俺が出会ったのは、淫魔だった

真白 桐羽

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第七章  阿羅国という国

阿羅国の面々

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 雪深い季節、森を飛翔で越え、さらに雪を頂く高嶺を越え、新たなる仲間の梢紗を連れて俺は帰国した。
梢紗は紗国の王子として生まれた者だ、さすがというほかない安定した飛翔にそして魔力の高さ。
難所をこともなげに越え、クレイダを驚かせた。

 城に到着すると、迎えたサリヴィスは何も聞かずに梢紗を歓迎し、そして我々をねぎらった。
そして旅支度を解いた我々は、サリヴィスらが用意した食事会に出席となった。

「阿羅彦様、まさか紗国から王子を連れ帰るとは」

サリヴィスはどこか誇らしげに豪快に笑った。

「いえいえ、私が頼み込んで連れてきてもらったのですよ」

慌てて言う梢紗の顔がかわいらしい。

「サリヴィス、留守を預かってもらって感謝する、何事もなかったか?」
「ええ、我々は冬の仕事をもくもくとしていただけですぞ」

玲陽が俺たちに近づいてきて、サリヴィスに話しかけた。

「これまでのイラフェ族の冬の仕事は、どんなものだったのでしょう?」
「我々は常に動く草原の民であった、厳しい冬の間は南にゆき、活動を休めることは今までなかったわけだ、つまり、冬の仕事というのはここで初めて経験しているわけでな」

サリヴィスの言葉に梢紗が興味を示す。

「そういえば、イラフェ族の移動は広範囲でしたね、南に下る時には紗国を通られるので、秋口の風物詩でしたね」

梢紗は懐かし気に話した。

「ほう、梢紗殿は我々が南に渡るのをご覧になったか?」
「ええ、子供のころは皆で丘の上からじっと観察していたものですよ、魔馬たちの赤い目が子供心にとても恐ろしくてね」

そういって笑顔になった梢紗に玲陽もうなずく。

「ああ、そういえば……夏にはラハームを越えて行かれますよね、私も子供のころ見たことがありますよ」
「ああ、そなたはラハームの出身であったな、ラハームの王とは懇意だ、少ないながら我らの細工物を流通させてもいたしな」
「ええ、ラハームとイラフェ族は縁が深いですから」
「そうなのか?」

俺はそのあたりはよくわからない、素直に疑問を口にすると玲陽が美しい笑顔を見せた。

「はい、ラハームの騎士団の中にはイラフェ出身の者もおりますし、何年かに一度は御前試合もあったのですよ、同じ三日月刀を使う者同士、研鑽しあってきた歴史があります」
「そうなのか……初耳だ」
「俺は中原に行ったことがないからなあ」

所在なげにエルフのアレクシスが呟くと、バンと音を立ててサリヴィスが背を叩いた、衝撃でよろけるアレクシスの体を玲陽が支えて皆が笑いあった。

「俺たちのほうが君の話を聞きたいよ、アレクシス。我らはエルフ達とはそうそう会うことは無かったのだからな」
「ええ、本当にその通りです」

皆の言葉に少し目を丸くしながらアレクシスは語った。

「エルフはね、隠れるのがうまいんですよ。実は各国に使者を放っております。どこにでもいるんですよ?」
「なんだって。いやしかし、さすがにイラフェの中にはおるまいな」

皆が声を出して笑った。

「ん-詳しくはわからないけど、俺たちエルフは森のしずくを交易に使っているのでね、各国の商人らとは行き来があるってことですよ」
「ああ、なるほど、そうだ、森のしずく……我々はあれをラハーム経由で購入していた」
「ええ、もちろんラハームとも取引があります。
「そういえば、エクトルは?」

サリヴィスの問いに玲陽が答える。

「紗国の交易の取り決めが見直されるらしく、責任者として残ってもらいました。本当は私が残るはずだったのですが、少々ここでの仕事が滞っていてね」
「なるほど、しかしエクトルは魔物、大丈夫か?」
「エクトルはもう何年も紗国との取引の場に出ておりますよ、知り合いも多い、まず大丈夫でしょう」

その時、梢紗の顔色が変わった。

「……まさか、エクトル様だけで会議に出席されると?」
「どうした、何かあるのか?」

俺は隣に立つ梢紗に問うた、顔色を無くした梢紗は言いよどみ、眉を寄せた。

「その……心配しすぎかもしれませんが……紗国は今までのような友好関係をどの国とも続行させないでしょう。次代の王は血も涙もない怪物です。万が一エクトル様のことをそれと見抜いてしまったら……」

皆がシンとした。

「アタシの弟は、そうであっても大丈夫。きっと切り抜けるさ」

じっと皆の様子を見ていたクレイダが強くそう言った。

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