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第七章 阿羅国という国
青い月夜
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魔馬たちは満月の夜、美しいいななきを響かせ、赤い目を光らせる。
阿羅国の者ははじめから、それを怖がるものはいなかった。
皆、異形のもの、魔のものになれ、どうであれ仲間だという結束が固い。
窓から見える冴えた青い満月を見て、俺は少し微笑んだ。
隣には、たくましい背が見える。
歴戦を物語る古傷も、玲陽のような美麗な男にあるものとは違い、どこか似つかわしい。
その傷跡をそっと指でなぞる。
ふと目を開けたサリヴィスは、俺の腕を引いた。
大きな胸に落ち、そのまま口づけを落とす俺にサリヴィスは、こたえた。
「我が君、眠りが浅いようですな」
「ああ、夜中誰かが俺を呼ぶこともあるし、な」
俺はサリヴィスを見下ろして答えた。
「睡眠を削るのは良くないでしょうに」
「そうだな、そういう考えもあるだろうが」
「それにしても……あなたと寝たら、あなたの夢を一緒に見るというのは、本当でしたな」
俺がサリヴィスの横に肘枕をすると、サリヴィスは上半身を起こして座った。
片膝を立て、そこに太い腕をかける。
一糸まとわぬ姿のその、見事なこと、ため息が出るような肉体美だ。
「そうか、何を見た?」
サリヴィスは俺をじっと見つめた。
「言葉で聞いていたとて、想像もつかぬこと、それらをこの目でまるで、そこにいるかのように、見えましたな」
「つまり、お前は東京を見たか」
「あれは、東京ですか……すばらしい都ですな。なにもかもがこの世界とは違う」
「ああ」
「お寂しいことでしょう、そこにいた見知った人とはもう二度と会えない。我が事を伝える手立てすらもない。どうやってそれを乗り越えられましたか」
豪快な見かけによらず、繊細でやわらかな感性のサリヴィスに微笑んだ。
「さあな、知らぬうちにそれらは過去となった。それだけだ」
俺は起き上がり、窓に近寄った。
この世界の月は青い。
冴え冴えとした青い光が町に落ちている、青く彩られたそれらはどこか幻のようで、今にも消えてしまいそうに思え、胸の奥が不安になる。
サリヴィスに後ろから力強く抱きしめられ、笑顔が浮かんだ。
こんな風に、誰かがつなぎとめてくれなければ、俺はもしかして、霧散してしまうのではないか、ふと、そんな風に思った。
「サリヴィス、心配のし過ぎだ。……俺は今、幸せだよ。皆、俺のもとで生き生きとして暮らしている。……元居た場所で、辛い思いをしていた者も多い。俺は夢を通じ、彼らをここに連れて来た。……この能力ゆえに、外国では誘拐国家とあだ名する者もいるようだが……そもそも、彼らがはじめから大切にされていれば、夢を通じて俺に助けを求めたりなどしなかっただろう。あの噂は自らの非を俺になすりつけているにすぎない」
「ええ、他と群れない我らも、その噂はアオアイで耳に入りましたな、だが、アオアイ、紗国、瀬国と大国が次々に阿羅国と国交を結んでいるさまをみて、皆はそろそろ考えを改めるべきか?あれは噂にすぎなかったのか?となっているはず」
「そうならば、いいのだがな」
その矢面に立ち、外交を担ってきた玲陽の顔を胸に浮かべた。
彼の精悍な顔を見、厳しかったであろう外交を思い知った。
俺のこの特殊な能力のせいで、皆に負担をかけているとしたら……
「阿羅彦様、俺は思うのです、皆はあなたのために働きたいと思っている。これは稀有なことです。どの国も、王の役に立ちたいと国民全員が思っているわけではないでしょう。しかし今の阿羅国はどうです?皆があなたを愛している、あなたのためになろうと必死だ。私はまだこの国に来て日は浅いが、その皆の思いが痛いほど伝わってくる。そして、私も同じですぞ」
「そうか」
俺は、胸に回っているサリヴィスの手をそっと撫で、そして青く輝く景色を見て微笑んだ。
「サリヴィス、ありがとう」
阿羅国の者ははじめから、それを怖がるものはいなかった。
皆、異形のもの、魔のものになれ、どうであれ仲間だという結束が固い。
窓から見える冴えた青い満月を見て、俺は少し微笑んだ。
隣には、たくましい背が見える。
歴戦を物語る古傷も、玲陽のような美麗な男にあるものとは違い、どこか似つかわしい。
その傷跡をそっと指でなぞる。
ふと目を開けたサリヴィスは、俺の腕を引いた。
大きな胸に落ち、そのまま口づけを落とす俺にサリヴィスは、こたえた。
「我が君、眠りが浅いようですな」
「ああ、夜中誰かが俺を呼ぶこともあるし、な」
俺はサリヴィスを見下ろして答えた。
「睡眠を削るのは良くないでしょうに」
「そうだな、そういう考えもあるだろうが」
「それにしても……あなたと寝たら、あなたの夢を一緒に見るというのは、本当でしたな」
俺がサリヴィスの横に肘枕をすると、サリヴィスは上半身を起こして座った。
片膝を立て、そこに太い腕をかける。
一糸まとわぬ姿のその、見事なこと、ため息が出るような肉体美だ。
「そうか、何を見た?」
サリヴィスは俺をじっと見つめた。
「言葉で聞いていたとて、想像もつかぬこと、それらをこの目でまるで、そこにいるかのように、見えましたな」
「つまり、お前は東京を見たか」
「あれは、東京ですか……すばらしい都ですな。なにもかもがこの世界とは違う」
「ああ」
「お寂しいことでしょう、そこにいた見知った人とはもう二度と会えない。我が事を伝える手立てすらもない。どうやってそれを乗り越えられましたか」
豪快な見かけによらず、繊細でやわらかな感性のサリヴィスに微笑んだ。
「さあな、知らぬうちにそれらは過去となった。それだけだ」
俺は起き上がり、窓に近寄った。
この世界の月は青い。
冴え冴えとした青い光が町に落ちている、青く彩られたそれらはどこか幻のようで、今にも消えてしまいそうに思え、胸の奥が不安になる。
サリヴィスに後ろから力強く抱きしめられ、笑顔が浮かんだ。
こんな風に、誰かがつなぎとめてくれなければ、俺はもしかして、霧散してしまうのではないか、ふと、そんな風に思った。
「サリヴィス、心配のし過ぎだ。……俺は今、幸せだよ。皆、俺のもとで生き生きとして暮らしている。……元居た場所で、辛い思いをしていた者も多い。俺は夢を通じ、彼らをここに連れて来た。……この能力ゆえに、外国では誘拐国家とあだ名する者もいるようだが……そもそも、彼らがはじめから大切にされていれば、夢を通じて俺に助けを求めたりなどしなかっただろう。あの噂は自らの非を俺になすりつけているにすぎない」
「ええ、他と群れない我らも、その噂はアオアイで耳に入りましたな、だが、アオアイ、紗国、瀬国と大国が次々に阿羅国と国交を結んでいるさまをみて、皆はそろそろ考えを改めるべきか?あれは噂にすぎなかったのか?となっているはず」
「そうならば、いいのだがな」
その矢面に立ち、外交を担ってきた玲陽の顔を胸に浮かべた。
彼の精悍な顔を見、厳しかったであろう外交を思い知った。
俺のこの特殊な能力のせいで、皆に負担をかけているとしたら……
「阿羅彦様、俺は思うのです、皆はあなたのために働きたいと思っている。これは稀有なことです。どの国も、王の役に立ちたいと国民全員が思っているわけではないでしょう。しかし今の阿羅国はどうです?皆があなたを愛している、あなたのためになろうと必死だ。私はまだこの国に来て日は浅いが、その皆の思いが痛いほど伝わってくる。そして、私も同じですぞ」
「そうか」
俺は、胸に回っているサリヴィスの手をそっと撫で、そして青く輝く景色を見て微笑んだ。
「サリヴィス、ありがとう」
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