80 / 196
第五章 アオアイへ
永遠
しおりを挟む
「阿羅彦様」
せりだした広く豪華なバルコニーで夕闇迫る海を眺める俺に、背後から玲陽が呼びかけた。
振り向いて微笑んでやると、嬉しそうに顔を赤らめた。
「すまんな、玲陽、お前を外に出すのは俺もいささか不安ではある」
「そのお言葉が何よりもうれしいです」
目を伏せて静かに立ち尽くす玲陽の腕を引き、抱きしめた。
本格的に国として泳ぎだした阿羅国のため、玲陽は各国に赴き調整をして回らねばならない。
つまり、外交を担うわけだ。
はじめは、単なる飛翔部隊として束ねる隊長であった。
しかし、今では優秀なうえに勤勉でもあった彼をおいて他にこの重要な役割を任せられる者はいない。
玲陽はここで別れ、選ばせた部下5名と共に、各国をめぐる旅に出る。
阿羅国との通信のやり取りで飛翔隊との連携はとるが、玲陽自体が阿羅国に戻る日がいつになるかはわからない。
ここは現代日本ではないのだ。
通信手段は限られている。
「お前はまだ若い、今のうちに見聞を広めるのは良いことだ、それにいつまでもというわけではない。体制が整えば帰国し、我のそばに仕えることもできる」
「はい、阿羅彦様から直々のご指名でございます、何よりうれしいことです」
オレンジ色の優しいランプに照らされて美しい白髪もほんのりとその色に染まっていた。
どこかさみし気に揺れる瞳を見つめながら口づけると、目は閉じられ、そして噛みつくように俺を求めて来る。
普段の玲陽とは違うその様に、彼の乱れる心が透けているようで切なかった。
「聞くんだ、玲陽」
「……」
何も言わず濡れた唇を半開きにして俺を見上げた。
「俺の能力を忘れたのか?」
「……忘れてなど……しかし、おそばにいるのとは違います」
「お前のもとに夜ごと赴くこともできるのだがな」
そう言うと、くすりと静かに笑みをこぼして、そしてやがて決心したように俺の目を見つめて口を開いた。
「私は、あなたのそばにいつでもいける術を持っていないのです、阿羅彦様が私のもとにいらしたとしても、私はあなたが必要な時に自分からは駆け付けられない」
俺は瞠目し、玲陽をただ見つめた。
「あの少数民族の長は、阿羅国を故郷とすると、そう決めたらしいではないですか」
「ああ、そうだ、詳しいことは俺にもわからない」
「当たり前です、あなたのような方を目の前にして、この方についていきたいと、そう思わない者はいないでしょう」
「それは……」
俺はさすがに堪えきれずに笑いをこぼした。
「さすがに買いかぶりすぎだ、玲陽」
「いえ、そんなことはございません」
「しかし、あれは公式の場ではないが、世界中の使者や王族がいる前で腰を折り俺に頭をさげたのだ、もはや撤回はできまいし、本気なのだろうな」
美しい白髪の男を思い浮かべ、思わず苦笑した。
「これからはもっと」
「ん?」
「これからはもっと、ですよ、あなたを一目見たいという者、あなたのもとで働きたいと思う者、それに……それに……」
「それに?」
「あなたを愛する者が……あの少数民族の長がそうかもしれません、あの人ならばあなたの横にふさわしいのかも」
「ほう」
俺は玲陽の手を引き部屋に入ると、大きなベッドに玲陽をぽすりと倒した。
逆らわずにベッドに仰向けになって切なげに俺を見つめた。
「あなたには、いつもそばにいて愛をささやく人が必要なのです、阿羅彦様」
俺は玲陽の顔の両側に手を置き、見下ろした。
「何が言いたい」
「私以外にも、どうか、おつくりください。今私にしたように、いつでも手を引いて、こうやって押し倒せる人を」
そうして玲陽は目を閉じた。
せりだした広く豪華なバルコニーで夕闇迫る海を眺める俺に、背後から玲陽が呼びかけた。
振り向いて微笑んでやると、嬉しそうに顔を赤らめた。
「すまんな、玲陽、お前を外に出すのは俺もいささか不安ではある」
「そのお言葉が何よりもうれしいです」
目を伏せて静かに立ち尽くす玲陽の腕を引き、抱きしめた。
本格的に国として泳ぎだした阿羅国のため、玲陽は各国に赴き調整をして回らねばならない。
つまり、外交を担うわけだ。
はじめは、単なる飛翔部隊として束ねる隊長であった。
しかし、今では優秀なうえに勤勉でもあった彼をおいて他にこの重要な役割を任せられる者はいない。
玲陽はここで別れ、選ばせた部下5名と共に、各国をめぐる旅に出る。
阿羅国との通信のやり取りで飛翔隊との連携はとるが、玲陽自体が阿羅国に戻る日がいつになるかはわからない。
ここは現代日本ではないのだ。
通信手段は限られている。
「お前はまだ若い、今のうちに見聞を広めるのは良いことだ、それにいつまでもというわけではない。体制が整えば帰国し、我のそばに仕えることもできる」
「はい、阿羅彦様から直々のご指名でございます、何よりうれしいことです」
オレンジ色の優しいランプに照らされて美しい白髪もほんのりとその色に染まっていた。
どこかさみし気に揺れる瞳を見つめながら口づけると、目は閉じられ、そして噛みつくように俺を求めて来る。
普段の玲陽とは違うその様に、彼の乱れる心が透けているようで切なかった。
「聞くんだ、玲陽」
「……」
何も言わず濡れた唇を半開きにして俺を見上げた。
「俺の能力を忘れたのか?」
「……忘れてなど……しかし、おそばにいるのとは違います」
「お前のもとに夜ごと赴くこともできるのだがな」
そう言うと、くすりと静かに笑みをこぼして、そしてやがて決心したように俺の目を見つめて口を開いた。
「私は、あなたのそばにいつでもいける術を持っていないのです、阿羅彦様が私のもとにいらしたとしても、私はあなたが必要な時に自分からは駆け付けられない」
俺は瞠目し、玲陽をただ見つめた。
「あの少数民族の長は、阿羅国を故郷とすると、そう決めたらしいではないですか」
「ああ、そうだ、詳しいことは俺にもわからない」
「当たり前です、あなたのような方を目の前にして、この方についていきたいと、そう思わない者はいないでしょう」
「それは……」
俺はさすがに堪えきれずに笑いをこぼした。
「さすがに買いかぶりすぎだ、玲陽」
「いえ、そんなことはございません」
「しかし、あれは公式の場ではないが、世界中の使者や王族がいる前で腰を折り俺に頭をさげたのだ、もはや撤回はできまいし、本気なのだろうな」
美しい白髪の男を思い浮かべ、思わず苦笑した。
「これからはもっと」
「ん?」
「これからはもっと、ですよ、あなたを一目見たいという者、あなたのもとで働きたいと思う者、それに……それに……」
「それに?」
「あなたを愛する者が……あの少数民族の長がそうかもしれません、あの人ならばあなたの横にふさわしいのかも」
「ほう」
俺は玲陽の手を引き部屋に入ると、大きなベッドに玲陽をぽすりと倒した。
逆らわずにベッドに仰向けになって切なげに俺を見つめた。
「あなたには、いつもそばにいて愛をささやく人が必要なのです、阿羅彦様」
俺は玲陽の顔の両側に手を置き、見下ろした。
「何が言いたい」
「私以外にも、どうか、おつくりください。今私にしたように、いつでも手を引いて、こうやって押し倒せる人を」
そうして玲陽は目を閉じた。
0
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
冥府への案内人
伊駒辰葉
BL
!注意!
タグはBLになってますが、百合もフツーも入り交じってます。
地雷だという方は危険回避してください。
ガッツリなシーンがあります。
主人公と取り巻く人々の物語です。
群像劇というほどではないですが、登場人物は多めです。
20世紀末くらいの時代設定です。
ファンタジー要素があります。
ギャグは作中にちょっと笑えるやり取りがあるくらいです。
全体的にシリアスです。
色々とガッツリなのでR-15指定にしました。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い


確率は100
春夏
BL
【完結しました】【続編公開中】
現代日本で知り合った2人が異世界で再会してイチャラブしながら冒険を楽しむお話。再会は6章。1話は短めです。Rは3章の後半から、6章からは固定カプ。※つけてます。5話くらいずつアップします。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~
ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。
*マークはR回。(後半になります)
・ご都合主義のなーろっぱです。
・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。
腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手)
・イラストは青城硝子先生です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる