俺が出会ったのは、淫魔だった

真白 桐羽

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第七章  阿羅国という国

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 その夜は宴となった。

美しいエルフの青年は多少ぎこちなくはあるが、はにかんだ微笑を浮かべ、阿羅国の面々と酒を傾けあった。

「まさか、あの時のあのエルフがだ……」

クレイダはいつまでも腑に落ちないと不機嫌な顔を隠さない、弟のエクトルはそんな姉に最初は丁寧に話しかけ姉の気持ちを落ち着かせようと頑張っていたが、とうとう、クレイダが酩酊しはじめたのをきっかけに、ため息をついて姉から離れた。

「エクトルは、姉が大好きなのだな」

俺のその言葉にエクトルは酒だけの理由ではなく顔を赤らめた。

「面と向かってその言葉を投げかけられると、なんだか恥ずかしいですね」

俺は笑ってエクトルの背をバンと叩いた。
まるで岩のような大きな体は、俺が少しそうしたぐらいでは少しも揺るがない。

「エクトルは、この先どうしたい?」
「この先……ですか?」
「ああ、これからのことだ」
「というと、阿羅国の行く末ということでしょうか?」
「ああ、そうだ」

俺はエクトルの精悍な顔をじっと見た。

「そうですね……私は、阿羅彦様あっての阿羅国だという思いしかありません。国としてどうあるべきか、どこへ向かうべきかもすべて、阿羅彦様の思うがままに。と、それしかありませんよ」
「ふむ……」

玲陽とまるで同じことを言うエクトルは、自信ありげに胸を張った。

「玲陽様が常にそのように、おっしゃっておられましたしね」
「やはり、そなたの心の中の大半は玲陽で成り立っているようだな」

俺の冗談交じりのその言葉に、エクトルは、目を白黒させ、両手を振って拒否の言葉を口にした。

「いいえ、違いますよ、私の心の中は阿羅彦様でいっぱいです」
「ほう……」
「しかし、玲陽様のように完璧に阿羅彦様の腹心の部下になれるかどうか、自信がないのです、私はそればかり気にしているのですよ」
「そうか……しかし、俺は、お前をとても頼りにしているのだよ。実際、阿羅国の外交の道筋をつけることには玲陽を置いて他はないと思ったが、玲陽のいない穴はどうする?という心配はさほどなかったのだ」
「と、申されますと」
「お前がいてくれるからな」

エクトルはアーモンド型の目を少し見開き、そして、俺から少し目線を外して、やがて下を向いた。

「はじめ、私は……ただ、姉を慕ってこちらに住み着いただけでしたのに……」
「うん、そうだったな」
「何も言わずに歓迎してくださり、そして、今やこのような嬉しいお言葉をいただける身分にまでなり」
「ああ」
「本当に、この身がどうなりましても、私はあなた様に生涯尽くすと、そう誓います」

エクトルは、両足を引き締め、そして右腕を折って胸に当て膝を折って頭を垂れた。

「阿羅彦様」

周りを取り囲んでいたエクトルの部下たちも続き、皆が同じ形をとる。

俺は彼らからの忠誠の誓いを受け取り、微笑みを返した。

 少し離れた席からそれをじっと見つめていた今宵の主役・アレクシスは、持っていた杯をテーブルに置き、真剣な顔でその様子をじっと見つめていた。


 彼が、どんな理由でうちに来たのか。
まだ正直わからない。
だが、この国に置いてほしいと願う者を拒まないと俺は決めている。
そのかわり、この国から出たいと思う者も引き止めはしないだろう。


 夜は更けて宴も盛り上がり、皆は普段の真面目な様子からは想像もつかないくらいに酒に酔い、泣いたり笑ったりと、収拾がつかない有様になってきた。

俺はその様子を見ながら阿羅国で作られた酒をちびちびと飲み、喉が焼けつく感覚を静かに楽しんでいた。

「二人で、話せないか?」

アレクシスは少しも乱れない姿で俺の横に立っていた。
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