俺が出会ったのは、淫魔だった

真白 桐羽

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第五章  アオアイへ

永遠

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「阿羅彦様」

 せりだした広く豪華なバルコニーで夕闇迫る海を眺める俺に、背後から玲陽が呼びかけた。
振り向いて微笑んでやると、嬉しそうに顔を赤らめた。

「すまんな、玲陽、お前を外に出すのは俺もいささか不安ではある」
「そのお言葉が何よりもうれしいです」

 目を伏せて静かに立ち尽くす玲陽の腕を引き、抱きしめた。

 本格的に国として泳ぎだした阿羅国のため、玲陽は各国に赴き調整をして回らねばならない。
 つまり、外交を担うわけだ。
はじめは、単なる飛翔部隊として束ねる隊長であった。
しかし、今では優秀なうえに勤勉でもあった彼をおいて他にこの重要な役割を任せられる者はいない。
 玲陽はここで別れ、選ばせた部下5名と共に、各国をめぐる旅に出る。
阿羅国との通信のやり取りで飛翔隊との連携はとるが、玲陽自体が阿羅国に戻る日がいつになるかはわからない。

 ここは現代日本ではないのだ。
 通信手段は限られている。

「お前はまだ若い、今のうちに見聞を広めるのは良いことだ、それにいつまでもというわけではない。体制が整えば帰国し、我のそばに仕えることもできる」
「はい、阿羅彦様から直々のご指名でございます、何よりうれしいことです」

オレンジ色の優しいランプに照らされて美しい白髪もほんのりとその色に染まっていた。

どこかさみし気に揺れる瞳を見つめながら口づけると、目は閉じられ、そして噛みつくように俺を求めて来る。
普段の玲陽とは違うその様に、彼の乱れる心が透けているようで切なかった。

「聞くんだ、玲陽」
「……」

何も言わず濡れた唇を半開きにして俺を見上げた。

「俺の能力を忘れたのか?」
「……忘れてなど……しかし、おそばにいるのとは違います」
「お前のもとに夜ごと赴くこともできるのだがな」

そう言うと、くすりと静かに笑みをこぼして、そしてやがて決心したように俺の目を見つめて口を開いた。

「私は、あなたのそばにいつでもいける術を持っていないのです、阿羅彦様が私のもとにいらしたとしても、私はあなたが必要な時に自分からは駆け付けられない」
俺は瞠目し、玲陽をただ見つめた。

「あの少数民族の長は、阿羅国を故郷とすると、そう決めたらしいではないですか」
「ああ、そうだ、詳しいことは俺にもわからない」
「当たり前です、あなたのような方を目の前にして、この方についていきたいと、そう思わない者はいないでしょう」
「それは……」

俺はさすがに堪えきれずに笑いをこぼした。

「さすがに買いかぶりすぎだ、玲陽」
「いえ、そんなことはございません」
「しかし、あれは公式の場ではないが、世界中の使者や王族がいる前で腰を折り俺に頭をさげたのだ、もはや撤回はできまいし、本気なのだろうな」

美しい白髪の男を思い浮かべ、思わず苦笑した。

「これからはもっと」
「ん?」
「これからはもっと、ですよ、あなたを一目見たいという者、あなたのもとで働きたいと思う者、それに……それに……」
「それに?」
「あなたを愛する者が……あの少数民族の長がそうかもしれません、あの人ならばあなたの横にふさわしいのかも」
「ほう」

 俺は玲陽の手を引き部屋に入ると、大きなベッドに玲陽をぽすりと倒した。
逆らわずにベッドに仰向けになって切なげに俺を見つめた。

「あなたには、いつもそばにいて愛をささやく人が必要なのです、阿羅彦様」

俺は玲陽の顔の両側に手を置き、見下ろした。

「何が言いたい」
「私以外にも、どうか、おつくりください。今私にしたように、いつでも手を引いて、こうやって押し倒せる人を」

そうして玲陽は目を閉じた。

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