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第七章 阿羅国という国
収穫祭の夜
しおりを挟む「寂しかったか?」
阿羅彦様の問いに、私は静かに微笑んだ。
阿羅彦様の私室に二人きり、夕暮れから始まった山菜の収穫祭も、夜も更け終わったところだ。
誘われるまま、私たちはそのままここへ来た。
「アレクシスが、嫌がりませんか?」
私は窓の外を見る阿羅彦様を見つめた。
横顔が美しいお方だ、その芸術のような顔のラインを月の光が銀色に輝かせた。
「そういうことは、言うな」
阿羅彦様は私の手を引き、胸の中に抱きしめた。
「玲陽」
「阿羅彦様」
背中に回した腕で、しっかり阿羅彦様を抱きしめ返した。
耳元で聞こえる阿羅彦様の声が久しぶりで心が高鳴る。
「どうして、呼ばなかった」
「呼べばすぐに来てくださるんでしょうけどね」
「その通りだ」
「ですが、私は阿羅彦様の名代として世界を回りました、正直、毎日毎日勉強に明け暮れておりましてね」
「……なるほど」
私は嘘をついた。
本当は、会いたくて会いたくて仕方なかった。
だけど、私以外との絆も深めてほしかった。
私と入れ違いのように阿羅彦様の元に来たエルフの青年、彼は、永遠のような阿羅彦様の寿命と同等に生きられるのではないか?
ならば私がいなくなった後も、彼がいるのなら大丈夫、そう思いたかった。
そうなるためには私が阿羅彦様を独占していてはダメなのだ。
アレクシスとの絆を育ててもらいたかった。
阿羅彦様の心を守るために。
「阿羅彦様の夢は、何度も見ました。夢なんかではないような、現実であるかのような、そんな夢です」
「俺の夢か?」
阿羅彦様は私の額にかかった髪を横に流して、微笑んだ。
「阿羅彦様以外の夢など……見てもすぐに忘れますよ」
「そうか」
「だから、寂しくなどありませんでした」
鼻と鼻を重ねたまま、長い間見つめあった。
ふいに激しく口づけをされて、一生懸命に応え、そして息をするのも忘れた。
いつの間にか脱がされていく着物、鍛錬で付けた傷を阿羅彦様は見逃さず、指でなぞった。
もの言いたげに私の顔を見て、そしてその傷を舐めた。
傷口から癒しの力が入ってくると同時に、ぴりっとした痛みが走った。
「体を傷つけるな、玲陽」
少し掠れた声でそういった阿羅彦様は、私が出会った頃よりも、さらに長くなった髪をかき上げた。
「たくさんの書簡を、お預かりしております」
阿羅彦様は、なおも私の体を舐めている。
「しかし、その中に、マドア王太子殿下のものはありません、ということは……お会いになってるのですね」
阿羅彦様はふと動きを止めて、私を見つめた。
「ああ、マドアは俺を週に1度は呼ぶ。妻もあるのに」
「あなたの代わりには誰だってなれません、それが自然ですよ」
「……玲陽、おまえは、俺にどうしてほしいのだ」
「今のままでよいのですよ、阿羅彦様、どうか、思うがままに愛に触れてください。私たちが皆、あなたを愛していることを、どうか忘れないでください」
阿羅彦様は、悲し気な瞳を細めて、微笑んだ。
阿羅彦様の問いに、私は静かに微笑んだ。
阿羅彦様の私室に二人きり、夕暮れから始まった山菜の収穫祭も、夜も更け終わったところだ。
誘われるまま、私たちはそのままここへ来た。
「アレクシスが、嫌がりませんか?」
私は窓の外を見る阿羅彦様を見つめた。
横顔が美しいお方だ、その芸術のような顔のラインを月の光が銀色に輝かせた。
「そういうことは、言うな」
阿羅彦様は私の手を引き、胸の中に抱きしめた。
「玲陽」
「阿羅彦様」
背中に回した腕で、しっかり阿羅彦様を抱きしめ返した。
耳元で聞こえる阿羅彦様の声が久しぶりで心が高鳴る。
「どうして、呼ばなかった」
「呼べばすぐに来てくださるんでしょうけどね」
「その通りだ」
「ですが、私は阿羅彦様の名代として世界を回りました、正直、毎日毎日勉強に明け暮れておりましてね」
「……なるほど」
私は嘘をついた。
本当は、会いたくて会いたくて仕方なかった。
だけど、私以外との絆も深めてほしかった。
私と入れ違いのように阿羅彦様の元に来たエルフの青年、彼は、永遠のような阿羅彦様の寿命と同等に生きられるのではないか?
ならば私がいなくなった後も、彼がいるのなら大丈夫、そう思いたかった。
そうなるためには私が阿羅彦様を独占していてはダメなのだ。
アレクシスとの絆を育ててもらいたかった。
阿羅彦様の心を守るために。
「阿羅彦様の夢は、何度も見ました。夢なんかではないような、現実であるかのような、そんな夢です」
「俺の夢か?」
阿羅彦様は私の額にかかった髪を横に流して、微笑んだ。
「阿羅彦様以外の夢など……見てもすぐに忘れますよ」
「そうか」
「だから、寂しくなどありませんでした」
鼻と鼻を重ねたまま、長い間見つめあった。
ふいに激しく口づけをされて、一生懸命に応え、そして息をするのも忘れた。
いつの間にか脱がされていく着物、鍛錬で付けた傷を阿羅彦様は見逃さず、指でなぞった。
もの言いたげに私の顔を見て、そしてその傷を舐めた。
傷口から癒しの力が入ってくると同時に、ぴりっとした痛みが走った。
「体を傷つけるな、玲陽」
少し掠れた声でそういった阿羅彦様は、私が出会った頃よりも、さらに長くなった髪をかき上げた。
「たくさんの書簡を、お預かりしております」
阿羅彦様は、なおも私の体を舐めている。
「しかし、その中に、マドア王太子殿下のものはありません、ということは……お会いになってるのですね」
阿羅彦様はふと動きを止めて、私を見つめた。
「ああ、マドアは俺を週に1度は呼ぶ。妻もあるのに」
「あなたの代わりには誰だってなれません、それが自然ですよ」
「……玲陽、おまえは、俺にどうしてほしいのだ」
「今のままでよいのですよ、阿羅彦様、どうか、思うがままに愛に触れてください。私たちが皆、あなたを愛していることを、どうか忘れないでください」
阿羅彦様は、悲し気な瞳を細めて、微笑んだ。
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