俺が出会ったのは、淫魔だった

真白 桐羽

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第六章  紗国

紅葉2

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「それが本当なら、その方はどうして俺を愛しているのだろうか?会ったこともないはずだが」

紅葉は俺の言葉に寂し気に俯いて、言葉を探しているようだった。

「本当は、あなたも薄々感じていらっしゃるのでは?」
「……というと」
「あなたも『お嫁様』だったということをです」

まっすぐに見つめてくる紅葉は、年上の俺にも全く臆することない。

同じ日本出身だという、そのただ1点のみ共通点のある俺たちだが、見つめ合うだけでも会話ができそうなほどの絆を、その時に感じた。

むろんそれは、愛などではない。

もう二度と、祖国に戻れない不安や悲しみ、そして、残してきたものへの未練。
誰にも分ってはもらえないだろうというあきらめにも似た絶望感。

それらすべてを分かり合える。

「運命のいたずらで、会わなくてはならなかった一つの魂が、会うことができなかった。それは双方にとって、悲しい運命だったと言えるんじゃないですか?」
「一つの魂?」

俺はその言葉に引っかかりを覚え、聞き返す。

「ええ、僕たちのように異世界から来る『お嫁様』と、紗国の王の魂は元々二人合わせて一つ分です。まさに、魂を分け合った運命の人なのですよ。だから、お互いこうして会う前は魂を半分しか持ち合わせていないのです、だから、僕のように体が弱かったり、巡り合えなかった王は短命だったりするのです」
「会ってようやく、魂の半分が補い合えると……そう、言うのか?」

俺は思わず胸を押さえる。

ジルが、時間をかけ、半分にちぎれていたようだったという俺の魂を作り替えた。

今……その言葉の意味がようやく理解できた。

「阿羅彦様?」

心配げに顔をのぞかせた紅葉に、ぎこちなく微笑んで「大丈夫だ」と伝えた。

「……で、その、俺のことを心配しているというその人は」
「はい、いつの時代なのかはわかりません……しかしあなたがここに来た当時に紗国王であった方でしょうね」
「君の夢で、その人はなんと?」
「あなたのことが心配でならない。生きているうちに会えなかった、その悲しみをどうか伝えてくれと……そして」
「そして?」
「あなたの守護を現紗国王にお願いすると」

俺はため息をつき、そばにあった美しい籐の椅子に腰かけた。
いったい何人の庭師が世話しているのか、どこを見ても美しく整えられた庭は、どう見ても日本庭園だ。

咲いている花、植えられた木も、どことなく日本にあるものに似通っている。
どういうわけか、ここと日本は深いつながりがあるのだろうと推測された。

「だが……それは単なる、君の夢だろう?」

俺は横に立って心配げに見つめてくる少年に聞いた。

「はい、単なる夢にすぎませんね」
「それでも、こんな風に一国の王を動かしてまで、その夢の主の願いを叶えようというのか?」
「はい、僕には確信があるので」
「どんな?」
「あの夢が、普通の夢ではないという確信です」
「どうして、そんな確信が持てる?」
「夢に現れた人ははっきりと言ったのですよ、あなたのことを、『アラト』と」

一瞬時が止まったように感じた。
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