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第七章 阿羅国という国
エルフの長2
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俺は、長が勧めるまま、美しい庭のベンチに腰かけた。
長も、俺の隣に座り、二人で庭を眺める格好となった。
横顔を至近距離でまじまじと見る、本当に若々しく美しい人だ。
「我らは、淫魔とは取引はあったのだがな、品物と対価を場所を決めて置くという方法で接触しておってな、実際にはかち合わぬようにしておった。その理由は言わずともわかるな?」
「ええ、淫魔に近づくことは危険でしょうから」
「その通りだ」
長は頷いた、長くまっすぐな金髪が揺れた。
「だから詳しくは我々も、もっと言うと他の種も、知らないことであっただろうよ。淫魔がそのように魂の形を理解し、さらには作り替えることができたなどと、夢にも思わなかった」
「ええ、そうでしょうとも」
「しかしそのようにしていたとしてもだ、淫魔の力及ばず、半人半魔で生まれ来る者も多かったと見るのが正解だろう。実際にカンビオンとされ、人里離れ一人で暮らす者は過去多くいた」
「そうなのですか」
「どの種からも爪弾きだ、長くは生きられんがな」
俺は遠くにけぶる瀑布を見つめた、美しく虹がかかる様子を見ながら、ジルを思い浮かべる。
「しかし、ここ1000年余り、淫魔の気配が途絶えた、そのように我らは見ているがどうだ」
「……ここではないどこかの森に、いるかもしれませんが」
俺はいつか、ジルから聞いた前置きを言った。
「私を助けたジルの一族は滅びました。私を愛するがゆえに、子を成さないと決めたジルは淫魔の長でした。……長に従った一族は、なるべく催淫の力を出さず、他を誘惑せず、子もなさず、滅びることを選んだのです」
「催淫の力を出さずだと?」
怪訝な顔で長は聞いた、俺は深く頷いた。
「ええ、実際ジルは、尾を根元から引きちぎっておりました。尾は最も淫魔の力の漲るところ。催淫の力を封じるためだったのではと推測します」
信じられないものを見るように、俺を見つめる長は、フウとため息をついた。
「なかなかに……信じられない話だが……そなたは嘘はついておらぬな。……私には異能がある。人の嘘を見抜くのだ。真の心が手に取るようにな、わかるのだ」
そういって、目を細めた。
「それに、そなたも催淫の力を自分で封じ込めておるのだな。微かにはわかるが、影響するほどではない。魔力を感じない者ならばわかるまい。大したものだ」
「ええ、クレイダに教わったのですよ」
「クレイダとは、クサリク族の者だな。クサリクを二人も配下に置いておるのだな、あれらは血族以外を信じない種なのだが」
長は眉を上げ微笑んだ、その美麗な笑顔に引き込まれそうになる。
「一番古い友人なのです。ジルを失った後、森を彷徨う私は同じく彷徨う彼女と出会いました、それ以来ずっと、私の元にいるのです」
「そうか……実に、数奇な運命なのだな、阿羅彦殿」
「ええ……」
「そして……これからも、長い生が、あなたを待っているのだな」
「はい」
「私は現在800歳と少し。おそらくは阿羅彦殿のほうが年嵩であろうな」
「おそらくは」
「しかし、いまだ少年のような若々しい心を持っておられる」
「そうでしょうか?」
「だからこそ……だからこそだ」
俺は長の顔をじっと見つめた。
「心をしっかりと持つのだ、折れぬよう……な」
俺は、長のやさしさに微笑んだ。
長も、俺の隣に座り、二人で庭を眺める格好となった。
横顔を至近距離でまじまじと見る、本当に若々しく美しい人だ。
「我らは、淫魔とは取引はあったのだがな、品物と対価を場所を決めて置くという方法で接触しておってな、実際にはかち合わぬようにしておった。その理由は言わずともわかるな?」
「ええ、淫魔に近づくことは危険でしょうから」
「その通りだ」
長は頷いた、長くまっすぐな金髪が揺れた。
「だから詳しくは我々も、もっと言うと他の種も、知らないことであっただろうよ。淫魔がそのように魂の形を理解し、さらには作り替えることができたなどと、夢にも思わなかった」
「ええ、そうでしょうとも」
「しかしそのようにしていたとしてもだ、淫魔の力及ばず、半人半魔で生まれ来る者も多かったと見るのが正解だろう。実際にカンビオンとされ、人里離れ一人で暮らす者は過去多くいた」
「そうなのですか」
「どの種からも爪弾きだ、長くは生きられんがな」
俺は遠くにけぶる瀑布を見つめた、美しく虹がかかる様子を見ながら、ジルを思い浮かべる。
「しかし、ここ1000年余り、淫魔の気配が途絶えた、そのように我らは見ているがどうだ」
「……ここではないどこかの森に、いるかもしれませんが」
俺はいつか、ジルから聞いた前置きを言った。
「私を助けたジルの一族は滅びました。私を愛するがゆえに、子を成さないと決めたジルは淫魔の長でした。……長に従った一族は、なるべく催淫の力を出さず、他を誘惑せず、子もなさず、滅びることを選んだのです」
「催淫の力を出さずだと?」
怪訝な顔で長は聞いた、俺は深く頷いた。
「ええ、実際ジルは、尾を根元から引きちぎっておりました。尾は最も淫魔の力の漲るところ。催淫の力を封じるためだったのではと推測します」
信じられないものを見るように、俺を見つめる長は、フウとため息をついた。
「なかなかに……信じられない話だが……そなたは嘘はついておらぬな。……私には異能がある。人の嘘を見抜くのだ。真の心が手に取るようにな、わかるのだ」
そういって、目を細めた。
「それに、そなたも催淫の力を自分で封じ込めておるのだな。微かにはわかるが、影響するほどではない。魔力を感じない者ならばわかるまい。大したものだ」
「ええ、クレイダに教わったのですよ」
「クレイダとは、クサリク族の者だな。クサリクを二人も配下に置いておるのだな、あれらは血族以外を信じない種なのだが」
長は眉を上げ微笑んだ、その美麗な笑顔に引き込まれそうになる。
「一番古い友人なのです。ジルを失った後、森を彷徨う私は同じく彷徨う彼女と出会いました、それ以来ずっと、私の元にいるのです」
「そうか……実に、数奇な運命なのだな、阿羅彦殿」
「ええ……」
「そして……これからも、長い生が、あなたを待っているのだな」
「はい」
「私は現在800歳と少し。おそらくは阿羅彦殿のほうが年嵩であろうな」
「おそらくは」
「しかし、いまだ少年のような若々しい心を持っておられる」
「そうでしょうか?」
「だからこそ……だからこそだ」
俺は長の顔をじっと見つめた。
「心をしっかりと持つのだ、折れぬよう……な」
俺は、長のやさしさに微笑んだ。
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