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第七章 阿羅国という国
父の思い 玲陽視点
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「これは素晴らしいね」
ラハーム王の声は謁見の間によく響いた。
彫刻の美しい芸術品のような玉座に座り、品々の説明を興味深げにじっと聞き入っている。
「阿羅国の絹の艶は一流の輝きだ、しかもこの張りが良い。これでラハームの衣装を作らせてみるのも良いな」
私は説明の手を止め、王に一礼をした。
「これにてすべてにございます」
「うむ、思っていたより阿羅国の品は上等なようだ。そなたのようにラハームで育った生粋の貴族が、自信を持って紹介できるのも頷ける」
「ありがたき、お言葉でございます」
ラハームで育った生粋の貴族か……
王からその言葉がかけられるとは皮肉かと勘ぐりたくなる。
私の母が舞の奉納をする巫女であったことも、額に角が生えている生粋の蛇族ではなかったことも、もちろん知っている上での言葉だ。
王に謁見できたということは、私の事は全て調べられていると思って間違いない。
「これらの品は、アオアイでも正式に扱うらしいな」
「はい、マドア王太子殿下が確約してくださいまして、今ごろ第一陣が荷を運んでいるところでしょう」
「ふむ」
王は側近にあれこれと指示をした後、立ち上がった。
皆が一斉に頭を下げる。
「樹玲陽、そなたがラハームの地を踏んだのは何年振りか?」
「はい、およそ2年ぶりとなります」
「そなたの父は、そなたが阿羅国の代表として我が国に入ると知り、私に頭を下げた。息子のことをどうか信じてやってほしいと」
私は思わず顔を上げ、王と目を合わせた。
「本来ならば、信用のない阿羅国などという新興国と取引など不要だ。だが、代表として我が国出身のしかも樹家の者が来たら、受け入れざるを得ない。お前がここで得た成功は、樹家の信用があった上での事だ。それを忘れるでないぞ」
「はっ……」
私は自分の手が震えるのを感じた。
「阿羅国は、アオアイに次ぎ、紗国そしてラハームと正式な取引を始めた。お前の主人は良き臣下をもったものだな」
それだけ言うと、王はもはやここには用はないとばかりに踵を返し退室して行った。
私は父の姿を心に思い描き、そして拳を握りしめた。
あの人が、私のために頭を下げた?
信じられない思いでフゥとため息をつく。
城の役人との細かなやり取りを終えた部下と合流し、身軽になった我らは迎えの馬車に乗り込もうとした。
「玲陽様」
ふいに後ろから声を掛けられ、振り向くと、見慣れた顔が立っていた。
「尾登か」
彼は生家である樹で護衛のしている武人だった。
私は武に向いている方ではないのだが、彼にあこがれ、手ほどきを受けたこともあった。
家人の誰もが私をないがしろにする中、彼だけは私を兄らと同じように扱ってくれたことを今でも感謝している。
「このようにご立派になられて……これは凱旋ですね」
まぶしそうに目を細め、嬉しそうに微笑んだ。
「そのようなこと、ここで言うでない。他の目があるぞ」
「はい、それはそうですが、何も遠慮はいりません、私たちの坊ちゃまが故郷に錦を飾ったのです」
「尾登」
私は尾登のたくましい腕をポンと叩いた。
「お館様が、ぼっちゃんをぜひお連れしてほしいと、そう仰せなのです。どうぞ、お迎えのお車に」
尾登はたくましい体を優雅に折った。
ラハーム王の声は謁見の間によく響いた。
彫刻の美しい芸術品のような玉座に座り、品々の説明を興味深げにじっと聞き入っている。
「阿羅国の絹の艶は一流の輝きだ、しかもこの張りが良い。これでラハームの衣装を作らせてみるのも良いな」
私は説明の手を止め、王に一礼をした。
「これにてすべてにございます」
「うむ、思っていたより阿羅国の品は上等なようだ。そなたのようにラハームで育った生粋の貴族が、自信を持って紹介できるのも頷ける」
「ありがたき、お言葉でございます」
ラハームで育った生粋の貴族か……
王からその言葉がかけられるとは皮肉かと勘ぐりたくなる。
私の母が舞の奉納をする巫女であったことも、額に角が生えている生粋の蛇族ではなかったことも、もちろん知っている上での言葉だ。
王に謁見できたということは、私の事は全て調べられていると思って間違いない。
「これらの品は、アオアイでも正式に扱うらしいな」
「はい、マドア王太子殿下が確約してくださいまして、今ごろ第一陣が荷を運んでいるところでしょう」
「ふむ」
王は側近にあれこれと指示をした後、立ち上がった。
皆が一斉に頭を下げる。
「樹玲陽、そなたがラハームの地を踏んだのは何年振りか?」
「はい、およそ2年ぶりとなります」
「そなたの父は、そなたが阿羅国の代表として我が国に入ると知り、私に頭を下げた。息子のことをどうか信じてやってほしいと」
私は思わず顔を上げ、王と目を合わせた。
「本来ならば、信用のない阿羅国などという新興国と取引など不要だ。だが、代表として我が国出身のしかも樹家の者が来たら、受け入れざるを得ない。お前がここで得た成功は、樹家の信用があった上での事だ。それを忘れるでないぞ」
「はっ……」
私は自分の手が震えるのを感じた。
「阿羅国は、アオアイに次ぎ、紗国そしてラハームと正式な取引を始めた。お前の主人は良き臣下をもったものだな」
それだけ言うと、王はもはやここには用はないとばかりに踵を返し退室して行った。
私は父の姿を心に思い描き、そして拳を握りしめた。
あの人が、私のために頭を下げた?
信じられない思いでフゥとため息をつく。
城の役人との細かなやり取りを終えた部下と合流し、身軽になった我らは迎えの馬車に乗り込もうとした。
「玲陽様」
ふいに後ろから声を掛けられ、振り向くと、見慣れた顔が立っていた。
「尾登か」
彼は生家である樹で護衛のしている武人だった。
私は武に向いている方ではないのだが、彼にあこがれ、手ほどきを受けたこともあった。
家人の誰もが私をないがしろにする中、彼だけは私を兄らと同じように扱ってくれたことを今でも感謝している。
「このようにご立派になられて……これは凱旋ですね」
まぶしそうに目を細め、嬉しそうに微笑んだ。
「そのようなこと、ここで言うでない。他の目があるぞ」
「はい、それはそうですが、何も遠慮はいりません、私たちの坊ちゃまが故郷に錦を飾ったのです」
「尾登」
私は尾登のたくましい腕をポンと叩いた。
「お館様が、ぼっちゃんをぜひお連れしてほしいと、そう仰せなのです。どうぞ、お迎えのお車に」
尾登はたくましい体を優雅に折った。
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