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第五章 アオアイへ
王太子マドア6
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窓の外に大きな美しい鳥が見えた。
極彩色を纏った美しい羽を優雅にはためいて、ちらりとこちらを見た。
「……っ」
目が覚めてあたりを見渡す。
だが、自分がどこにいるのかわからず焦って上掛けを握りしめると、キュッと絹鳴りの音がした。
「アラト?」
後ろから抱きしめられて振り向くと恥ずかしそうに微笑むマドア王太子がいた。
そこで気づく、俺はそうだ、彼と体の関係を持ったのだ。
「もう、お昼過ぎですよ。あなたがこんなにぐっすりと寝てしまうなんて。だけど、寝顔を見ることができたから嬉しかった」
「まさか、他国の王族の部屋で寝てしまうとは」
「色々と気が張っていらしたのでしょう?アオアイの地ははじめていらしたのだし、あなたにはまだまだ和める場所ではないでしょうからね」
「それはそうだが……だからといって王太子の部屋で寝てしまうなど」
俺は少々焦って見渡し、着物を探した。
まだ、ふたりとも全裸なのだ。
「急ぐことはありません、この後は夕方すぎに用事があるだけで、あなたも私も二人の時間を楽しめるはずです、今、食事を用意をさせましょう」
マドアは俺の横からするりと抜け、細く滑らかな裸体を晒した。
日の光が彼の体を余すことなく輝かせて、森の中にいたかつての恋人を思い出させた。
「そんなに見つめられると照れます」
頬を赤くして上目遣いに俺を見つめ、そしてサイドテーブルにきれいにたたまれて置かれていた俺の着物を寄越した。
くすりといたずらっ子のように微笑んで、俺の頬にキスをして呟いた。
「阿羅国の王は、一人で着物の支度ができますか?」
「……俺は、そうだな、できるぞ?」
「良かった。あなたの支度を侍女にさせるのは妬けますから」
頬を赤くしたまま真面目な顔でそう言い終えると、マドアは白い薄衣の下着を羽織り、腰ひもを締め、刺繍の美しい王太子の装束に手をかけた。
「だから……そんなにじっと見つめないでくださいってば」
おかしそうに笑って、それでも手を休めずに美しい装束を身にまとう様から、俺は目が離せなかった。
俺もたたまれた着物を広げ、襦袢から身に着ける。
アオアイの夏の気候に合わせて、紗の織物だ、透けていて見た目も涼しく美しい。
俺の黒い髪と黒い目に合うからと言って、ユーチェンは濃い色を用意する傾向があった。
今日の着物は濃鼠の地で、緻密に鎖が交差しているような織柄が浮かんでいる、その上に金糸で美しく刺繍がされており、王家の者が身にまとうものに相応しい出来栄えだ。
「さあ」
俺が着物を帯を結び終え、袴を身に着けていると、マドア王太子は紗の羽織を手に持ち俺に着せようと広げていた。
「ありがとう、マドア」
「アラト……こんな風にしているとまるで夫婦ですね」
そしてまた、クスリと笑って、流れるようなしぐさで鈴を鳴らした。
だが、やがて現れた侍従に昼食の準備を告げると振り向いて、真顔になった。
「実は……先ほど、あなたの夢を、共有しました……覗き見たような気がしてしまって……あるいは、伝えないほうがいいのではとも思いましたが、それでもあなたには正直でありたいと願う自分勝手な思いが私にはあって」
「どんな夢を見たのです?」
「深い森の中、美しい湖のへりにある古い宮殿のような場所、あれは……あなたが唯一愛した方なのでしょうね、夢を通して気持ちまでもが入ってきました」
泣きそうな顔で、マドア王太子は懸命に言葉を紡いだ。
「私と同じような体つきの……いや、それ以上に儚げで壊れそうな美しい方。きらめくような金色の髪に黄金の瞳……ジル……ジル様とおっしゃるあの方はいったい」
マドア王太子は唇をかみしめて俺を食い入るように見つめた。
俺は歩み寄り、そっと抱きしめた。
強く抱きしめると壊れそうな気がして。
「ジルはもう、亡くなったのだ。彼は、どこへ行く当てもなかった私を助け、そして愛してくれた大切な人だった、私もまた、彼を愛していた。だが、彼の素性を話すことはできない。それが、彼の願いだからだ」
腕の中でマドアが微かに身じろいだ。
「願い……そう、願いですか」
「ああ、そうだ」
「ですが、不思議です、なぜ私はあなたの記憶を覗くかのように、夢を共有できたのでしょうか」
そして、顔をあげて俺をじっと見つめた。
「……他言無用でお願いしたいのだが……私の異能は、夢を通して人に夢を見せたり、そして」
「そして?」
「夢を通じて、心のつながった人のもとへ行くこともできる……と言って、あなたは信じられましょうか?」
マドアの瞳は見開かれた。
極彩色を纏った美しい羽を優雅にはためいて、ちらりとこちらを見た。
「……っ」
目が覚めてあたりを見渡す。
だが、自分がどこにいるのかわからず焦って上掛けを握りしめると、キュッと絹鳴りの音がした。
「アラト?」
後ろから抱きしめられて振り向くと恥ずかしそうに微笑むマドア王太子がいた。
そこで気づく、俺はそうだ、彼と体の関係を持ったのだ。
「もう、お昼過ぎですよ。あなたがこんなにぐっすりと寝てしまうなんて。だけど、寝顔を見ることができたから嬉しかった」
「まさか、他国の王族の部屋で寝てしまうとは」
「色々と気が張っていらしたのでしょう?アオアイの地ははじめていらしたのだし、あなたにはまだまだ和める場所ではないでしょうからね」
「それはそうだが……だからといって王太子の部屋で寝てしまうなど」
俺は少々焦って見渡し、着物を探した。
まだ、ふたりとも全裸なのだ。
「急ぐことはありません、この後は夕方すぎに用事があるだけで、あなたも私も二人の時間を楽しめるはずです、今、食事を用意をさせましょう」
マドアは俺の横からするりと抜け、細く滑らかな裸体を晒した。
日の光が彼の体を余すことなく輝かせて、森の中にいたかつての恋人を思い出させた。
「そんなに見つめられると照れます」
頬を赤くして上目遣いに俺を見つめ、そしてサイドテーブルにきれいにたたまれて置かれていた俺の着物を寄越した。
くすりといたずらっ子のように微笑んで、俺の頬にキスをして呟いた。
「阿羅国の王は、一人で着物の支度ができますか?」
「……俺は、そうだな、できるぞ?」
「良かった。あなたの支度を侍女にさせるのは妬けますから」
頬を赤くしたまま真面目な顔でそう言い終えると、マドアは白い薄衣の下着を羽織り、腰ひもを締め、刺繍の美しい王太子の装束に手をかけた。
「だから……そんなにじっと見つめないでくださいってば」
おかしそうに笑って、それでも手を休めずに美しい装束を身にまとう様から、俺は目が離せなかった。
俺もたたまれた着物を広げ、襦袢から身に着ける。
アオアイの夏の気候に合わせて、紗の織物だ、透けていて見た目も涼しく美しい。
俺の黒い髪と黒い目に合うからと言って、ユーチェンは濃い色を用意する傾向があった。
今日の着物は濃鼠の地で、緻密に鎖が交差しているような織柄が浮かんでいる、その上に金糸で美しく刺繍がされており、王家の者が身にまとうものに相応しい出来栄えだ。
「さあ」
俺が着物を帯を結び終え、袴を身に着けていると、マドア王太子は紗の羽織を手に持ち俺に着せようと広げていた。
「ありがとう、マドア」
「アラト……こんな風にしているとまるで夫婦ですね」
そしてまた、クスリと笑って、流れるようなしぐさで鈴を鳴らした。
だが、やがて現れた侍従に昼食の準備を告げると振り向いて、真顔になった。
「実は……先ほど、あなたの夢を、共有しました……覗き見たような気がしてしまって……あるいは、伝えないほうがいいのではとも思いましたが、それでもあなたには正直でありたいと願う自分勝手な思いが私にはあって」
「どんな夢を見たのです?」
「深い森の中、美しい湖のへりにある古い宮殿のような場所、あれは……あなたが唯一愛した方なのでしょうね、夢を通して気持ちまでもが入ってきました」
泣きそうな顔で、マドア王太子は懸命に言葉を紡いだ。
「私と同じような体つきの……いや、それ以上に儚げで壊れそうな美しい方。きらめくような金色の髪に黄金の瞳……ジル……ジル様とおっしゃるあの方はいったい」
マドア王太子は唇をかみしめて俺を食い入るように見つめた。
俺は歩み寄り、そっと抱きしめた。
強く抱きしめると壊れそうな気がして。
「ジルはもう、亡くなったのだ。彼は、どこへ行く当てもなかった私を助け、そして愛してくれた大切な人だった、私もまた、彼を愛していた。だが、彼の素性を話すことはできない。それが、彼の願いだからだ」
腕の中でマドアが微かに身じろいだ。
「願い……そう、願いですか」
「ああ、そうだ」
「ですが、不思議です、なぜ私はあなたの記憶を覗くかのように、夢を共有できたのでしょうか」
そして、顔をあげて俺をじっと見つめた。
「……他言無用でお願いしたいのだが……私の異能は、夢を通して人に夢を見せたり、そして」
「そして?」
「夢を通じて、心のつながった人のもとへ行くこともできる……と言って、あなたは信じられましょうか?」
マドアの瞳は見開かれた。
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