俺が出会ったのは、淫魔だった

真白 桐羽

文字の大きさ
上 下
95 / 196
第六章  紗国

紗国王3

しおりを挟む
 玲陽が特注で準備してきてくれた馬車は、一国の王が乗るものにふさわしい物だと聞いていた。

実際アオアイで何度か国賓用の馬車に乗ったが、それと同等に思ったし、俺には十分美しく立派だと思ったものだ。

しかし、目の前にある紗国王の白く輝く馬車を見て、思わず息を呑んだ。

「阿羅彦様、突然におでかけと伺って愕きましたが、まさか、紗国王とお会いになっていらしたとは」

かなり焦った顔を見せたユーチェンは、百合彦の手を引いて現れた。
一度解いた外出着をまた正装に着替え、慌てて来たのだろう。

「俺も突然の訪問に驚いたよ」
「しかも、これからですか?本当に?」

元々色白のユーチェンがさらにその表を蒼白にして、少し震える声で囁いた。

「ああ、君は、城石家の娘だとか……紗国出身の者が阿羅国の王妃とは鼻が高い」

気さくな表情で紗国王はユーチェンに話しかける。

「はい、城石家の末娘でございます。私のこともご存じとは……光栄に思います」

スッと背筋を伸ばし、先ほどまでの慌てた姿を微塵も感じさせない立派な受け答えに、俺は思わず吹き出しそうになる。

「もちろんだよ、君の父には城で話すこともあるのだ。城石家は名門なのだからね」
「まあ、ありがとう存じます」

美しい礼をする母の姿を見て、真似るように百合彦も同じく礼をすると、それを見て紗国王は目を細めた。

「ほう……かわいらしい王子だ。阿羅彦殿は立派な跡取りに恵まれて幸せでしょう」
「ええ、異論はございません」
「さあ、私と共に馬車にのりましょう。阿羅国王妃と王子もぜひに」
「お受けいたします」

ユーチェンは百合彦を連れ、当然のようにエスコートされるがまま紗国王の用意した二番目の馬車に乗り込んだ。

俺は、「さあ」とにこやかに手を差し伸べる紗国王とともに1番豪華な美しい馬車に乗り込む。

中はかなりの広さで、設えも美しい。
決して華美ではない、歴史の深さからくる重厚感と趣味の良さが素晴らしい。

「阿羅国から他国へ渡る際には、紗国を通るとか」
「ええ、森のくぎりがちょうどよく紗国に面しているのですよ。反対側の海に抜けることもできるのですが、断崖絶壁で港を作ることができませんのでね」
「なるほど……まったくもって、想像のできない場所ですね……我もあの深く大きな森を飛翔していけるのだろうか」

紗国王は目線を上げて窓の外を見た。

そこからは少しだけ深い森の一端が見える。

「紗国王ともあれば、不可能なことはありませんよ。それに一度に飛ぶ必要はありません。途中で何度か休めばよいのです。持ち運びの天幕や道中の食事も持てば良いことです」
「ふむ……」
「ご興味がおありですか?」
「それは、とてもありますね。新しくできた国はどこからも出入りが難しい秘境で、しかも一番近い玄関口は我が国に面した森なのだから」

紗国王は片眉を上げておどけたように言った。

「それにね、紅葉が、あなたの国を非常に気にするのです」
「私や、私の国にどうしてそこまで」
「それは、私が聞きたいことです、妬けますよ、ほかの男子を気にするなどと」

そういって朗らかに言った。

あれこれと話すうちに、きゅっと静かに車が止まり、扉が静かに開けられた。

「さあ、我が紗国城にようこそ。歓迎いたしますよ」

紗国王は旧友のように親し気に微笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

冥府への案内人

伊駒辰葉
BL
 !注意!  タグはBLになってますが、百合もフツーも入り交じってます。  地雷だという方は危険回避してください。  ガッツリなシーンがあります。 主人公と取り巻く人々の物語です。 群像劇というほどではないですが、登場人物は多めです。 20世紀末くらいの時代設定です。 ファンタジー要素があります。 ギャグは作中にちょっと笑えるやり取りがあるくらいです。 全体的にシリアスです。 色々とガッツリなのでR-15指定にしました。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~

ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。 *マークはR回。(後半になります) ・ご都合主義のなーろっぱです。 ・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。 腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手) ・イラストは青城硝子先生です。

魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺

ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。 その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。 呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!? 果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……! 男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?) ~~~~ 主人公総攻めのBLです。 一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。 ※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。

処理中です...