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第五章 アオアイへ
王太子マドア3
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さわやかな朝の風があけ放たれたバルコニーから吹き込み、俺の伸びた黒髪がそよいだ。
約1分ほど抽出した緑茶をティーカップに入れ、王太子の席に置くと、彼は嬉しそうにほとんど跳ねるようにしていそいそと席についた。
「ああ、良い香りです」
「今後はぜひ、茶器も作っていきたいですね」
「茶器を?」
「ええ、ティーカップではどうにも違和感がぬぐえませんので」
俺は茶を口に運ぶ、大変よい味で満足だ。
その様子をじっと見ていた王太子は宝物を持つようにしてカップをもちあげ、そして口に含む
「ああ、さわやかでとても良い香りがします……渋みはほとんどないのですね」
「ええ、それはまあ種類にもよりますし、入れ方にもよります」
「ふむ……なんとも奥深いですね」
「お気に召したようで、うれしいですよ」
「ええ、とても。そしてそのあなたが作りたいという茶器がどのような意匠になるか、今から楽しみで仕方ありません、いずれ、出来上がった折にはぜひとも私のもとへも届けてほしいと、そう思ってしまう」
そして少し恥ずかしそうにうつむいた。
「ええ、もちろん準備いたしますよ、しかし、そこまで我らのことを気にしていただけるとは、ここに来るまでは思ってもいませんでした」
はにかむ様子のマドア王太子をじっと見つめた。
その視線に気づいて顔をあげ、見つめ返してきて、そしてゆっくりと口を開いた。
「あなた方の悪い噂をご存じでしょうか」
「ええ、人さらいの国と、そう言われていることならば」
俺はティーカップをソーサーの上に置いて、バルコニーを見つめた。
抜けるような青い空、それに似合う入道雲、夕方にスコールのような雨が5分程度降る。
今日も、そうなのだろうか。
「書類でそのことを知り、私はその噂の真偽を測りかねました。私たちにはその噂を一つ一つを慎重に調査すべき責任もありましたし、そして、もしも言われている通りならば、あなた方をこの島の裁判所にかけることが必要だと、そう思ったのです」
王太子の顔を再び見た。
真剣なまなざしで俺を見つめている。
「歓迎しているようなそぶりで、実はそんなことを考えていた私に失望しましたか?」
瞳の光が一瞬揺らいで見えた。
「いえ、あなたの立場なら、少しもおかしくはありません」
「ですからはじめは、裁判所であなたの申し開きを伺おうと、そう思っていたのです」
「それで、我々に裁判所に提出するよう書類を渡されていたのですね」
玲陽が部下と懸命に取り組んでいた提出した書類を思い出す。
事細かに国の成り立ちや国民のことを書き留めねばならなかった。
しかしそれは国として認めてもらうために必要なことであると、玲陽らは信じて疑わなかった。
だが、俺はなんとなく察していた、信用はされていないだろうと。
「だが、あなたは裁判所に行かずとも良いと、そう我々に言われた」
王太子は俺の言葉に大きく頷き、そして静かに笑みをこぼした。
「あなたを一目見て、そして、あなたの臣下の顔を見て、わかったのです。あなたがいかに正直に生きてきたか、そして、あなたのために臣下らが力を尽くそうとどれほど懸命であるか。……うらやましかった」
「うらやましい?」
「ええ、ただ、かしずかれているのならば、私も同じでしょう。立場ある者に人はみな腰を折るものです。……だけど、あなたへの彼らの忠誠心は違います。あの者らは心からあなたを尊敬して、そして、敬愛している。それが感じられたのです」
俺はなんと言えばいいのか迷って、目を泳がせた。
「そして、なによりも……あなた自身から漲る力……魔力の大小だけではなく。なんと表現したら良いのしょう……つまり、生命力の強さ、そしてあふれ出る美しさ……そう、あなたはあまりにも魅力的でした。あなたが各国から人をさらっている、そんなことをするはずがないと、一目でわかりました」
俺は多少面食らって王太子の顔を見つめ返した。
「それほどの賛辞を……これは本当に名誉なことです」
そして、微笑んだ、うまく笑えているか自信が無い。
「私はあなたとの謁見を前に、父にこう告げておりました。裁判を行うかどうかの判断をまずはお会いしてみて決めたいと」
「アオアイ王はどう言われたのだ?」
「全権を私にゆだねたのだから、好きにするがいいよと、そう一言だけ」
王太子は目線を落とすと、ティーカップを取り、緑茶を飲んだ。
優雅な所作で少しも隙が無い。
「父は、もう長くありません。私は本当の意味で王にとなる日も近いでしょう。父はそれをご自分で理解なさっている。その上で、私にはもう何も指示をなさらない」
「それは、マドア殿を信用なさっておいでだからでしょうね」
「ええ、そうであると、信じています」
「あなたのその判断が間違っていたとは、誰にも言わせませんよ」
マドア王太子はにじむように微笑んだ。
約1分ほど抽出した緑茶をティーカップに入れ、王太子の席に置くと、彼は嬉しそうにほとんど跳ねるようにしていそいそと席についた。
「ああ、良い香りです」
「今後はぜひ、茶器も作っていきたいですね」
「茶器を?」
「ええ、ティーカップではどうにも違和感がぬぐえませんので」
俺は茶を口に運ぶ、大変よい味で満足だ。
その様子をじっと見ていた王太子は宝物を持つようにしてカップをもちあげ、そして口に含む
「ああ、さわやかでとても良い香りがします……渋みはほとんどないのですね」
「ええ、それはまあ種類にもよりますし、入れ方にもよります」
「ふむ……なんとも奥深いですね」
「お気に召したようで、うれしいですよ」
「ええ、とても。そしてそのあなたが作りたいという茶器がどのような意匠になるか、今から楽しみで仕方ありません、いずれ、出来上がった折にはぜひとも私のもとへも届けてほしいと、そう思ってしまう」
そして少し恥ずかしそうにうつむいた。
「ええ、もちろん準備いたしますよ、しかし、そこまで我らのことを気にしていただけるとは、ここに来るまでは思ってもいませんでした」
はにかむ様子のマドア王太子をじっと見つめた。
その視線に気づいて顔をあげ、見つめ返してきて、そしてゆっくりと口を開いた。
「あなた方の悪い噂をご存じでしょうか」
「ええ、人さらいの国と、そう言われていることならば」
俺はティーカップをソーサーの上に置いて、バルコニーを見つめた。
抜けるような青い空、それに似合う入道雲、夕方にスコールのような雨が5分程度降る。
今日も、そうなのだろうか。
「書類でそのことを知り、私はその噂の真偽を測りかねました。私たちにはその噂を一つ一つを慎重に調査すべき責任もありましたし、そして、もしも言われている通りならば、あなた方をこの島の裁判所にかけることが必要だと、そう思ったのです」
王太子の顔を再び見た。
真剣なまなざしで俺を見つめている。
「歓迎しているようなそぶりで、実はそんなことを考えていた私に失望しましたか?」
瞳の光が一瞬揺らいで見えた。
「いえ、あなたの立場なら、少しもおかしくはありません」
「ですからはじめは、裁判所であなたの申し開きを伺おうと、そう思っていたのです」
「それで、我々に裁判所に提出するよう書類を渡されていたのですね」
玲陽が部下と懸命に取り組んでいた提出した書類を思い出す。
事細かに国の成り立ちや国民のことを書き留めねばならなかった。
しかしそれは国として認めてもらうために必要なことであると、玲陽らは信じて疑わなかった。
だが、俺はなんとなく察していた、信用はされていないだろうと。
「だが、あなたは裁判所に行かずとも良いと、そう我々に言われた」
王太子は俺の言葉に大きく頷き、そして静かに笑みをこぼした。
「あなたを一目見て、そして、あなたの臣下の顔を見て、わかったのです。あなたがいかに正直に生きてきたか、そして、あなたのために臣下らが力を尽くそうとどれほど懸命であるか。……うらやましかった」
「うらやましい?」
「ええ、ただ、かしずかれているのならば、私も同じでしょう。立場ある者に人はみな腰を折るものです。……だけど、あなたへの彼らの忠誠心は違います。あの者らは心からあなたを尊敬して、そして、敬愛している。それが感じられたのです」
俺はなんと言えばいいのか迷って、目を泳がせた。
「そして、なによりも……あなた自身から漲る力……魔力の大小だけではなく。なんと表現したら良いのしょう……つまり、生命力の強さ、そしてあふれ出る美しさ……そう、あなたはあまりにも魅力的でした。あなたが各国から人をさらっている、そんなことをするはずがないと、一目でわかりました」
俺は多少面食らって王太子の顔を見つめ返した。
「それほどの賛辞を……これは本当に名誉なことです」
そして、微笑んだ、うまく笑えているか自信が無い。
「私はあなたとの謁見を前に、父にこう告げておりました。裁判を行うかどうかの判断をまずはお会いしてみて決めたいと」
「アオアイ王はどう言われたのだ?」
「全権を私にゆだねたのだから、好きにするがいいよと、そう一言だけ」
王太子は目線を落とすと、ティーカップを取り、緑茶を飲んだ。
優雅な所作で少しも隙が無い。
「父は、もう長くありません。私は本当の意味で王にとなる日も近いでしょう。父はそれをご自分で理解なさっている。その上で、私にはもう何も指示をなさらない」
「それは、マドア殿を信用なさっておいでだからでしょうね」
「ええ、そうであると、信じています」
「あなたのその判断が間違っていたとは、誰にも言わせませんよ」
マドア王太子はにじむように微笑んだ。
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