俺が出会ったのは、淫魔だった

真白 桐羽

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第七章  阿羅国という国

夢を通じて

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 その日は早めに布団にもぐりこんだ、紗国王の玖羅紗と紅葉に会って以来、俺の心はずっと沈んだままだ。
顔では笑っていても、心が動かない。

 ついには顔色にまでその影響が出てきたのだろう。
周囲の者はみな、俺の心配をしていた。
そして、今日は早くから寝室においやられたというわけだ。

エルフの里に帰郷しているアレクシスもおらず、俺は快適に温められた部屋に一人、何をするでもなくぼんやりと過ごしていた。

ふと、眠気が襲い、目を閉じた。

……ああ、この感じは……呼ばれている。

そう思った瞬間、体にまといつく空気感が変わった。

「アラト?」

そう優しく呼びかけられて、目を開けると、俺はアオアイにいた。

「マドア」

アオアイの王太子は信じられないものを見るように目を見開きながらも、喜びを隠そうともしなかった。

必死に抱きついてきて、そして俺の名をずっと呼び続けた。

「アラト!アラト……アラト、会いたかった!まさか本当に、夢を通じて来てくれるなんて!」
「大袈裟ではないかな?マドア……」

俺は広く美しい部屋を見渡した。
南国らしい設えの開放的な寝室、俺はここでマドアと結ばれたのだ、それはつい先月だ。

「ええ、わかってはいます」

頬を染めてマドアは俺を見上げた。

「でも……あなたと離れている時間は永遠のように長く感じたのですよ」
「かわいいことを言う」

俺は冷えた心が満たされる思いで、マドアの顎に指を添え口づけをした。
むさぼるように求めてくるマドアに応え、俺も彼の形の良い小さな唇、そして咥内を舐めた。

「あ……」

マドアはもう一度俺に縋りつき、そしてもう二度と離れたくないと言わんばかりに、両腕に力をこめた。

「夜が明けるまでは、いてください」
「そうだな」

俺は小さく震えるマドアを優しく撫でた。
体は細く小さい、まるで少年のようだ、彼は鹿族なのだ。

「先日、アオアイに正式に阿羅国の交易品の目録が届きましたよ」
「そうか」
「とはいえ、私は目を通しただけで、検めるのは他のものがしたのですけど」
「あなたは多忙なのだ、それが普通だろう」
「ええ、でも、阿羅国からと聞いて、私はその目録すら手放したくなくなったのですよ」
「ふふ……マドア」

もう一度口づけをすると、トロンとした視線を向け、マドアは言った。

「例えその目録を書いたのが、あなたの臣下であろうと、私はあなたのつながる物すべてを自分の手の中に置いておきたいという欲望が抑えられない」
「うれしいね」
「そうですか?私は一体どうしたんでしょうね。こんな気持ちは初めてです」
「恋ではないのか?」

俺は片眉を上げ、挑戦的に言った。
マドアは満面の笑みを浮かべた。

「ええ、ええ、そうでしょう、私はあなたに恋をしたのですよね、では、責任は取ってもらいましょう」
「どうやって取ればいいのかな」
「時折こうやって……来て。絶対に……来て。そうしてくれないと、私は自分であなたの国に何を置いても行ってしまいそうになる」

私はマドアの頬に手を置いた。

「マドア、あなたはもうすぐ結婚するのでは?」
「関係ありませんよ、私の心はあなたのもの。そして……妃にはこの寝室に入らせません」
「夫の寝室に入るなと、そう命じると?」
「ええ、ここは、あなたと私が過ごす場所、他の誰も入らないでほしい」
「しかし……マドアの新婚生活はどうなる?」
「大丈夫です、王族の結婚なんてそんなもの。愛など無いのが普通です」

マドアはベッドサイドの明かりを消した、月明りだけになった部屋は深海のように深い青色に覆われた。

「私を愛して……アラト」

マドアはサッシュをほどき、寝間着をさらりと脱いだ。
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