俺が出会ったのは、淫魔だった

真白 桐羽

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第七章  阿羅国という国

里へ

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 眼下に広がるのは、無限に思える広大な森。
玲陽たちはこの森を何度も越え、阿羅国の交易や重要な役割を遂行してくれている。
ただ体力があればいいだけではない、魔力が高ければいいわけでもない。

彼らの思いがあってこそ成し遂げられるもの。
俺に忠誠を誓う彼ら、何ものにも代えがたい、
 


 そろそろ夕暮れに差し掛かろうとする時、アレクシスが止まるように伝えて来た。
我らはピタリと上空で停止した。

「どうした?」
「そろそろ近いから、俺は先に知らせに行ってくるよ」
「ふん……先ぶれが必要か……気取ってるなエルフ様は」

クレイダの憎まれ口にアレクシスは苦笑した。

その瞬間、美しく光る何かに気づき、俺はじっと空間を見つめた。
他の者も俺の様子でそれに気づく。
朝露がきらきらしているような、微かで清浄な気配が、集まってくるのが分かった。

「あっ」

短く声を発したアレクシスの目が見開かれ、落ち着かない態度を見せた。

「いやいやいや……えええ?」
「どうしたんだ、お前」

アレクシスの様子にクレイダが声をかける。
俺はその光を見つめ、なるほどと理解した。

ーーーこれは、迎えだ。

やがて、光が一点に収束し、3人のエルフが現れた。
真ん中のエルフは、真っすぐな長く美しい紫の髪を後ろに垂らし、額には恐ろしく精巧な金の飾りをつけ、ゆったりとした真っ白な装束を纏い、青いガウンをつけていた。

「これアレクシス、お客人をまさかこの空の上でお待たせしようとしていたのか?」

厳しく響く冷たい声、アレクシスは一瞬体を震わせた後うなだれて、小さく「はい」と返事をした。

「まったく……礼儀知らずの若者ゆえ、このような無作法を、申し訳ございませぬ」

全く申し訳なさそうに真ん中のエルフはそう言うと、ふと静かな笑顔を見せて俺をじっと見つめた。

「あなた様が、あの荒地を開拓なさった方なのですね、阿羅彦様」
「その通りだが、あなたは?」
「私はこの無作法者の兄で、長のご指示のもと皆をまとめております、アロイス・シーリンと申します、どうぞお見知りおきを」

なるほどと頷いた。
アレクシスは頭を掻きながら兄を見つめ、こっそりとエクトルの後ろに隠れようとしていた。
それを見て兄のアロイスはため息をついた。

「本当にこのような者を側に置かれるので?」

俺はククっと笑って頷いた。

「彼は私の忠実な臣下ですよ」

アレクシスは嬉しかったのか、真っ赤な顔でエクトルの後ろから顔をのぞかせた。

アロイスはその様子の弟にため息をつき、とにもかくにもと、先を促してくれた。

 眼下はどこを見ても同じ様子のこんもりとした木々の連なり、しかしよく見ると、虹色に輝いているような個所があるのが俺には見えた、そこだけが空気が違う。

迎えの3人もそこを目指しているようだ、つまりあれはエルフの里の気のようなもの……なのかもしれないと、そう考えた。

「この下でございますので、そろそろ着地いたしましょう」

 我らは指示に従い久しぶりに地に落ち着いた。
そこにはさらに数人のエルフが並んで待ち構えており、皆が頭を下げ我らを出迎えてくれた。

「ここから先は結界の中となります。外から見えないのはそれがあるからなのですが」
「なるほど……エルフの里がどこにあるのか、誰も知らないというのはそういうことなのだな」
「ええ、しかしあなた方にこれを授けましょう」

アロイスは後ろに控えていた二人の助手を促し、美しい滑らかな生地の上に置かれた3つの腕輪を我らに渡した。

「その腕輪のある者は、エルフ族と同じようにこの結界を行き来できます」
「まさか……腕輪を渡すのですか!」

アロイスは弟を冷ややかな目で見て答えた。

「長が、お前がそこまで言うのならとお考えになったこと。感謝は長に」
「……なるほど」

アレクシスは右手を顎に置き、しばし考えてそしてそっと俺に耳打ちした。

「結界の中に入るだけならば、エルフと手を繋げばいいのだけど、長はアラトたちをエルフ同然に思って出入り自由になる腕輪を用意したようだ」

そして、微笑んだ。



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