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第七章 阿羅国という国
エルフと淫魔3
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「否定しないんだな」
アレクシスの声色は、緊張していた。
「半分淫魔だったら?とは、どういう意味で言っている?」
厳しい目で見つめて来るアレクシスには、どんな言い訳も通用しないだろうと本能で感じた。
「ジルの言葉に忠実にあろうとするアラトの気持ちを、踏みにじるようなことをしたいとは、俺だって思わない。だけどね、説明しなくちゃならない時ってのはあるんじゃないのか?」
「そうだな……」
俺はそれでも逡巡し、いつの間にか拳を握りしめていた。
歩み寄ってきたアレクシスはその拳をそっと握りこんで、顔を寄せてきた。
「俺を信用しろ、アラト」
その揺るぎない力のこもった瞳をじっと見て、そして俺は決心した。
「はじめ、俺の魂は半分しか無かったんだ」
「え?」
アレクシスの瞳は見開かれ、息をのんだのがわかった。
「この世界に突然放り込まれた俺は、魂を半分にもぎ取られたかのような、そんな不安定な状態だったと、そうジルは言っていた。そして、ジルは……その欠けた部分を埋めるように淫魔の力で作り替えたのだそうだ」
アレクシスは固まったように動かなくなり、瞬きもせずに俺をじっと、ただ見つめていた。
「……アラトは、その魂がもぎ取られたような状態で、前の世界で生きていたということか?」
「そうなんだろうな、よくわからないんだ、自覚がないからな」
俺はそう言うしかなかった、日本にいたころの俺は全くの健康体で、病弱だったわけでもない。
魂が不完全ということが、どういう状態なのか、いまだにわからないのだ。
「それで……そのジルとやらが、アラトを完全体に造り上げたと……そういうことか」
俺の手の上に重なったアレクシスの手にじんわりと汗が滲んだ。
俺はそれに気づき、そっと手を離し、逆に握りこんだ。
「今話したことがすべてだ。俺がこの先、そのせいで淫魔と言われ、恐れられ嫌われたとしても、どうすることもできない。が、俺は確かに人として生まれたんだよ……これから先、もう一度俺の魂を作り替える者が現われでもしない限り、俺はこのままだ……つまり、半分淫魔の魂を抱えて生きていくんだよ」
アレクシスの瞳が動揺で揺れ、そして、やがてひどく消耗したように目を瞑った。
「アレクシス」
「……アラト、わかったよ、話してくれてありがとう。もしも二人でエルフの里に行くのなら、俺は……その前にこの事を……長だけには話しておかねばならない。それを了承してくれるか?」
「長は、どんな方なのだ?」
「ん……」
アレクシスは困ったように笑って、そして言った。
「実は、今の長は俺の伯父なんだ。だから、俺の嘘なんか筒抜けなんだ。家族だからな」
「ということは、お前は、長の血筋なのか?」
「まあ、そうなる……だが、長とは血筋で選ばれるものではないから、そうであっても俺には関係のないことだ、俺は父の家系がそうであったように、花守でしかない」
「……そうか」
俺はアレクシスの手を優しく引き、抱きしめた。
「余計な面倒をかけるな……だが、信じてほしい。俺は淫魔の力で里の者を操ったりは決してしない。俺の本質は人だ。……君らが言うように、人である以上、欲は強いだろう。だが、その欲でエルフ達を困らせたりしないことを誓うよ」
「アラト」
耳のすぐそばでアレクシスの声が響き、俺は思わず滑らかな髪を撫でた。
「わかったよ、アラト……長には俺が直々に説明してくる」
「ああ、よろしく頼むよ」
二日後に準備を終えたアレクシスは、ユーチェンが選んだ美しい織物を持って一人で里に向かった。
アレクシスの声色は、緊張していた。
「半分淫魔だったら?とは、どういう意味で言っている?」
厳しい目で見つめて来るアレクシスには、どんな言い訳も通用しないだろうと本能で感じた。
「ジルの言葉に忠実にあろうとするアラトの気持ちを、踏みにじるようなことをしたいとは、俺だって思わない。だけどね、説明しなくちゃならない時ってのはあるんじゃないのか?」
「そうだな……」
俺はそれでも逡巡し、いつの間にか拳を握りしめていた。
歩み寄ってきたアレクシスはその拳をそっと握りこんで、顔を寄せてきた。
「俺を信用しろ、アラト」
その揺るぎない力のこもった瞳をじっと見て、そして俺は決心した。
「はじめ、俺の魂は半分しか無かったんだ」
「え?」
アレクシスの瞳は見開かれ、息をのんだのがわかった。
「この世界に突然放り込まれた俺は、魂を半分にもぎ取られたかのような、そんな不安定な状態だったと、そうジルは言っていた。そして、ジルは……その欠けた部分を埋めるように淫魔の力で作り替えたのだそうだ」
アレクシスは固まったように動かなくなり、瞬きもせずに俺をじっと、ただ見つめていた。
「……アラトは、その魂がもぎ取られたような状態で、前の世界で生きていたということか?」
「そうなんだろうな、よくわからないんだ、自覚がないからな」
俺はそう言うしかなかった、日本にいたころの俺は全くの健康体で、病弱だったわけでもない。
魂が不完全ということが、どういう状態なのか、いまだにわからないのだ。
「それで……そのジルとやらが、アラトを完全体に造り上げたと……そういうことか」
俺の手の上に重なったアレクシスの手にじんわりと汗が滲んだ。
俺はそれに気づき、そっと手を離し、逆に握りこんだ。
「今話したことがすべてだ。俺がこの先、そのせいで淫魔と言われ、恐れられ嫌われたとしても、どうすることもできない。が、俺は確かに人として生まれたんだよ……これから先、もう一度俺の魂を作り替える者が現われでもしない限り、俺はこのままだ……つまり、半分淫魔の魂を抱えて生きていくんだよ」
アレクシスの瞳が動揺で揺れ、そして、やがてひどく消耗したように目を瞑った。
「アレクシス」
「……アラト、わかったよ、話してくれてありがとう。もしも二人でエルフの里に行くのなら、俺は……その前にこの事を……長だけには話しておかねばならない。それを了承してくれるか?」
「長は、どんな方なのだ?」
「ん……」
アレクシスは困ったように笑って、そして言った。
「実は、今の長は俺の伯父なんだ。だから、俺の嘘なんか筒抜けなんだ。家族だからな」
「ということは、お前は、長の血筋なのか?」
「まあ、そうなる……だが、長とは血筋で選ばれるものではないから、そうであっても俺には関係のないことだ、俺は父の家系がそうであったように、花守でしかない」
「……そうか」
俺はアレクシスの手を優しく引き、抱きしめた。
「余計な面倒をかけるな……だが、信じてほしい。俺は淫魔の力で里の者を操ったりは決してしない。俺の本質は人だ。……君らが言うように、人である以上、欲は強いだろう。だが、その欲でエルフ達を困らせたりしないことを誓うよ」
「アラト」
耳のすぐそばでアレクシスの声が響き、俺は思わず滑らかな髪を撫でた。
「わかったよ、アラト……長には俺が直々に説明してくる」
「ああ、よろしく頼むよ」
二日後に準備を終えたアレクシスは、ユーチェンが選んだ美しい織物を持って一人で里に向かった。
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