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第七章 阿羅国という国
懸念
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紗国の王と王妃がほぼ同時に崩御した報は世界中を駆け巡った。
玖羅紗王は、歴代の紗国王の中でも、気さくな人柄で他国の王族との付き合いが深かった。
まだまだ戦国の世において、玖羅紗王が担った役割は考えるよりも大きかったのだ。
世界の均衡が崩れようとしていた。
1週間かけて行われた王と王妃の葬送の儀、紗国にはその世界の流れを感じ取る余裕はない、しかし、世界は次のリーダーは誰かと狙いを定める。
「王太子は立てていなかったということで?」
「はい、玖羅紗王はまだお若く、そしてまだお子もなかった」
ユーチェンの父、城石家当主の斉井は難しい顔をしていた。
「しかし、順位というものはあるだろう、玖羅紗殿に弟は」
「あります、玖羅紗王は7人弟がおられます、しかし、そのうち3人すでにお亡くなりに、そして、そのうちの2人はすでに臣下に下っておるのです」
「つまり、残り2名がその候補というわけだな」
「そうですな」
浮かない表情のまま、斉井は煙管を火鉢にコンと鳴らし、葉を出した。
「実際問題、臣下に下られた梢紗様が一番相応しく感じます、いや、ここだけの話しですがな……まあ、おいぼれの戯れ言と、そう思ってくだされ」
梢紗と聞いて、はじめてアオアイから紗国の都に足を運んだ際、出迎えてくれた美しい男を脳裏に描いた。
「確かに、梢紗どのは立派な方であった」
「ほう……ご存じか」
「ええ、以前、都に寄った際、出迎えをうけたのだ」
「なるほど、使者をされたのですな」
「その通り」
斉井はフウと息を吐き、晴れやかではない笑顔になった。
「順当にいけば、第二王子、つまり玖羅紗様のすぐ下の弟君ですな」
「紗国では、そういう習わしか?つまり、能力は加味しないと」
「ええ、そうです、順番です」
そういう意味では、俺が会ったことのある梢紗は兄弟でも末子、もったいないことだ。
「名は」
「白玖紗様です」
「どのようなお方か?」
その時ちょうど、襖の向こうから呼ぶ声がした。
「お館様、お迎えでございます」
「ああ、行くとしよう」
返事をして、そして俺を見る。
「阿羅彦王、拙宅にてどうぞごゆるりとなされよ」
「ああ、長逗留はせぬ、明日早くに発つ予定だが、ユーチェンはしばらく預けよう。実家で静養するのもたまには良いだろう」
「ええ、大切にお預かりいたします、ユーチェン……いや王妃様のことはどうぞお任せあれ」
斉井は俺に頭を下げ、そして立ち上がって出かけて行った。
今から城で、主だった貴族、そして王族が集まり次代の王が決まる。
それはあらかじめ決まっていた場合はすぐに済むが、今回の場合、幾晩もかかるだろうということだ。
第二王子は素行に問題がある。
それは阿羅国でさえ知る紗国の内情だ。
その一点さえなければ、残された者らのこのような苦労はなかったはずなのに。
「うまくゆかぬな……」
俺のひとりごとは、冷える空気に寂しく漂った。
◇
夜、何者かの足音に目が覚めた。
長い廊下をまっすぐに歩く音がどんどん近づいてくる。
忍んでいる足の運びではない、迷いのない、後ろ暗いところのない足音だ。
俺は布団から上半身を起こし、そして襖をじっと見つめた。
「……起きておられますか?阿羅彦様……」
一瞬の躊躇の後、声がかかった。
「ああ、起きたよ、そなたは……」
声に聞き覚えがあった。
脳裏に美しい銀髪が浮かぶ。
「まさか……梢紗殿?」
俺の問いに、返答はなく、襖がするりと開いた。
「ご無礼をお許しください、阿羅彦王……」
月夜の青い光を浴びて、ひっそりと輝く銀色の髪がさらりと床に落ちた。
彼は俺に向かって頭を下げて、静かに、ささやくように言った。
「私をどうか、阿羅国に連れて行ってください」
玖羅紗王は、歴代の紗国王の中でも、気さくな人柄で他国の王族との付き合いが深かった。
まだまだ戦国の世において、玖羅紗王が担った役割は考えるよりも大きかったのだ。
世界の均衡が崩れようとしていた。
1週間かけて行われた王と王妃の葬送の儀、紗国にはその世界の流れを感じ取る余裕はない、しかし、世界は次のリーダーは誰かと狙いを定める。
「王太子は立てていなかったということで?」
「はい、玖羅紗王はまだお若く、そしてまだお子もなかった」
ユーチェンの父、城石家当主の斉井は難しい顔をしていた。
「しかし、順位というものはあるだろう、玖羅紗殿に弟は」
「あります、玖羅紗王は7人弟がおられます、しかし、そのうち3人すでにお亡くなりに、そして、そのうちの2人はすでに臣下に下っておるのです」
「つまり、残り2名がその候補というわけだな」
「そうですな」
浮かない表情のまま、斉井は煙管を火鉢にコンと鳴らし、葉を出した。
「実際問題、臣下に下られた梢紗様が一番相応しく感じます、いや、ここだけの話しですがな……まあ、おいぼれの戯れ言と、そう思ってくだされ」
梢紗と聞いて、はじめてアオアイから紗国の都に足を運んだ際、出迎えてくれた美しい男を脳裏に描いた。
「確かに、梢紗どのは立派な方であった」
「ほう……ご存じか」
「ええ、以前、都に寄った際、出迎えをうけたのだ」
「なるほど、使者をされたのですな」
「その通り」
斉井はフウと息を吐き、晴れやかではない笑顔になった。
「順当にいけば、第二王子、つまり玖羅紗様のすぐ下の弟君ですな」
「紗国では、そういう習わしか?つまり、能力は加味しないと」
「ええ、そうです、順番です」
そういう意味では、俺が会ったことのある梢紗は兄弟でも末子、もったいないことだ。
「名は」
「白玖紗様です」
「どのようなお方か?」
その時ちょうど、襖の向こうから呼ぶ声がした。
「お館様、お迎えでございます」
「ああ、行くとしよう」
返事をして、そして俺を見る。
「阿羅彦王、拙宅にてどうぞごゆるりとなされよ」
「ああ、長逗留はせぬ、明日早くに発つ予定だが、ユーチェンはしばらく預けよう。実家で静養するのもたまには良いだろう」
「ええ、大切にお預かりいたします、ユーチェン……いや王妃様のことはどうぞお任せあれ」
斉井は俺に頭を下げ、そして立ち上がって出かけて行った。
今から城で、主だった貴族、そして王族が集まり次代の王が決まる。
それはあらかじめ決まっていた場合はすぐに済むが、今回の場合、幾晩もかかるだろうということだ。
第二王子は素行に問題がある。
それは阿羅国でさえ知る紗国の内情だ。
その一点さえなければ、残された者らのこのような苦労はなかったはずなのに。
「うまくゆかぬな……」
俺のひとりごとは、冷える空気に寂しく漂った。
◇
夜、何者かの足音に目が覚めた。
長い廊下をまっすぐに歩く音がどんどん近づいてくる。
忍んでいる足の運びではない、迷いのない、後ろ暗いところのない足音だ。
俺は布団から上半身を起こし、そして襖をじっと見つめた。
「……起きておられますか?阿羅彦様……」
一瞬の躊躇の後、声がかかった。
「ああ、起きたよ、そなたは……」
声に聞き覚えがあった。
脳裏に美しい銀髪が浮かぶ。
「まさか……梢紗殿?」
俺の問いに、返答はなく、襖がするりと開いた。
「ご無礼をお許しください、阿羅彦王……」
月夜の青い光を浴びて、ひっそりと輝く銀色の髪がさらりと床に落ちた。
彼は俺に向かって頭を下げて、静かに、ささやくように言った。
「私をどうか、阿羅国に連れて行ってください」
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