75 / 196
第五章 アオアイへ
訪れ1
しおりを挟む
ならず者たちがアオアイの宴に来る。
口さがない者達はそう噂を流した。
いかに沈滞石があろうとも、この程度の悪意はやはり巷を駆け巡る。
それが誰かの嫉妬からなる単なる悪口であろうと、或いは真実であろうと、そんなことはどちらでも良いのだ。
人という者は何か面白いネタがあると見ると、こっそりとそれに注目する。
皆は、今滞在している『阿羅国』という者達を監視しているのだ。
「お誘いは喜ばしいことなのですが……」
ユーチェンは憂い顔で手を顎にあてた。
「どうかしたか?」
「私もクレイダも、ですよね?百合彦もですか?」
「そう考えているよ」
「こういう場での正式なマナーを身につけられているのは、私と玲陽くらいなものです、百合彦は子供だから許される面もあるかもしれませんが、クレイダやその他の面々は貴族ではありません」
「うむ……」
その事は阿羅国での大きな課題だ。
他の国から馬鹿にされている理由の一つでもある。
だが、日本という国で生まれた俺からすると、そもそも階級社会というものに馴染めない。
貴族がどうしたというのだ、同じ人間じゃないかと、どうしてもそう思ってしまうのだ。
「まあ、その国々によって常識は違って当たり前だろう。こちらにはこちらの流儀があるのだと胸を張れないか?」
「はぁ……」
クレイダはなおも晴れない顔で俺の体に晩餐用の衣装を着せていく。
アオアイは南にある島国で常夏だ。
それに合わせた薄い透ける着物を重ねていく、透けているので下の模様が美しく透ける。
金糸の織り込まれた軽い帯を結び、その上に張りのある袴を付けた。
「阿羅国には王冠を作る予定はございますか?」
「王冠か……」
考えもしなかったが、こういう場には必要だったかもしれない。
「もしもお考えならば、腕のいい細工職人が紗国におります。そこに注文なさるのは?」
「うむ……だが、作るとすれば、俺は阿羅国で待っているあいつらに頼みたいぞ」
俺の脳裏に浮かんだのは、主に武器などの加工をしてくれている者たちの顔だ。
ファンタジーの世界でいうところの、いわゆるドワーフだ、彼らは実物も背が低くずんぐりとした体型で、長い髭をたくわえている。
持っている技術は素晴らしいもので、阿羅国で彼らが作った剣などは売れ筋だ、さらには装飾品を得意とするものもいる。
「なるほど、彼らにですか」
「ああ、何か思うところがあるのか?」
「いえ……まあ……そうですねえ、少しなんというか」
「ん?」
俺は、着付けを終えて片付ける悩み顔のユーチェンをじっと見つめた。
「彼ら、少しなんというか……無骨すぎましてね。装飾品が得意な女性であっても紗国やラハームなどの瀟洒な意匠とは程遠いかと。いえ……品質は折り紙付きなのはわかりますけどね」
俺は思わず笑って、ユーチェンの手を取った。
「そこまでこだわりたいのなら、そなたがやってみてはどうだ?」
「え、私が?」
「そうだ、絵も元々描けるんだ、こういうものをと描いて彼らに見せればいい」
「はぁ……しかし彼らは受け入れてくれますでしょうか」
「大丈夫だよ、そなたは自分が思っている以上に国の皆に信頼されている。そもそも、阿羅国の織物が好評なのも、そなたの手柄だ」
ユーチェンは頬を染めて目を泳がせた。
「そ……そんないきなり……私をお褒めになるなんて」
「そうか?いきなりではないぞ、いつも思っていた。まあ、俺にそれほどこだわりがあるわけではないし、任せるよ」
「わかりました。責任をもってお受けいたします」
その時、扉が控えめにノックされた。
「どうした?」
美しいレリーフのついた白い扉が開かれ、迎賓館付きの小さな使用人が美しい所作で礼をして、笑顔で報告してきた。
「ラハームの樹家の方がご挨拶にとお見えでございます」
「……なるほど」
俺の後ろでユーチェンが息をのむのがわかった。
口さがない者達はそう噂を流した。
いかに沈滞石があろうとも、この程度の悪意はやはり巷を駆け巡る。
それが誰かの嫉妬からなる単なる悪口であろうと、或いは真実であろうと、そんなことはどちらでも良いのだ。
人という者は何か面白いネタがあると見ると、こっそりとそれに注目する。
皆は、今滞在している『阿羅国』という者達を監視しているのだ。
「お誘いは喜ばしいことなのですが……」
ユーチェンは憂い顔で手を顎にあてた。
「どうかしたか?」
「私もクレイダも、ですよね?百合彦もですか?」
「そう考えているよ」
「こういう場での正式なマナーを身につけられているのは、私と玲陽くらいなものです、百合彦は子供だから許される面もあるかもしれませんが、クレイダやその他の面々は貴族ではありません」
「うむ……」
その事は阿羅国での大きな課題だ。
他の国から馬鹿にされている理由の一つでもある。
だが、日本という国で生まれた俺からすると、そもそも階級社会というものに馴染めない。
貴族がどうしたというのだ、同じ人間じゃないかと、どうしてもそう思ってしまうのだ。
「まあ、その国々によって常識は違って当たり前だろう。こちらにはこちらの流儀があるのだと胸を張れないか?」
「はぁ……」
クレイダはなおも晴れない顔で俺の体に晩餐用の衣装を着せていく。
アオアイは南にある島国で常夏だ。
それに合わせた薄い透ける着物を重ねていく、透けているので下の模様が美しく透ける。
金糸の織り込まれた軽い帯を結び、その上に張りのある袴を付けた。
「阿羅国には王冠を作る予定はございますか?」
「王冠か……」
考えもしなかったが、こういう場には必要だったかもしれない。
「もしもお考えならば、腕のいい細工職人が紗国におります。そこに注文なさるのは?」
「うむ……だが、作るとすれば、俺は阿羅国で待っているあいつらに頼みたいぞ」
俺の脳裏に浮かんだのは、主に武器などの加工をしてくれている者たちの顔だ。
ファンタジーの世界でいうところの、いわゆるドワーフだ、彼らは実物も背が低くずんぐりとした体型で、長い髭をたくわえている。
持っている技術は素晴らしいもので、阿羅国で彼らが作った剣などは売れ筋だ、さらには装飾品を得意とするものもいる。
「なるほど、彼らにですか」
「ああ、何か思うところがあるのか?」
「いえ……まあ……そうですねえ、少しなんというか」
「ん?」
俺は、着付けを終えて片付ける悩み顔のユーチェンをじっと見つめた。
「彼ら、少しなんというか……無骨すぎましてね。装飾品が得意な女性であっても紗国やラハームなどの瀟洒な意匠とは程遠いかと。いえ……品質は折り紙付きなのはわかりますけどね」
俺は思わず笑って、ユーチェンの手を取った。
「そこまでこだわりたいのなら、そなたがやってみてはどうだ?」
「え、私が?」
「そうだ、絵も元々描けるんだ、こういうものをと描いて彼らに見せればいい」
「はぁ……しかし彼らは受け入れてくれますでしょうか」
「大丈夫だよ、そなたは自分が思っている以上に国の皆に信頼されている。そもそも、阿羅国の織物が好評なのも、そなたの手柄だ」
ユーチェンは頬を染めて目を泳がせた。
「そ……そんないきなり……私をお褒めになるなんて」
「そうか?いきなりではないぞ、いつも思っていた。まあ、俺にそれほどこだわりがあるわけではないし、任せるよ」
「わかりました。責任をもってお受けいたします」
その時、扉が控えめにノックされた。
「どうした?」
美しいレリーフのついた白い扉が開かれ、迎賓館付きの小さな使用人が美しい所作で礼をして、笑顔で報告してきた。
「ラハームの樹家の方がご挨拶にとお見えでございます」
「……なるほど」
俺の後ろでユーチェンが息をのむのがわかった。
0
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
冥府への案内人
伊駒辰葉
BL
!注意!
タグはBLになってますが、百合もフツーも入り交じってます。
地雷だという方は危険回避してください。
ガッツリなシーンがあります。
主人公と取り巻く人々の物語です。
群像劇というほどではないですが、登場人物は多めです。
20世紀末くらいの時代設定です。
ファンタジー要素があります。
ギャグは作中にちょっと笑えるやり取りがあるくらいです。
全体的にシリアスです。
色々とガッツリなのでR-15指定にしました。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い


確率は100
春夏
BL
【完結しました】【続編公開中】
現代日本で知り合った2人が異世界で再会してイチャラブしながら冒険を楽しむお話。再会は6章。1話は短めです。Rは3章の後半から、6章からは固定カプ。※つけてます。5話くらいずつアップします。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~
ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。
*マークはR回。(後半になります)
・ご都合主義のなーろっぱです。
・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。
腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手)
・イラストは青城硝子先生です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる