俺が出会ったのは、淫魔だった

真白 桐羽

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第六章  紗国

使者

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 広く大きな空を見上げた。
この世界では空が本当に美しい。

かつて住んでいた世界では、これほどの澄んだ空気はありえなかった。
それは茶畑の広がる祖父の土地でもそうだ。
旅行先で見た美しい大自然、18歳という短い年齢の間にも様々な体験を親からもらったはず。
だがそのどれとも本質的に違う美しさがここにはある。

この世界はどこか違う。
違って当たり前なのだが……

そう、俺はあきらかにこの地の方が体が馴染んでいるのだ。

俺は初めからここに来るように作られていたのではないか?
そう思えてしまうほどに。

 馬車から見える風景は徐々に田園風景から街中へと変わっていった。
同乗しているユーチェンと百合彦は疲れて眠っている。

 二人を見ていて俺は思う。
俺にも家族ができたのだなと。
普通ではありえない誕生の仕方であっても、百合彦は俺の子だ。
俺の幼いころによく似た面差しを百合彦の中に見つけるたびに、親を思った。
この子を見せてやりたかったと。

「阿羅彦様、まもなく紗国の都でございます。門では軽く検問がございます」
「了解した」

クレイダの弟・エクトルの低く落ち着いた声で知らされ、俺は組んでいた腕をほどき、深呼吸した。

 行きでは避けて通った大国・紗国の都。
窓から先を見ると朱色の門が見えてきた。
美しい意匠のその門は、どこか、日本の神社の鳥居に似ていた。

 やがて馬車が速度を落とし、ゆっくりと止まった。
扉が開かれると、そこには恭しく頭を下げる10名ほどの使者がいた。

「この度は阿羅国・国王陛下、王妃殿下、第一王子殿下、紗国の都にようこそおいでになられました。我が国の都にて、安全な滞在ができますよう取り計らいいたします。まずはどうぞ我が君からの贈り物をお受け取りいただければ幸いでございます」

一度も顔を上げることなく、腰を折ったままそう話すと、控えていた者が4人がかりで大きな箱を差し出した。
エクトルが部下と共に恭しくその箱を受け取り、礼を返すと、ようやく使者は顔を上げ、俺を見た。

 くすんだ銀色の長い髪と形の良い三角の耳、そして美しい毛並みの尾をピンと立て、やわらかく微笑んだ。
俺は一瞬それに見惚れ、狐族の貴族の美しさに感嘆した。

アオアイで見た貴族らも見目は整っていたが、彼ほどではなかった。

「私はこの国の第6王子でございます、現在は外交を任されております、梢紗しょうしゃと申します。ご滞在中、何事もぜひ私にお申し付けくださいませ」

中世的な声で歌うようにそう伝えると視線をユーチェンに向け、控えめに微笑んだ。

「まさか、城石家のお嬢様が王妃におなりになっておられるとは」
「久しぶりでございますね、梢紗様」

ユーチェンは懐かし気に声を弾ませた。

「知り合いなのか?」
「ええ、私たちは城の学び舎で二年ほど一緒に学んだのですよ」
「私はそのあとアオアイに留学いたしましたので、それからお会いしていませんので、そうですね……かれこれ13年ぶりというところでしょうか」

二人はそれぞれに再会を喜び、きりの良いところで宿へ案内されるということになった。

「ご予約されている宿よりも、城の迎賓館にお泊りになられては?」
「……それは、願ってもない申し出でありがたいが、我々はそのように国賓のように扱われるのは慣れておらぬし、そもそも公式な訪問というわけでもない。今回は遠慮して、紗国の美しい都を堪能することにするよ」
「そうでございますか、それは我が君が残念がられることでしょう」
「紗国王……玖羅紗くらしゃ殿であったな」
「はい」
「このように歓迎してもらえ、光栄に思う。私もぜひいつかお礼に参りたい旨を伝えてくれ、今回は目的がアオアイでの事務処理だったゆえ、我々は何もかも準備が足りていないことをご了承願いたい」
「承知いたしました」

梢紗は優雅な礼をして再び俺を見、そして少し頬を色づかせた。

「では、ここから先は部下が先導いたします。良い旅を」

再び馬車の扉が閉められ、ゆっくりと動き出した。


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