110 / 196
第七章 阿羅国という国
夢を通じて
しおりを挟む
その日は早めに布団にもぐりこんだ、紗国王の玖羅紗と紅葉に会って以来、俺の心はずっと沈んだままだ。
顔では笑っていても、心が動かない。
ついには顔色にまでその影響が出てきたのだろう。
周囲の者はみな、俺の心配をしていた。
そして、今日は早くから寝室においやられたというわけだ。
エルフの里に帰郷しているアレクシスもおらず、俺は快適に温められた部屋に一人、何をするでもなくぼんやりと過ごしていた。
ふと、眠気が襲い、目を閉じた。
……ああ、この感じは……呼ばれている。
そう思った瞬間、体にまといつく空気感が変わった。
「アラト?」
そう優しく呼びかけられて、目を開けると、俺はアオアイにいた。
「マドア」
アオアイの王太子は信じられないものを見るように目を見開きながらも、喜びを隠そうともしなかった。
必死に抱きついてきて、そして俺の名をずっと呼び続けた。
「アラト!アラト……アラト、会いたかった!まさか本当に、夢を通じて来てくれるなんて!」
「大袈裟ではないかな?マドア……」
俺は広く美しい部屋を見渡した。
南国らしい設えの開放的な寝室、俺はここでマドアと結ばれたのだ、それはつい先月だ。
「ええ、わかってはいます」
頬を染めてマドアは俺を見上げた。
「でも……あなたと離れている時間は永遠のように長く感じたのですよ」
「かわいいことを言う」
俺は冷えた心が満たされる思いで、マドアの顎に指を添え口づけをした。
むさぼるように求めてくるマドアに応え、俺も彼の形の良い小さな唇、そして咥内を舐めた。
「あ……」
マドアはもう一度俺に縋りつき、そしてもう二度と離れたくないと言わんばかりに、両腕に力をこめた。
「夜が明けるまでは、いてください」
「そうだな」
俺は小さく震えるマドアを優しく撫でた。
体は細く小さい、まるで少年のようだ、彼は鹿族なのだ。
「先日、アオアイに正式に阿羅国の交易品の目録が届きましたよ」
「そうか」
「とはいえ、私は目を通しただけで、検めるのは他のものがしたのですけど」
「あなたは多忙なのだ、それが普通だろう」
「ええ、でも、阿羅国からと聞いて、私はその目録すら手放したくなくなったのですよ」
「ふふ……マドア」
もう一度口づけをすると、トロンとした視線を向け、マドアは言った。
「例えその目録を書いたのが、あなたの臣下であろうと、私はあなたのつながる物すべてを自分の手の中に置いておきたいという欲望が抑えられない」
「うれしいね」
「そうですか?私は一体どうしたんでしょうね。こんな気持ちは初めてです」
「恋ではないのか?」
俺は片眉を上げ、挑戦的に言った。
マドアは満面の笑みを浮かべた。
「ええ、ええ、そうでしょう、私はあなたに恋をしたのですよね、では、責任は取ってもらいましょう」
「どうやって取ればいいのかな」
「時折こうやって……来て。絶対に……来て。そうしてくれないと、私は自分であなたの国に何を置いても行ってしまいそうになる」
私はマドアの頬に手を置いた。
「マドア、あなたはもうすぐ結婚するのでは?」
「関係ありませんよ、私の心はあなたのもの。そして……妃にはこの寝室に入らせません」
「夫の寝室に入るなと、そう命じると?」
「ええ、ここは、あなたと私が過ごす場所、他の誰も入らないでほしい」
「しかし……マドアの新婚生活はどうなる?」
「大丈夫です、王族の結婚なんてそんなもの。愛など無いのが普通です」
マドアはベッドサイドの明かりを消した、月明りだけになった部屋は深海のように深い青色に覆われた。
「私を愛して……アラト」
マドアはサッシュをほどき、寝間着をさらりと脱いだ。
顔では笑っていても、心が動かない。
ついには顔色にまでその影響が出てきたのだろう。
周囲の者はみな、俺の心配をしていた。
そして、今日は早くから寝室においやられたというわけだ。
エルフの里に帰郷しているアレクシスもおらず、俺は快適に温められた部屋に一人、何をするでもなくぼんやりと過ごしていた。
ふと、眠気が襲い、目を閉じた。
……ああ、この感じは……呼ばれている。
そう思った瞬間、体にまといつく空気感が変わった。
「アラト?」
そう優しく呼びかけられて、目を開けると、俺はアオアイにいた。
「マドア」
アオアイの王太子は信じられないものを見るように目を見開きながらも、喜びを隠そうともしなかった。
必死に抱きついてきて、そして俺の名をずっと呼び続けた。
「アラト!アラト……アラト、会いたかった!まさか本当に、夢を通じて来てくれるなんて!」
「大袈裟ではないかな?マドア……」
俺は広く美しい部屋を見渡した。
南国らしい設えの開放的な寝室、俺はここでマドアと結ばれたのだ、それはつい先月だ。
「ええ、わかってはいます」
頬を染めてマドアは俺を見上げた。
「でも……あなたと離れている時間は永遠のように長く感じたのですよ」
「かわいいことを言う」
俺は冷えた心が満たされる思いで、マドアの顎に指を添え口づけをした。
むさぼるように求めてくるマドアに応え、俺も彼の形の良い小さな唇、そして咥内を舐めた。
「あ……」
マドアはもう一度俺に縋りつき、そしてもう二度と離れたくないと言わんばかりに、両腕に力をこめた。
「夜が明けるまでは、いてください」
「そうだな」
俺は小さく震えるマドアを優しく撫でた。
体は細く小さい、まるで少年のようだ、彼は鹿族なのだ。
「先日、アオアイに正式に阿羅国の交易品の目録が届きましたよ」
「そうか」
「とはいえ、私は目を通しただけで、検めるのは他のものがしたのですけど」
「あなたは多忙なのだ、それが普通だろう」
「ええ、でも、阿羅国からと聞いて、私はその目録すら手放したくなくなったのですよ」
「ふふ……マドア」
もう一度口づけをすると、トロンとした視線を向け、マドアは言った。
「例えその目録を書いたのが、あなたの臣下であろうと、私はあなたのつながる物すべてを自分の手の中に置いておきたいという欲望が抑えられない」
「うれしいね」
「そうですか?私は一体どうしたんでしょうね。こんな気持ちは初めてです」
「恋ではないのか?」
俺は片眉を上げ、挑戦的に言った。
マドアは満面の笑みを浮かべた。
「ええ、ええ、そうでしょう、私はあなたに恋をしたのですよね、では、責任は取ってもらいましょう」
「どうやって取ればいいのかな」
「時折こうやって……来て。絶対に……来て。そうしてくれないと、私は自分であなたの国に何を置いても行ってしまいそうになる」
私はマドアの頬に手を置いた。
「マドア、あなたはもうすぐ結婚するのでは?」
「関係ありませんよ、私の心はあなたのもの。そして……妃にはこの寝室に入らせません」
「夫の寝室に入るなと、そう命じると?」
「ええ、ここは、あなたと私が過ごす場所、他の誰も入らないでほしい」
「しかし……マドアの新婚生活はどうなる?」
「大丈夫です、王族の結婚なんてそんなもの。愛など無いのが普通です」
マドアはベッドサイドの明かりを消した、月明りだけになった部屋は深海のように深い青色に覆われた。
「私を愛して……アラト」
マドアはサッシュをほどき、寝間着をさらりと脱いだ。
0
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い


飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~
ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。
*マークはR回。(後半になります)
・ご都合主義のなーろっぱです。
・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。
腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手)
・イラストは青城硝子先生です。

魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺
ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。
その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。
呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!?
果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……!
男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?)
~~~~
主人公総攻めのBLです。
一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。
※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。

淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる