俺が出会ったのは、淫魔だった

真白 桐羽

文字の大きさ
上 下
139 / 196
第八章  紗国の悪夢

文官の話

しおりを挟む
「文になんとあったかは、わからぬが」
「はい」
「私は今、大切な臣下を人質に取られている、その奪還をしにここに来た。下手をすれば国をあげての戦争になりかねない。無断でここまで来ただけでももうすでに、危ない橋を数々渡っている。……しかしだね、今更といったところだが、なるべく穏便にしたいとは思っている」
「はい」
「だが……白玖紗という次代の王になるかもしれない男は、底が知れぬ、何を考え次どう動くか、全く検討がつかない」
「はい……」
「つまり、そなたにも、迷惑をかけることになる。ここを足がかりにするというのは、そういうことだ。覚悟はよいか?」

加尾は頭を下げた。

「私は、文官として城勤めをしております。16で村から出て、ここに一人で住み、試験を受けて入りました。この勤めに私は心から誇りをもっております。ですが、それゆえに、今の紗国の状況を憂いております」
「そうか」
「玖羅紗様は、尊敬できるお方でした。紅葉様をお迎えし、これからの紗国は光り輝くばかりと、そう思っていたのです……ですから、まさかの紅葉様の暗殺、そして玖羅紗様までお亡くなりになって、このようなことがどうしておこったのかと」
「ああそうだな」
「阿羅彦様、紅葉様の暗殺の件……我々下々の文官はみな、口は堅く閉ざしているものの、思いは同じなのですよ」

一瞬、場の空気が変わった。
隙間風もないのに、温度も下がったように感じる。

「紅葉様の暗殺に、白玖紗様がかかわっていたのでは?と」
「加尾どの、それは……」

第3騎士団の団長は加尾の言葉を遮った。

「いえ、言わせてください騎士様。この屋敷を使いたいとおっしゃるのなら、聞いてもらいます」

もはや誰も一言も言わなかった。

「われわれ文官の一部は、あのとき、あの船に白玖紗様もお乗りだったことを知っています。アオアイに向かわれる予定がないのに、なぜ?と随行員の名簿を作りつつ、不思議に思っていたのです。……ですが……あの騒動の後、検分のためもう一度その名簿を見ましたら、見事、白玖紗様のお名前は消えておりました」
「そうか……」
「あの名簿に載っている者たちのうち、生存者はたった3名です、その3名も未だ意識が戻りません。たまたま通りかかった瀬国の船に助けられたのです、その船がなければ、その3名ですら、亡くなっていたと考えられます」
「そうすれば、証拠は残らないということだな」
「はい」
「それらが目覚める可能性は?」
「それはどうでしょうか……それは我々が知るよしもなく」
「よく話してくれた」

加尾はパッと顔を上げた。

「そなたらからしたら私は他国の、しかも、よくわからない新興国の王だ。未だ我らをゴロツキと称する者らも多い。だが、そなたは私たちを信じて話してくれた。礼を言う」
「ハッ」

もう一度、畳に額を付け深く頭を下げる加尾に言った。

「お前の気持ちごと、私たちは白玖紗と対峙するよ。紅葉くれはを殺したのがやつならば、私の友を殺したということになる。どうであれ、許せない」

加尾は頭を下げたまま嗚咽した。

「あ……ありがとうございます……紅葉様はお優しい方で……我々下々のことも見下さず、笑顔で接してくださる方でした……玖羅紗様も……ほんとうに素晴らしい王で……ほんとうに……くやしくて……お願いします、お願いします……阿羅彦様……」

冷えた空気、雨戸を閉めた暗い室内。
たった一つしかないランプは揺れ、俺の心も冷えていった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

庭師の推しごと!~人外と契約したので領主さまを推します~

深山恐竜
BL
「領主の役に立ちたいか? なら、私が力を与えてやろう」  二十年に一度、村では森の精に生贄を捧げることになっている。今年生贄に選ばれたのはこの俺であった。  しかし、生贄の儀式に反対している領主様が俺を救い出してくれた。  俺は美しくてやさしい領主様にすっかり心を奪われてしまう。  ――領主様のお役に立ちたい。  そんな願いをもつようになった俺のもとに、森の精・エラーブルが現れる。  曰く、俺はすでに生贄として森の眷属になっているのだという。  そして彼は俺に契約をもちかける。 「領主の役に立ちたいか? 私と契約するなら力を与えてやってもいい」  俺はすぐに頷いたのだが、契約で得たのは、木と会話する力だった!?  さらに、その契約の対価としてエラーブルのために働くことを命じられる。 「な、なにをすればいいの……?」 「私はあの領主が森を破壊する未来を見た。森を救うために領主の傍に行き、奴の目的を探るのだ!」 「えええええ!?」 領主×平民のじれじれコメディラブストーリー! ―――――――――――――――――――

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

確率は100

春夏
BL
【完結しました】【続編公開中】 現代日本で知り合った2人が異世界で再会してイチャラブしながら冒険を楽しむお話。再会は6章。1話は短めです。Rは3章の後半から、6章からは固定カプ。※つけてます。5話くらいずつアップします。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺

ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。 その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。 呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!? 果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……! 男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?) ~~~~ 主人公総攻めのBLです。 一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。 ※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

処理中です...