俺が出会ったのは、淫魔だった

真白 桐羽

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第七章  阿羅国という国

高嶺

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 春の季節、野山は一斉に芽吹き、美しい新緑の色をのぞかせていた。
山から吹きつける風は冬の厳しさとは違い、少々鍛えた者ならば耐えられる程度には落ち着いている。
俺はその時期を見逃さず、この日この時を出発とした。

「本当ならば私の役目なのでしょうが」

百合彦の手を引いて、ユーチェンが下を向く。
顔色が悪く体調が思わしくないことを誰もが心配した。

「そんなことは良い、そなたは休むんだ。阿羅国の産業のほとんどにかかわっているのだからな、大事な身だぞ」

俺の言葉に力なく笑ったユーチェンは、一歩下がると、見送りの皆と共に礼をした。

「良い結果をお待ちしております。阿羅彦様」

俺はその言葉にうなずくと、最初に飛翔した。
後ろを振り向き、皆が揃うのを待って、速度を上げた。

隣にピタリと寄り添うのは案内人のアレクシス。
すぐ後ろに玲陽、そしてクレイダ、その弟のエクトル。

本来ならばエクトルではなくユーチェンの出番であっただろうが、今回はこうなった。

「このままあの山を越えて、そして東に向かう」
「了解した」

俺は後ろの3人を振り向いてうなずく。

「そんな心配はいらないだろうが、遅れるなよ」

3人はそれぞれ余裕のある笑みを浮かべた。
俺はその様子に満足し、また正面を向いた。

「阿羅彦様、このまま一気に上昇を?」

一緒に飛翔するのは初めてとなるアレクシスは、まだ慣れない阿羅国の高嶺を仰ぎ見て不安そうな表情をした。

 人前では決して俺を『アラト』とは呼ばない、一見すれば自由人に思えるが、実直さが伺える。

「アレクシス、一気じゃなかったら、他にどうやって越えるんだ?」

後ろから機嫌の悪い声でクレイダが唸るように言った。
クレイダの説得は、意外なことにアレクシス本人が当たった。
俺も少しは声をかけたが、その時にはもう、本人は行く気になっていた。

「俺は、前回はこの下の急斜面を休み休み登りましたよ。たまには歩いたり……」
「ケッめんどくさい」
「めんどくさいって……」
 
ばつが悪そうに頭を掻いたアレクシスを見て、玲陽が笑う。

「アレクシス、わかりますよ。私だって初めは怖いと思いましたからね」
「ですよね、さすが玲陽様お優しい……」
「しかし、この下を歩くとて、なかなかに雪深いでしょうに、アレクシスは意外にも健脚なのですね」

エクトルの問いに、アレクシスはまんざらでもない様子で答えた。

「薄く魔力で自分を覆って、雪の表面を滑るように歩くのですよ、そうしなければ雪の中に埋もれてしまいます」
「そんな方法で歩くのですね、エルフは」
「はい、ですが、この高度ではそれも限界があります、ですから体力の続く限り飛翔するのが理にかなっていると、俺も思いますよ」

エクトルと玲陽はアレクシスと親し気に話し、お互いの情報をやり取りしあった。
俺はその様子にホッとした。
他種多様な者が集まって出来た阿羅国、本来は敵対している者たちも、ここでは助け合わねば生きてはいけない。

「さあ、一気にいきますよ」

アレクシスは体に力をこめ、速度を上げた。
それを見て俺たち皆も後を追う。

キラリと光る高嶺の頂き、ぐんぐんと高度を増す俺たちの目の前が突然のように視界が開けた。

フゥとため息をついて肩で息をしながら速度を緩めたアレクシスは、紅潮した顔を皆に向け、弾ける笑顔を見せた。

「やった!!」

それにはさすがのクレイダも大声で笑った。


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