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第七章 阿羅国という国
共に2 アレクシス視点
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森深き場所、きらめく湖のほとり、エルフ族の里は結界の中にあり、龍族でもないかぎりその場所を嗅ぎ当てることは困難だ。
しかし、そうとは知らず時折迷い込む者はいる。
それが、阿羅彦だった。
俺は祖父の代からスレイスルウの花守で、弓の名手であった祖父や父から仕込まれた技を持つ。
その上、現在の長は俺の伯父だし、誇り高き家名を持っている。
しかし、俺はいつもどこか、違う場所に居場所があるのでは?と夢見る傾向があったんだ。
『こことは違うどこか』……それはエルフには難しい。
人族の国に入り馴染もうと努力しようにも、目立つ外観ゆえに静かに暮らすことがなかなか出来ないらしい。
今までも里を出て、人の暮らす街へ行った者がいたが、その大半は馴染めずにいつしかまた里に帰ってきていた。
俺の従弟がまさにそれだった。
人はエルフと見ると、必ず、エルフにしかないものを手に入れたがる。
従弟は街で暮らすうちに、商売っけを出して近寄る者しか周りにいないことに気づいた。
そのうちの何人かは、里への案内まで頼もうとしてきたらしい。
エルフ達は里から出るのも入るのも基本自由ではあるが、長の許可がない他種の者をその中に招待するのは、禁じられている。
ご法度というわけだ。
その理由は、魔力が高く、長寿で知られるエルフだが、子が生まれにくい。
そして、生まれてもまた小さいうちは非常に弱い。
だが、子が育たねば種は絶滅するしかないのだ、我らエルフはそれを避けるため、昔はいくつか分かれていた部族も合流し、美しい湖のほとりに里を作ったのだ。
つまり、外からの侵入を防ぎ、子を安全に育てるために特化したというわけだ。
そのように暮らし始めてから2000年経っている。
「アレクシス」
俺を低い声で呼び、手を差し出した男は、艶やかな黒髪と濡れたような大きな黒い瞳が美しい人だ。
突然迷い込んだこの男に、俺は一目ぼれした。
あの時、俺の前に突然空から降りてきて、天幕を広げた彼ら一行に警戒し、木の陰からそっと様子を伺った。
そして、自分の気配を消すことも忘れ、この黒髪の男に惹かれたのだ。
「こちらにおいで」
優し気にそう言って、握りこんだ俺の手を引いた。
抱きしめられて、体が震えた。
森で出会ってから、何をしていても忘れることができなかった人、ようやくこうやって二人きりでいられる。
強く抱きしめあって、そのままベッドに押し倒された、やわらかい敷き布に背を預け俺は見下ろしてくる男をじっと見つめた。
優しい月あかりに照らされて、闇夜と同じ色の髪がさらりと流れ、俺の頬をくすぐった。
「最初は少年かと思ったのだがな」
「エルフに年齢はあってないようなものだよ、俺はもう子供ではない」
「ああ、そうなんだろうな」
阿羅彦の暖かい手のひらが頬に当てられた。
そのわずかな接触で胸がいっぱいになる。
「阿羅彦も、そうなんだろう?」
俺は彼を返事を待った。
エルフの中でも少数だが、魂の形が見えるものがいる。
龍族や淫魔ほど正確にはわからないが、俺にも見えるのだ。
彼の魂は、俺の父と同じぐらい年を経ている。
「どうやら、お前にはわかるようだな」
「ああ、わかる」
一瞬だけ、阿羅彦の瞳が悲しみに彩られた。
俺はハッとして彼を両手で抱き寄せた。
彼の体の重みが俺にのしかかる、互いの心臓の動きが重なっていくのを感じた。
……この人は、愛する者の儚い生を、見つめてきたのだ、彼の心に影ができようとしている。
俺のこの予感にも似た確信が、俺を慌てさせた。
「どうした、アレクシス」
頬を重ねてすぐそばにある濡れたような黒い瞳をじっと見つめ、そして唇を重ねた。
しかし、そうとは知らず時折迷い込む者はいる。
それが、阿羅彦だった。
俺は祖父の代からスレイスルウの花守で、弓の名手であった祖父や父から仕込まれた技を持つ。
その上、現在の長は俺の伯父だし、誇り高き家名を持っている。
しかし、俺はいつもどこか、違う場所に居場所があるのでは?と夢見る傾向があったんだ。
『こことは違うどこか』……それはエルフには難しい。
人族の国に入り馴染もうと努力しようにも、目立つ外観ゆえに静かに暮らすことがなかなか出来ないらしい。
今までも里を出て、人の暮らす街へ行った者がいたが、その大半は馴染めずにいつしかまた里に帰ってきていた。
俺の従弟がまさにそれだった。
人はエルフと見ると、必ず、エルフにしかないものを手に入れたがる。
従弟は街で暮らすうちに、商売っけを出して近寄る者しか周りにいないことに気づいた。
そのうちの何人かは、里への案内まで頼もうとしてきたらしい。
エルフ達は里から出るのも入るのも基本自由ではあるが、長の許可がない他種の者をその中に招待するのは、禁じられている。
ご法度というわけだ。
その理由は、魔力が高く、長寿で知られるエルフだが、子が生まれにくい。
そして、生まれてもまた小さいうちは非常に弱い。
だが、子が育たねば種は絶滅するしかないのだ、我らエルフはそれを避けるため、昔はいくつか分かれていた部族も合流し、美しい湖のほとりに里を作ったのだ。
つまり、外からの侵入を防ぎ、子を安全に育てるために特化したというわけだ。
そのように暮らし始めてから2000年経っている。
「アレクシス」
俺を低い声で呼び、手を差し出した男は、艶やかな黒髪と濡れたような大きな黒い瞳が美しい人だ。
突然迷い込んだこの男に、俺は一目ぼれした。
あの時、俺の前に突然空から降りてきて、天幕を広げた彼ら一行に警戒し、木の陰からそっと様子を伺った。
そして、自分の気配を消すことも忘れ、この黒髪の男に惹かれたのだ。
「こちらにおいで」
優し気にそう言って、握りこんだ俺の手を引いた。
抱きしめられて、体が震えた。
森で出会ってから、何をしていても忘れることができなかった人、ようやくこうやって二人きりでいられる。
強く抱きしめあって、そのままベッドに押し倒された、やわらかい敷き布に背を預け俺は見下ろしてくる男をじっと見つめた。
優しい月あかりに照らされて、闇夜と同じ色の髪がさらりと流れ、俺の頬をくすぐった。
「最初は少年かと思ったのだがな」
「エルフに年齢はあってないようなものだよ、俺はもう子供ではない」
「ああ、そうなんだろうな」
阿羅彦の暖かい手のひらが頬に当てられた。
そのわずかな接触で胸がいっぱいになる。
「阿羅彦も、そうなんだろう?」
俺は彼を返事を待った。
エルフの中でも少数だが、魂の形が見えるものがいる。
龍族や淫魔ほど正確にはわからないが、俺にも見えるのだ。
彼の魂は、俺の父と同じぐらい年を経ている。
「どうやら、お前にはわかるようだな」
「ああ、わかる」
一瞬だけ、阿羅彦の瞳が悲しみに彩られた。
俺はハッとして彼を両手で抱き寄せた。
彼の体の重みが俺にのしかかる、互いの心臓の動きが重なっていくのを感じた。
……この人は、愛する者の儚い生を、見つめてきたのだ、彼の心に影ができようとしている。
俺のこの予感にも似た確信が、俺を慌てさせた。
「どうした、アレクシス」
頬を重ねてすぐそばにある濡れたような黒い瞳をじっと見つめ、そして唇を重ねた。
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