俺が出会ったのは、淫魔だった

真白 桐羽

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第七章  阿羅国という国

春の訪れ

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 俺が時を感じることは難しい。
ジルが作り替えたこの鈍った感覚は、長すぎる俺の生を支えるものだ。
それはわかっていても、どこかで残念に思うこともある。

 イバンが草木を植え、今や景勝地となった花が咲き乱れる丘。
ここには美しい噴水が置かれ、ベンチがある。
いわゆる公園だ。

 俺はその丘の一番高いところまで歩き、そして深呼吸した。

 もう、季節は春だ。
つい先日まで冬であった……少なくとも、俺はそう感じていたのだ、瞬きをする間に冬から春になったように思える。

 横に立つのはエルフ族のアレクシス。
彼は強風の吹きすさむ極寒の冬の間、阿羅国に入国することが叶わず、故郷で冬を越したのだ。
そして、雪解けと共に阿羅国を見下ろす急峻な山を越えてきた。

「アラト、どうするんだ?」

薄紫の髪を風になびかせたアレクシスは、そう疑問を投げかけて、青い瞳で俺をじっと見つめた。

「会ってくれるということならば、そうしよう。だが、俺は、無理を言ってまでエルフの里に行きたいとは思ってないぞ? あちらがこの国に来てくれてもかまわないのだがな」
「アラト、それは違う。里に招かれるということの意味を理解していないのか?」
「と、言うと?」
「エルフは基本よそ者とのかかわりを最小限に抑えようとするし、里へ公式に招くことなどほぼないんだよ、ほかのどの国も、王が里に招かれたなんて今まで無いこと。しかし長は今回そう決めたんだよ、エルフが阿羅国を認めたということなんだから、どこに行ってもこれは良い材料になるはず」
「つまり、阿羅国の評判に一役買うということか」
「そうだね」

俺はフムと息を吐いて、ベンチに腰掛けた。
アレクシスは俺の前に仁王立ちになって見下ろした。

「お前、無理したんじゃないか?」
「いや?」
「お前が説得してくれたことには変わりないだろう」

アレクシスはフフっと笑ってようやく横に座った。

「ってことは?」
「ああ、もちろん行くさ……だが、条件なのだが」
「うん、お供は3人まで。あ、俺も行くが、人数に入れなくていいよ案内人だからな」
「ならば……いそぎ玲陽を帰国させよう、そして……本当ならクレイダがいいのだが、あいつはエルフをそうとう毛嫌いしているからな」

俺たちは互いに顔を見て噴き出した。

「クレイダ様だって話せばおわかりになるはずでは。本人と相談すべきだろう。俺にはまだわからないが、阿羅国になくてはならない3人を連れていくべきだ」
「そうだな」



 俺は空を見上げた。
薄い色の空に白い雲が浮かんでいた。

阿羅国の春は、美しかった。



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