121 / 196
第七章 阿羅国という国
エルフの長4
しおりを挟む
白い小さな花が咲き乱れ、その後ろには水色の少し大きな花が見守るように並んでいる。
そんな少女の夢のような花壇が見えた。
「妻が好きだった花なのだ。気に病んで、早くに亡くなってしまった。娘のことを気にしながら」
「奥方は御病気でしたか」
「悔しいが、そうだ。阿羅彦殿、森のしずくを過信しないことですぞ」
「寿命はには勝てないということですね」
「その通りだ」
再び歩き出した長の横に立ち、さらに神殿の奥へと歩く。
他に付いてくるものは二人の巫女姿の女性。
彼女らは眠っている巫女を世話する役目なのだという。
「娘には、森のしずくを与えておるのだ、日に3度、人であればテーブルについて食事をとる時間にあわせてな」
「森のしずくのみですか?」
「ああ、咀嚼できぬからな。だが、水分ならば喉を動かして飲むことができるできる、おそらく反射なのだろうな」
長は、足をぴたりと止めた。
正面には、美しく輝く白亜の別館があった。
「ここだ」
長の短い説明に、俺は頷いた。
後ろにいた巫女たちが前に来て、呪文を唱え結界を解く、俺たち二人は歩みを進め扉を開いた。
美しく整えられた室内、どこからか香る花の匂い。
長は慣れた様子ですたすたとさらに奥の扉を開いて、中に入っていった。
「阿羅彦殿、どうぞ入られよ」
俺は遠慮なく扉をくぐり、ベッドに近づいた。
そこには幼子が眠っていて、長は優し気なまなざしでゆっくりと頭をなでていた。
「こうして、ずっと眠っておるのだ、生まれた時から一度も目を覚まさずにな。しかし、徐々にだが体は成長しておって、300年をかけてここまで大きくなった。美しく愛らしく成長してくれた」
長は満面の笑みを俺に向けた。
俺はベッドの少女が微笑んでいるように見えた、この子が300年も眠っているとは、どうしても信じられない。
「今日は顔色も良いな」
「はい、表情も出しておられます」
「うむ」
世話役の巫女の言葉に満足そうにそう答えた長は、ベッドに腰を下ろし、なおも娘の頭や頬、そして手を撫で続けた。
「父上がこうやって、会いに来てくれることが嬉しいのでしょうね」
「ほう……阿羅彦殿にはわかるか?」
長は嬉しそうに瞳を輝かせた。
「娘が父親に会えて嬉しいのは当然でしょう」
俺も微笑みを返した、同情するのではなく本心から出た言葉だ、こんなにも慈しまれて、この子はきっと幸せだろうと、そう感じた。
「阿羅彦殿、話してやってはくれないか?」
「何をです?」
「異世界の話だ、それに、阿羅国の開拓の様子をだ、ああ、我が邪魔ならよそへ行くが」
「いえ、あなたにはここにいてくださって構いません」
「そうか、では、そなたらは下がれ」
巫女たちは美しい所作で礼をして下がって行った。
「さて、どこから話せばいいのでしょうね」
眠り続ける少女の姿は10歳ぐらいに見える。
そう考えれば、さぞかし好奇心の強い時期だろうなと、つい笑顔になった。
「そうですね、なんとお呼びしましょうか、名はなんとおっしゃる?」
「ニィシェというのだ」
「そうですか、ニィシェ、初めまして。私は阿羅彦と言いますよ。生まれはこの世界ではありません、日本というこことは違う世界の国で生まれ、そして18歳まで育ちました。日本にいたころの話を、まず話しましょうね、友の話もしましょう」
柔らかな日差しが差し込む美しい室内、ニィシェはまるで起きて聞き入っているかのようにも見えた。
俺は、長に請われるまま、話を続けた。
その時間は、俺がこの世界に来て初めて心休まる瞬間だったのかもしれないと、そう感じた、
ジルにはあまり日本の話はしなかった。
クレイダに話しても信じてもらえなかったし、イバンに話すこともあきらめていた。
心に押し込めるだけだった思い出の数々。
すでにその記憶の大半は薄れ、すべてを思い出すことは困難だ。
父や母の顔でさえ、おぼろになってしまった。
時の長さに圧倒され、その儚さに胸のつぶれる思いをしていた。
しかし、こうして時をゆっくり過ごす人々に会えた。
その事実は俺の心を、少しだけ溶かしてくれた。
そんな少女の夢のような花壇が見えた。
「妻が好きだった花なのだ。気に病んで、早くに亡くなってしまった。娘のことを気にしながら」
「奥方は御病気でしたか」
「悔しいが、そうだ。阿羅彦殿、森のしずくを過信しないことですぞ」
「寿命はには勝てないということですね」
「その通りだ」
再び歩き出した長の横に立ち、さらに神殿の奥へと歩く。
他に付いてくるものは二人の巫女姿の女性。
彼女らは眠っている巫女を世話する役目なのだという。
「娘には、森のしずくを与えておるのだ、日に3度、人であればテーブルについて食事をとる時間にあわせてな」
「森のしずくのみですか?」
「ああ、咀嚼できぬからな。だが、水分ならば喉を動かして飲むことができるできる、おそらく反射なのだろうな」
長は、足をぴたりと止めた。
正面には、美しく輝く白亜の別館があった。
「ここだ」
長の短い説明に、俺は頷いた。
後ろにいた巫女たちが前に来て、呪文を唱え結界を解く、俺たち二人は歩みを進め扉を開いた。
美しく整えられた室内、どこからか香る花の匂い。
長は慣れた様子ですたすたとさらに奥の扉を開いて、中に入っていった。
「阿羅彦殿、どうぞ入られよ」
俺は遠慮なく扉をくぐり、ベッドに近づいた。
そこには幼子が眠っていて、長は優し気なまなざしでゆっくりと頭をなでていた。
「こうして、ずっと眠っておるのだ、生まれた時から一度も目を覚まさずにな。しかし、徐々にだが体は成長しておって、300年をかけてここまで大きくなった。美しく愛らしく成長してくれた」
長は満面の笑みを俺に向けた。
俺はベッドの少女が微笑んでいるように見えた、この子が300年も眠っているとは、どうしても信じられない。
「今日は顔色も良いな」
「はい、表情も出しておられます」
「うむ」
世話役の巫女の言葉に満足そうにそう答えた長は、ベッドに腰を下ろし、なおも娘の頭や頬、そして手を撫で続けた。
「父上がこうやって、会いに来てくれることが嬉しいのでしょうね」
「ほう……阿羅彦殿にはわかるか?」
長は嬉しそうに瞳を輝かせた。
「娘が父親に会えて嬉しいのは当然でしょう」
俺も微笑みを返した、同情するのではなく本心から出た言葉だ、こんなにも慈しまれて、この子はきっと幸せだろうと、そう感じた。
「阿羅彦殿、話してやってはくれないか?」
「何をです?」
「異世界の話だ、それに、阿羅国の開拓の様子をだ、ああ、我が邪魔ならよそへ行くが」
「いえ、あなたにはここにいてくださって構いません」
「そうか、では、そなたらは下がれ」
巫女たちは美しい所作で礼をして下がって行った。
「さて、どこから話せばいいのでしょうね」
眠り続ける少女の姿は10歳ぐらいに見える。
そう考えれば、さぞかし好奇心の強い時期だろうなと、つい笑顔になった。
「そうですね、なんとお呼びしましょうか、名はなんとおっしゃる?」
「ニィシェというのだ」
「そうですか、ニィシェ、初めまして。私は阿羅彦と言いますよ。生まれはこの世界ではありません、日本というこことは違う世界の国で生まれ、そして18歳まで育ちました。日本にいたころの話を、まず話しましょうね、友の話もしましょう」
柔らかな日差しが差し込む美しい室内、ニィシェはまるで起きて聞き入っているかのようにも見えた。
俺は、長に請われるまま、話を続けた。
その時間は、俺がこの世界に来て初めて心休まる瞬間だったのかもしれないと、そう感じた、
ジルにはあまり日本の話はしなかった。
クレイダに話しても信じてもらえなかったし、イバンに話すこともあきらめていた。
心に押し込めるだけだった思い出の数々。
すでにその記憶の大半は薄れ、すべてを思い出すことは困難だ。
父や母の顔でさえ、おぼろになってしまった。
時の長さに圧倒され、その儚さに胸のつぶれる思いをしていた。
しかし、こうして時をゆっくり過ごす人々に会えた。
その事実は俺の心を、少しだけ溶かしてくれた。
0
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
冥府への案内人
伊駒辰葉
BL
!注意!
タグはBLになってますが、百合もフツーも入り交じってます。
地雷だという方は危険回避してください。
ガッツリなシーンがあります。
主人公と取り巻く人々の物語です。
群像劇というほどではないですが、登場人物は多めです。
20世紀末くらいの時代設定です。
ファンタジー要素があります。
ギャグは作中にちょっと笑えるやり取りがあるくらいです。
全体的にシリアスです。
色々とガッツリなのでR-15指定にしました。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い


飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~
ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。
*マークはR回。(後半になります)
・ご都合主義のなーろっぱです。
・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。
腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手)
・イラストは青城硝子先生です。

魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺
ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。
その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。
呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!?
果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……!
男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?)
~~~~
主人公総攻めのBLです。
一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。
※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる