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第八章 紗国の悪夢
覚悟の飛翔
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日が沈むのを待ち、我らは第3騎士団に混ざって移動を始めた。
騎士団が全員持ち場を離れるわけにはいかない、一番近くの村までは距離があるものの、大通りに面したこの砦を通る者は多いため、人目があるのだ。
団長はまず、精鋭ばかりの団員の中でも特に魔力の強い者5名を選んだ。
「少なく感じるかもしれませんが、大勢で移動する方が逆に危ないと感じまして」
「そうだな、目立つのはいけない」
俺はうなずく。
「勝算はおありですか?」
単刀直入な質問に思わず苦笑する。
「そうだな、相手の出方はまるで検討がつかん、今のところ全くないよ」
正直に答えると団長はにやりと微笑んだ。
「ここで、あると答えられたら、ついて行くのをやめるところでした」
「そうか」
空は全くの暗闇ではない、青い上弦の月は冴え冴えと紗国を照らし、我々の顔もほどよく見える。
俺の横にぴたりと寄りそうように飛ぶ団長は、「それにしても」と言葉をつなげる。
「城石家の末娘がよもや王妃様とは」
「ユーチェンを知っているのか?」
「ええ、私は梢紗様が幼い頃からずっと護衛官をしておりました。ご学友のユーチェン様のことはもちろん存じ上げております」
「なるほど、そうか」
「城石家から戻ってきた使いによりますと、当主様は現在、城に詰めておられるとのことですよ」
「……ということは、あれからずっとなのか?」
「あれからとは」
「我らが城石家に宿泊したあの夜ですね」
左隣で飛翔する玲陽が答えた。
「ああ、そうだ。幾夜もかかるだろうと、斉井はそう言っていた、もめているのだろうな」
「かもしれませんね」
しばらくすると、街が見えてきた、遠くに月夜に浮かぶ高い城が見える、あの城の地下にエクトルはいる。
はやる気持ちはあるが、北部の長の館へと急ぐ。
後ろを確認すると、クレイダに手を引かれ懸命に飛翔する北部の若者が見えた。
彼の魔力でここまでの速度でしかも長時間飛ぶことは不可能だ。
そこで彼をクレイダが引っ張る形で先に進んでいる。
彼は自信を浮かせていれば良いだけだが、それでもかなりの負担だろう、必死な顔がそれを物語っている。
「あの、緑の屋根の館でございます」
少し声を張り、若者は我らに館の位置を伝えた。
目標に向かい速度を緩め、順番に中庭に降りてゆく。
ドサリと尻餅をつく形で若者もようやく地に足をつけた。
「あの……私がまず、加尾さまにお伝えして参りますので、あの」
若者は疲れと興奮で言葉が途切れた。
その声で起きてきたのか、一人の男が雨戸を開けた。
「え……?」
きょとんとした顔で我らを見る男は、北部の長の面影がある
「ああ、加尾さま! 長からの文でございます!」
転げるようにして前に進み出た北部の若者は、加尾に長からの文を差し出した。
不思議そうにしながらもそれを受け取り、読み始める。
読み進めるうちに、加尾は顔色を変えた。
そして、ハッとした顔で俺を見た。
「阿羅彦様……」
「ああ、私が阿羅彦だ」
「どうぞ、お入りください、ささ、皆様も」
雨戸は大きく開け放たれ、我らは中に通された。
その館は十分な広さがあり、貴族の館ほどではないが、手入れも行き届き居心地のよい場所だった。
我々は皆座布団をもらい、そこにあぐらをかく。
第三騎士団は団長のみ俺たちと一緒に入り、他の団員は外で待ってくれた。
お茶をと言う加尾に、遠慮して座らせた。
「この家に使用人はおらぬのか?」
「はい、我々は地元では長を担う家系ですが、貴族というわけではありませんので、そんなゆとりはありません」
「そうか、それで、そなたは」
「私は、加尾と申します、長の孫になります、現在都で文官をしております」
そうして礼儀正しく頭を下げた。
騎士団が全員持ち場を離れるわけにはいかない、一番近くの村までは距離があるものの、大通りに面したこの砦を通る者は多いため、人目があるのだ。
団長はまず、精鋭ばかりの団員の中でも特に魔力の強い者5名を選んだ。
「少なく感じるかもしれませんが、大勢で移動する方が逆に危ないと感じまして」
「そうだな、目立つのはいけない」
俺はうなずく。
「勝算はおありですか?」
単刀直入な質問に思わず苦笑する。
「そうだな、相手の出方はまるで検討がつかん、今のところ全くないよ」
正直に答えると団長はにやりと微笑んだ。
「ここで、あると答えられたら、ついて行くのをやめるところでした」
「そうか」
空は全くの暗闇ではない、青い上弦の月は冴え冴えと紗国を照らし、我々の顔もほどよく見える。
俺の横にぴたりと寄りそうように飛ぶ団長は、「それにしても」と言葉をつなげる。
「城石家の末娘がよもや王妃様とは」
「ユーチェンを知っているのか?」
「ええ、私は梢紗様が幼い頃からずっと護衛官をしておりました。ご学友のユーチェン様のことはもちろん存じ上げております」
「なるほど、そうか」
「城石家から戻ってきた使いによりますと、当主様は現在、城に詰めておられるとのことですよ」
「……ということは、あれからずっとなのか?」
「あれからとは」
「我らが城石家に宿泊したあの夜ですね」
左隣で飛翔する玲陽が答えた。
「ああ、そうだ。幾夜もかかるだろうと、斉井はそう言っていた、もめているのだろうな」
「かもしれませんね」
しばらくすると、街が見えてきた、遠くに月夜に浮かぶ高い城が見える、あの城の地下にエクトルはいる。
はやる気持ちはあるが、北部の長の館へと急ぐ。
後ろを確認すると、クレイダに手を引かれ懸命に飛翔する北部の若者が見えた。
彼の魔力でここまでの速度でしかも長時間飛ぶことは不可能だ。
そこで彼をクレイダが引っ張る形で先に進んでいる。
彼は自信を浮かせていれば良いだけだが、それでもかなりの負担だろう、必死な顔がそれを物語っている。
「あの、緑の屋根の館でございます」
少し声を張り、若者は我らに館の位置を伝えた。
目標に向かい速度を緩め、順番に中庭に降りてゆく。
ドサリと尻餅をつく形で若者もようやく地に足をつけた。
「あの……私がまず、加尾さまにお伝えして参りますので、あの」
若者は疲れと興奮で言葉が途切れた。
その声で起きてきたのか、一人の男が雨戸を開けた。
「え……?」
きょとんとした顔で我らを見る男は、北部の長の面影がある
「ああ、加尾さま! 長からの文でございます!」
転げるようにして前に進み出た北部の若者は、加尾に長からの文を差し出した。
不思議そうにしながらもそれを受け取り、読み始める。
読み進めるうちに、加尾は顔色を変えた。
そして、ハッとした顔で俺を見た。
「阿羅彦様……」
「ああ、私が阿羅彦だ」
「どうぞ、お入りください、ささ、皆様も」
雨戸は大きく開け放たれ、我らは中に通された。
その館は十分な広さがあり、貴族の館ほどではないが、手入れも行き届き居心地のよい場所だった。
我々は皆座布団をもらい、そこにあぐらをかく。
第三騎士団は団長のみ俺たちと一緒に入り、他の団員は外で待ってくれた。
お茶をと言う加尾に、遠慮して座らせた。
「この家に使用人はおらぬのか?」
「はい、我々は地元では長を担う家系ですが、貴族というわけではありませんので、そんなゆとりはありません」
「そうか、それで、そなたは」
「私は、加尾と申します、長の孫になります、現在都で文官をしております」
そうして礼儀正しく頭を下げた。
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