116 / 196
第七章 阿羅国という国
高嶺
しおりを挟む
春の季節、野山は一斉に芽吹き、美しい新緑の色をのぞかせていた。
山から吹きつける風は冬の厳しさとは違い、少々鍛えた者ならば耐えられる程度には落ち着いている。
俺はその時期を見逃さず、この日この時を出発とした。
「本当ならば私の役目なのでしょうが」
百合彦の手を引いて、ユーチェンが下を向く。
顔色が悪く体調が思わしくないことを誰もが心配した。
「そんなことは良い、そなたは休むんだ。阿羅国の産業のほとんどにかかわっているのだからな、大事な身だぞ」
俺の言葉に力なく笑ったユーチェンは、一歩下がると、見送りの皆と共に礼をした。
「良い結果をお待ちしております。阿羅彦様」
俺はその言葉にうなずくと、最初に飛翔した。
後ろを振り向き、皆が揃うのを待って、速度を上げた。
隣にピタリと寄り添うのは案内人のアレクシス。
すぐ後ろに玲陽、そしてクレイダ、その弟のエクトル。
本来ならばエクトルではなくユーチェンの出番であっただろうが、今回はこうなった。
「このままあの山を越えて、そして東に向かう」
「了解した」
俺は後ろの3人を振り向いてうなずく。
「そんな心配はいらないだろうが、遅れるなよ」
3人はそれぞれ余裕のある笑みを浮かべた。
俺はその様子に満足し、また正面を向いた。
「阿羅彦様、このまま一気に上昇を?」
一緒に飛翔するのは初めてとなるアレクシスは、まだ慣れない阿羅国の高嶺を仰ぎ見て不安そうな表情をした。
人前では決して俺を『アラト』とは呼ばない、一見すれば自由人に思えるが、実直さが伺える。
「アレクシス、一気じゃなかったら、他にどうやって越えるんだ?」
後ろから機嫌の悪い声でクレイダが唸るように言った。
クレイダの説得は、意外なことにアレクシス本人が当たった。
俺も少しは声をかけたが、その時にはもう、本人は行く気になっていた。
「俺は、前回はこの下の急斜面を休み休み登りましたよ。たまには歩いたり……」
「ケッめんどくさい」
「めんどくさいって……」
ばつが悪そうに頭を掻いたアレクシスを見て、玲陽が笑う。
「アレクシス、わかりますよ。私だって初めは怖いと思いましたからね」
「ですよね、さすが玲陽様お優しい……」
「しかし、この下を歩くとて、なかなかに雪深いでしょうに、アレクシスは意外にも健脚なのですね」
エクトルの問いに、アレクシスはまんざらでもない様子で答えた。
「薄く魔力で自分を覆って、雪の表面を滑るように歩くのですよ、そうしなければ雪の中に埋もれてしまいます」
「そんな方法で歩くのですね、エルフは」
「はい、ですが、この高度ではそれも限界があります、ですから体力の続く限り飛翔するのが理にかなっていると、俺も思いますよ」
エクトルと玲陽はアレクシスと親し気に話し、お互いの情報をやり取りしあった。
俺はその様子にホッとした。
他種多様な者が集まって出来た阿羅国、本来は敵対している者たちも、ここでは助け合わねば生きてはいけない。
「さあ、一気にいきますよ」
アレクシスは体に力をこめ、速度を上げた。
それを見て俺たち皆も後を追う。
キラリと光る高嶺の頂き、ぐんぐんと高度を増す俺たちの目の前が突然のように視界が開けた。
フゥとため息をついて肩で息をしながら速度を緩めたアレクシスは、紅潮した顔を皆に向け、弾ける笑顔を見せた。
「やった!!」
それにはさすがのクレイダも大声で笑った。
山から吹きつける風は冬の厳しさとは違い、少々鍛えた者ならば耐えられる程度には落ち着いている。
俺はその時期を見逃さず、この日この時を出発とした。
「本当ならば私の役目なのでしょうが」
百合彦の手を引いて、ユーチェンが下を向く。
顔色が悪く体調が思わしくないことを誰もが心配した。
「そんなことは良い、そなたは休むんだ。阿羅国の産業のほとんどにかかわっているのだからな、大事な身だぞ」
俺の言葉に力なく笑ったユーチェンは、一歩下がると、見送りの皆と共に礼をした。
「良い結果をお待ちしております。阿羅彦様」
俺はその言葉にうなずくと、最初に飛翔した。
後ろを振り向き、皆が揃うのを待って、速度を上げた。
隣にピタリと寄り添うのは案内人のアレクシス。
すぐ後ろに玲陽、そしてクレイダ、その弟のエクトル。
本来ならばエクトルではなくユーチェンの出番であっただろうが、今回はこうなった。
「このままあの山を越えて、そして東に向かう」
「了解した」
俺は後ろの3人を振り向いてうなずく。
「そんな心配はいらないだろうが、遅れるなよ」
3人はそれぞれ余裕のある笑みを浮かべた。
俺はその様子に満足し、また正面を向いた。
「阿羅彦様、このまま一気に上昇を?」
一緒に飛翔するのは初めてとなるアレクシスは、まだ慣れない阿羅国の高嶺を仰ぎ見て不安そうな表情をした。
人前では決して俺を『アラト』とは呼ばない、一見すれば自由人に思えるが、実直さが伺える。
「アレクシス、一気じゃなかったら、他にどうやって越えるんだ?」
後ろから機嫌の悪い声でクレイダが唸るように言った。
クレイダの説得は、意外なことにアレクシス本人が当たった。
俺も少しは声をかけたが、その時にはもう、本人は行く気になっていた。
「俺は、前回はこの下の急斜面を休み休み登りましたよ。たまには歩いたり……」
「ケッめんどくさい」
「めんどくさいって……」
ばつが悪そうに頭を掻いたアレクシスを見て、玲陽が笑う。
「アレクシス、わかりますよ。私だって初めは怖いと思いましたからね」
「ですよね、さすが玲陽様お優しい……」
「しかし、この下を歩くとて、なかなかに雪深いでしょうに、アレクシスは意外にも健脚なのですね」
エクトルの問いに、アレクシスはまんざらでもない様子で答えた。
「薄く魔力で自分を覆って、雪の表面を滑るように歩くのですよ、そうしなければ雪の中に埋もれてしまいます」
「そんな方法で歩くのですね、エルフは」
「はい、ですが、この高度ではそれも限界があります、ですから体力の続く限り飛翔するのが理にかなっていると、俺も思いますよ」
エクトルと玲陽はアレクシスと親し気に話し、お互いの情報をやり取りしあった。
俺はその様子にホッとした。
他種多様な者が集まって出来た阿羅国、本来は敵対している者たちも、ここでは助け合わねば生きてはいけない。
「さあ、一気にいきますよ」
アレクシスは体に力をこめ、速度を上げた。
それを見て俺たち皆も後を追う。
キラリと光る高嶺の頂き、ぐんぐんと高度を増す俺たちの目の前が突然のように視界が開けた。
フゥとため息をついて肩で息をしながら速度を緩めたアレクシスは、紅潮した顔を皆に向け、弾ける笑顔を見せた。
「やった!!」
それにはさすがのクレイダも大声で笑った。
0
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
冥府への案内人
伊駒辰葉
BL
!注意!
タグはBLになってますが、百合もフツーも入り交じってます。
地雷だという方は危険回避してください。
ガッツリなシーンがあります。
主人公と取り巻く人々の物語です。
群像劇というほどではないですが、登場人物は多めです。
20世紀末くらいの時代設定です。
ファンタジー要素があります。
ギャグは作中にちょっと笑えるやり取りがあるくらいです。
全体的にシリアスです。
色々とガッツリなのでR-15指定にしました。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い


飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~
ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。
*マークはR回。(後半になります)
・ご都合主義のなーろっぱです。
・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。
腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手)
・イラストは青城硝子先生です。

魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺
ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。
その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。
呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!?
果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……!
男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?)
~~~~
主人公総攻めのBLです。
一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。
※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる