俺が出会ったのは、淫魔だった

真白 桐羽

文字の大きさ
上 下
122 / 196
第七章  阿羅国という国

阿羅国の春

しおりを挟む
エルフの里に行ってから1年後…… その日は晴れて、そしてようやく雪解けの季節を実感していた。

「阿羅彦様」

呼びかけられて、顔をあげ手を止める。
一抱えのほどの籠を持った農園の者が、土がついたままの野菜を持ってにこやかに笑っていた。

「もうそんな時期か」
「はい!」

雪解けとともに芽を出す阿羅国の薬草がある、それはさっぱりとした味わいの山菜で、茹でて食べてもよいし、天ぷらでもよい。
毎年この時期の楽しみとして、皆で分かち合っているのだ。

「それでは今夜は恒例の夜会ですね」
「ああ、それもいいな。ちょうど玲陽も帰っているだろう?」
「はい、先ほど到着され、荷物の整理をしていらっしゃるようですよ」
「そうか、ではそうしてくれ」
「はい!」

執務室で助手をしてくれている3人の仲間が、書類整理の手を止め、こちらを見て微笑んだ。

「阿羅彦様は天ぷらがお好きですね」
「ああ、あれは本当にうまい、昔から好物なのだ」
「そういえば、念願の米ですが、紗国のユーチェン様のご実家より『種もみ』が到着したようですよ、この目録にございます」
「そうか!やっとか!」
「はい、稲作のことを知っている者が何人かおります。クレイダ様の牧場の横に、田を作るのが良いかもしれないということでした」
「あのあたりなら、水を引くのも容易だな」
「ええ、なんでも水はけのよい土なので、適しているとか」

俺は頷き、その目録を手に取った。

「昨年は麦がよく取れましたから、米も豊作になるとよいですね!」

助手らはくるくるとよく働き、楽しそうに俺の好みのことを知りたがった。
 
 この者らは人ではなく魔物だ、クレイダの一族は結局はほとんどがこの阿羅国へと移り住んでくれたのだ。
その際に、他の魔物も呼び込んでくれた。
彼らは姿の異形なものもいるが、結局はそれほど人と変わらない、付き合えばそれがわかった。
ユーチェンなども慣れたもので、今更何を見ても驚かないし、子供たちもすぐに慣れ親しんだ。

変わった国だと、よその者は言うだろう。
異形の者を受け入れない者も、大勢いるだろう。
だが、俺は彼らを守る砦とならなければいけない。
かならず、守って見せる。

その時、扉が静かに開き、衣擦れの音がした。

「ああ、玲陽か」
「はい、阿羅彦様、先ほど戻りまして、荷をほどき、着替えをしてまいりました」
「ご苦労だった。世界中を回ったのだ、苦労したことだろう」
「いえ、そのようなことはありません。阿羅国のためにすこしでもと、努力いたしました、成果はまずますではないかと、思うのですが」

そう言って、微笑んだ。

 元々彫刻のように美しかった玲陽は、エルフの里で見た時よりもさらに痩せ、青年から大人の顔となった気がする。

「無理を、したのでは?痩せたな」
「いえ、痩せてはおりませんが」

そう言って、腹を触る仕草をした。

「ちゃんと食べておるのか?」
「もちろんですよ、ああ、もしかして」
「なんだ?」
「1年前に立ち寄った実家で、久しぶりに剣の稽古をつけてもらいましてね」
「ほう」
「子供のころ、あこがれていた父の護衛なのです。彼と久しぶりに立ち会って、なんと申しますか、少し火がつきましてね」

そう言って、屈託のない笑顔で笑った。

「なるほど、それで、研鑽しておったのだな、旅の最中でも」
「はい、そうです」

俺は頼もしくなった玲陽を見て、その顔から憂いがなくなったことに気づいた。

「……父と和解したのか?」
「はい」

詳しくはここでは話せないが……という顔をした。

「良かったな」

俺は玲陽に微笑んだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

確率は100

春夏
BL
【完結しました】【続編公開中】 現代日本で知り合った2人が異世界で再会してイチャラブしながら冒険を楽しむお話。再会は6章。1話は短めです。Rは3章の後半から、6章からは固定カプ。※つけてます。5話くらいずつアップします。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺

ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。 その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。 呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!? 果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……! 男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?) ~~~~ 主人公総攻めのBLです。 一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。 ※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~

ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。 *マークはR回。(後半になります) ・ご都合主義のなーろっぱです。 ・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。 腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手) ・イラストは青城硝子先生です。

処理中です...