俺が出会ったのは、淫魔だった

真白 桐羽

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第七章  阿羅国という国

エルフと淫魔2

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 「どういう意味だ?」

俺は探るように見つめて来るアレクシスに問いかけた。

「……他の奴らはどうかしらないが、俺にはわかるよ、人に夢を見せる力は淫魔のものだ……とはいっても、本来の見せ方とは少し違うが……」
「俺の夢を見たのなら、お前も見ただろう? 金色の髪の美しいジルを」
「……うん……」

アレクシスは『ジル』の名を聞いて、悔し気な様子でぶっきらぼうに答えた。
それが反抗期の少年のようでかわいらしい。

「ジルは、淫魔だった。おそらくこの森で暮らす淫魔の最後の」
「……え? では、淫魔に連れてこられてこの森に?……いや、違う。あなたは異世界から来たはずだ」
「そうだよ、そして一人で震える俺を見つけ、保護してくれたのがジルだったんだ、そのあと、二人で暮らして、俺はジルから淫魔の力を授かった」
「授かるって……どうやって」
「ジルは、自分のことをほかの人に言うなと、そう言い残した。だから、例えお前であってもこれ以上は言わないでおくよ」

アレクシスは不満を顔に表したが、短くため息をついて「わかったよ」といって足を組みなおした。

「じゃあ、アラトはやっぱり人で、魔族ではないんだね」
「そのつもりだが、それは重要か?」
「ああ、重要さ」

アレクシスは椅子から立ち上がり、窓のそばまで歩いた。
そこから見える阿羅国の町は、大き目な池を中心に円を描くように放射線状に道が作られている。
池の中心にはいずれ、噴水を作りたいと思っている。

「……アラト、お前がもし魔物であれば」
「魔物であれば?」
「エルフの里には入れないよ」
「魔物とは、どういう定義だ?」

俺は心底わからなくてその疑問を口にした。

「魔物も人も、生を持つ、生きているという意味では一緒だ。それに意思疎通ができるわけで、そこに友情だって芽生えさせることができる」
「そうだな」

アレクシスは目を瞑り、深呼吸をした。

「俺は正直、この国に来るまで、魔物と人が共にあることなど不可能だと思っていた。エルフや妖精は人とは違うが、お互いを害したりしないから共存できる、が……それでも人は欲深い、深入りは禁物だと我々は考えている」
「言いたいことはわかるよ」
「しかしお前の元にいる者らは、3割程度人ではない、魔物もお前に良く従い、よく働いている」
「うむ」

俺は机の上にある冷えた茶を手に取った。
阿羅国で取れる緑茶だ。
味わうと、心のどこかでなつかしさが広がる。

「エルフや妖精は、魔物を極端に嫌う。まして、下級魔の淫魔などは特にな……人の夢を操る誘拐する、子を産ませる。害でしかない」
「……」

俺はどうするべきか悩んだ。
魂は淫魔のジルによって作り替えられている、半分は淫魔なのだ。

「どうすればいい? 俺が半分淫魔だったとしたら」

俺の言葉にアレクシスは悲し気に微笑んだ。
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