り込んだ。
「エクトル!」
その時ちょうど追いついた第3騎士団とサリヴィスたちは、それぞれランプを掲げ息をのんだ。
エクトルは確かにそこにいた……だが……
天井からぶら下がる荒縄に両手を縛られ、つま先しかついていない足からは大量に出血、床には黒く光る水たまり……あれは血だ。
もはやエクトルは死亡しているのではと皆そう思った。
「阿羅彦様……」
エクトルの弱々しい声がひっそりと聞こえた。
呆然としていたクレイダが慌てて駆け寄る。
「こんな……こんな!」
クレイダは泣きながら吠えるように弟の名を呼び、炎を出して荒縄を焼き切り、サリヴィスや第3騎士団の助けを借りてエクトルの体をどうにか床に横たえた。
「すまなかった、エクトル……お前を置いて国に戻るんじゃなかった」
玲陽の絞り出すような懺悔の声に、エクトルは首を振った。
「そんなことは……玲陽様」
クレイダは弟を抱きしめて泣き続けている。
「姉上、いつからそんなに弱くなって……」
クレイダは咳き込んで言葉にならなかった、エクトルはそんな姉を優しげに見つめた。
「阿羅彦様……これは罠です、どうか早くこの城から出て……」
「いや、私は白玖紗を許すつもりはない」
「しかし……」
「なぜお前は、俺を呼ばなかった、お前が望めば俺は助けに来られたというのに」
「……」
エクトルは静かに微笑んだ。
「私は、単なる臣下です、あなた様の……お手を煩わせるような、そんな貴重な存在では……」
「何を言う……お前のことをどれほど心配したか」
俺はエクトルの手をぎゅっと握った。
弱々しい力でエクトルも握り返す、手はパンパンに腫れていて、色はどす黒く変色していた。
「さいごにお会いできて……うれしかったです……」
「エクトル」
クレイダの嗚咽は続いた。
「私の……」
最後の言葉は誰にも聞き取れなかった。
握る手から力が抜け、重たくなって、生気が失われた顔をじっと見つめた。
最初は姉を頼り阿羅国に来たエクトル、今までの感謝を俺はどう示せばよいか?
いつも静かに、俺の後ろにいてくれた優しい魔物。
お前のことを俺は一生忘れないよ。
カツリ……
入り口から音が響いた。
鼻に皺を寄せ唸るクレイダは、その音の方角に跳躍した。
玲陽はそこに鍵を差し入れて回す、カチリと音が響いた、扉を押し開ける。
重たい鉄の扉だが、サリヴィスは玲陽の横から片手で押した。
「暗すぎないか?」
思わず出た言葉、クレイダのその声は暗闇に吸い込まれていく。
「でも、ここで合ってるね、アタシにはわかるよ、弟の匂いがする」
「そうか」
「あと、血のにおいもね」
クレイダの瞳が暗闇で怪しげに光っていた。
もはや、魔物であることを押さえる必要も無い。
彼女は今、力を解放している。
「この先だ」
夜目が利く俺とクレイダ、玲陽は進もうとするが、さすがに小さな明かりだけでは無理と思ったのか、第3騎士団が携帯用の明かりを灯そうとしている。
しかし、俺たちはかまわず先に進んだ、いや、追いかけていると言う方が当たっている、進んでいるのはクレイダ、弟の匂いをたどっているのだ。
しばらく歩いて、急に走り出すクレイダ、俺と玲陽も後を追った。
ガシャンと音がした。
クレイダが鉄格子を握り込んでいる、そしてそれを左右に押し広げようと力を込めて曲げようとしていた。
俺と玲陽も魔力を込め、それに加勢する。
そして気づいた、血のにおい……それも濃い。
焦るクレイダは腕力だけで鉄を曲げ、牢の中に滑り込んだ。
「エクトル!」
その時ちょうど追いついた第3騎士団とサリヴィスたちは、それぞれランプを掲げ息をのんだ。
エクトルは確かにそこにいた……だが……
天井からぶら下がる荒縄に両手を縛られ、つま先しかついていない足からは大量に出血、床には黒く光る水たまり……あれは血だ。
もはやエクトルは死亡しているのではと皆そう思った。
「阿羅彦様……」
エクトルの弱々しい声がひっそりと聞こえた。
呆然としていたクレイダが慌てて駆け寄る。
「こんな……こんな!」
クレイダは泣きながら吠えるように弟の名を呼び、炎を出して荒縄を焼き切り、サリヴィスや第3騎士団の助けを借りてエクトルの体をどうにか床に横たえた。
「すまなかった、エクトル……お前を置いて国に戻るんじゃなかった」
玲陽の絞り出すような懺悔の声に、エクトルは首を振った。
「そんなことは……玲陽様」
クレイダは弟を抱きしめて泣き続けている。
「姉上、いつからそんなに弱くなって……」
クレイダは咳き込んで言葉にならなかった、エクトルはそんな姉を優しげに見つめた。
「阿羅彦様……これは罠です、どうか早くこの城から出て……」
「いや、私は白玖紗を許すつもりはない」
「しかし……」
「なぜお前は、俺を呼ばなかった、お前が望めば俺は助けに来られたというのに」
「……」
エクトルは静かに微笑んだ。
「私は、単なる臣下です、あなた様の……お手を煩わせるような、そんな貴重な存在では……」
「何を言う……お前のことをどれほど心配したか」
俺はエクトルの手をぎゅっと握った。
弱々しい力でエクトルも握り返す、手はパンパンに腫れていて、色はどす黒く変色していた。
「さいごにお会いできて……うれしかったです……」
「エクトル」
クレイダの嗚咽は続いた。
「私の……」
最後の言葉は誰にも聞き取れなかった。
握る手から力が抜け、重たくなって、生気が失われた顔をじっと見つめた。
最初は姉を頼り阿羅国に来たエクトル、今までの感謝を俺はどう示せばよいか?
いつも静かに、俺の後ろにいてくれた優しい魔物。
お前のことを俺は一生忘れないよ。
カツリ……
入り口から音が響いた。
鼻に皺を寄せ唸るクレイダは、その音の方角に跳躍した。
0
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
冥府への案内人
伊駒辰葉
BL
!注意!
タグはBLになってますが、百合もフツーも入り交じってます。
地雷だという方は危険回避してください。
ガッツリなシーンがあります。
主人公と取り巻く人々の物語です。
群像劇というほどではないですが、登場人物は多めです。
20世紀末くらいの時代設定です。
ファンタジー要素があります。
ギャグは作中にちょっと笑えるやり取りがあるくらいです。
全体的にシリアスです。
色々とガッツリなのでR-15指定にしました。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い


確率は100
春夏
BL
【完結しました】【続編公開中】
現代日本で知り合った2人が異世界で再会してイチャラブしながら冒険を楽しむお話。再会は6章。1話は短めです。Rは3章の後半から、6章からは固定カプ。※つけてます。5話くらいずつアップします。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~
ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。
*マークはR回。(後半になります)
・ご都合主義のなーろっぱです。
・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。
腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手)
・イラストは青城硝子先生です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる