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第五章 アオアイへ
アオアイの王太子
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鹿族の小さな王太子はゆっくりと歩み、美しい光沢のあるしっかりとした織物や、細工物などを興味深く熱心に見つめていた。
「これは……すばらしいですね。アオアイの市に出せばすぐに売れるでしょう」
「ありがとうございます。飛翔隊の隊長である玲陽からそのあたりのことをご説明させましょう」
俺がそういうと、玲陽は一歩進み出て片方の膝を降り床につけ頭を下げた。
「隊長、そなたらが輸送を行っているのですね」
「はい」
「ああ、そんなふうにかしこまらないで。話しにくいからね」
そう言ってほがらかに笑って玲陽の頭を上げさせて、さらに立ち上がらせた。
「あなたは……蛇族でしょうか」
「はい私は、ラハーム王国の出身でございます」
「もしや……樹家の?」
若き王太子は小首をかしげて玲陽を見上げた。
「はい、さようでございます。なぜご存じなのでしょうか?」
「いえね、昨日行われたラハームとの会合でそなたの兄が国の役人を束ねていたので少し話す機会があったのだよ」
「我々のことをですか?」
「ええ、そうです」
そう答えた王太子は少し目線を外して悲し気に微笑んだ。
「あなたの兄はずいぶんと……そう……懐疑的でしたね」
「はい……兄は、そういう性分でございまして」
「とはいえ、あなたももう成人して家を出て、そして阿羅国で要人となっているのです、兄に負けてはいけませんよ」
玲陽は王太子の言葉に深く頭を下げた。
「私個人の見解を言うとね、新興国を起こし国と名乗ることに承認などいらないと思うのです、しかもその承認をアオアイがするなどと……アオアイが最上であるかのような傲慢な行いだとも思います、しかし、ここには世界を裁ける裁判所があるのは確か。そこで議論をというのは最もな意見だと、わかっているのだけどね……でも私は、今回は議論せずに国と認めたい、と、そう思ってるのですよ、それぞれの国の王らにはこれから阿羅国と対等にとそう伝えるつもりなのですよ」
「それは……ありがたいお考えでございます」
「マドア王太子殿下、感謝しかないが、なぜそう思われたのです?」
俺の問いにマドア王太子は躊躇なく答えた。
「実はね、あなた方の国の細工物をすでに手にいれていたのです。紗国経由でした。小さな木の入れ物でしたが、これだけ品質のものを作り続けられ、求められた数をその都度きちんと納品する実直さがあるのなら、あなた方を信用していいのでは?とそう思ったのです。それに、さきほども話したように、誰かに承認など求めずとも、皆に王とかしずかれるあなたの存在、それがすべてでしょう」
俺は静かに頭を下げて、王太子と固い握手を再びした。
王太子は玲陽に向きなおすと言葉を続けた。
「父も、これにはちゃんと賛成しているのです、君らはこの後裁判所にはもう行かなくて良いはずだ、書類は私の部下が提出しておいた」
「ありがとう存じます」
「それで、この見事な工芸品の数々なのだが、ぜひアオアイの市で売り出したいと思うのだ、どうだろう?」
「それは素晴らしいお申し出ですが……紗国の奥の森までは難なく運ぶルートを我々は持っております、しかし、船はまだないのです」
「ああ、船ね……」
小さな王太子は軽く作られたマントを翻して部下を呼び、何やら相談していた。
「このアオアイへは海に面した国からならば、どの国からも定期便が出ているのです。ですからまずは、その定期便の一角を買い取ってはいかがですか?」
「買い取る……ですか」
「ええ、小さな公国などは、そうしているところも多いのですよ。一隻の船を持つのは膨大な維持費が必要ですが、船の倉庫の使用権を買うだけでしたら、それほどの負担ではないはずです。やりかたはアオアイの運輸担当から説明させましょう」
「それはありがたい申し出です」
「色々と阿羅国のことを考えてくださる……あなたは優しいお方だ」
俺もそう付け加えると、小さな王太子は頬を赤らめて恥ずかしそうに微笑んだ。
「……いえいえ、私にできることでしたら」
王太子は玲陽やクレイダ、そしてユーチェンと朗らかに話しながらその後もじっくりと阿羅国の工芸品の数々を観察していた。
手に取って撫でたり、色々と質問をしたりなど、本気で興味を持っているようだった。
「殿下、晩餐の件は」
「ああ、そうだったね」
王太子は後ろに控える秘書らにそう伝えられて、秘書らはお盆に載っている招待状を俺の後ろに控えるクレイダに渡した。
クレイダは多少ぎこちないがそつのない対応で、それを受け取った。
「急な話で申し訳ないが、今夜、今アオアイに入国している各国の要人を集めて宴を開く予定なのです。阿羅彦様、あなたもぜひに」
「ああ、そういうことですか、それは喜んでお受けしよう」
「良かった……そう、あなたの大切な国民もぜひ……というか、あなたは……」
王太子はユーチェンをじっと見つめた。
「紹介が遅れてしまって申し訳ない。阿羅国王妃だ」
「やはり……」
鹿族の小さくかわいらしい王太子はうれしそうに目を輝かせ、またもや手を差し出した。
ユーチェンは戸惑いつつもうれしそうに手を出して握手して、それから王太子に微笑みかけた。
「これは……すばらしいですね。アオアイの市に出せばすぐに売れるでしょう」
「ありがとうございます。飛翔隊の隊長である玲陽からそのあたりのことをご説明させましょう」
俺がそういうと、玲陽は一歩進み出て片方の膝を降り床につけ頭を下げた。
「隊長、そなたらが輸送を行っているのですね」
「はい」
「ああ、そんなふうにかしこまらないで。話しにくいからね」
そう言ってほがらかに笑って玲陽の頭を上げさせて、さらに立ち上がらせた。
「あなたは……蛇族でしょうか」
「はい私は、ラハーム王国の出身でございます」
「もしや……樹家の?」
若き王太子は小首をかしげて玲陽を見上げた。
「はい、さようでございます。なぜご存じなのでしょうか?」
「いえね、昨日行われたラハームとの会合でそなたの兄が国の役人を束ねていたので少し話す機会があったのだよ」
「我々のことをですか?」
「ええ、そうです」
そう答えた王太子は少し目線を外して悲し気に微笑んだ。
「あなたの兄はずいぶんと……そう……懐疑的でしたね」
「はい……兄は、そういう性分でございまして」
「とはいえ、あなたももう成人して家を出て、そして阿羅国で要人となっているのです、兄に負けてはいけませんよ」
玲陽は王太子の言葉に深く頭を下げた。
「私個人の見解を言うとね、新興国を起こし国と名乗ることに承認などいらないと思うのです、しかもその承認をアオアイがするなどと……アオアイが最上であるかのような傲慢な行いだとも思います、しかし、ここには世界を裁ける裁判所があるのは確か。そこで議論をというのは最もな意見だと、わかっているのだけどね……でも私は、今回は議論せずに国と認めたい、と、そう思ってるのですよ、それぞれの国の王らにはこれから阿羅国と対等にとそう伝えるつもりなのですよ」
「それは……ありがたいお考えでございます」
「マドア王太子殿下、感謝しかないが、なぜそう思われたのです?」
俺の問いにマドア王太子は躊躇なく答えた。
「実はね、あなた方の国の細工物をすでに手にいれていたのです。紗国経由でした。小さな木の入れ物でしたが、これだけ品質のものを作り続けられ、求められた数をその都度きちんと納品する実直さがあるのなら、あなた方を信用していいのでは?とそう思ったのです。それに、さきほども話したように、誰かに承認など求めずとも、皆に王とかしずかれるあなたの存在、それがすべてでしょう」
俺は静かに頭を下げて、王太子と固い握手を再びした。
王太子は玲陽に向きなおすと言葉を続けた。
「父も、これにはちゃんと賛成しているのです、君らはこの後裁判所にはもう行かなくて良いはずだ、書類は私の部下が提出しておいた」
「ありがとう存じます」
「それで、この見事な工芸品の数々なのだが、ぜひアオアイの市で売り出したいと思うのだ、どうだろう?」
「それは素晴らしいお申し出ですが……紗国の奥の森までは難なく運ぶルートを我々は持っております、しかし、船はまだないのです」
「ああ、船ね……」
小さな王太子は軽く作られたマントを翻して部下を呼び、何やら相談していた。
「このアオアイへは海に面した国からならば、どの国からも定期便が出ているのです。ですからまずは、その定期便の一角を買い取ってはいかがですか?」
「買い取る……ですか」
「ええ、小さな公国などは、そうしているところも多いのですよ。一隻の船を持つのは膨大な維持費が必要ですが、船の倉庫の使用権を買うだけでしたら、それほどの負担ではないはずです。やりかたはアオアイの運輸担当から説明させましょう」
「それはありがたい申し出です」
「色々と阿羅国のことを考えてくださる……あなたは優しいお方だ」
俺もそう付け加えると、小さな王太子は頬を赤らめて恥ずかしそうに微笑んだ。
「……いえいえ、私にできることでしたら」
王太子は玲陽やクレイダ、そしてユーチェンと朗らかに話しながらその後もじっくりと阿羅国の工芸品の数々を観察していた。
手に取って撫でたり、色々と質問をしたりなど、本気で興味を持っているようだった。
「殿下、晩餐の件は」
「ああ、そうだったね」
王太子は後ろに控える秘書らにそう伝えられて、秘書らはお盆に載っている招待状を俺の後ろに控えるクレイダに渡した。
クレイダは多少ぎこちないがそつのない対応で、それを受け取った。
「急な話で申し訳ないが、今夜、今アオアイに入国している各国の要人を集めて宴を開く予定なのです。阿羅彦様、あなたもぜひに」
「ああ、そういうことですか、それは喜んでお受けしよう」
「良かった……そう、あなたの大切な国民もぜひ……というか、あなたは……」
王太子はユーチェンをじっと見つめた。
「紹介が遅れてしまって申し訳ない。阿羅国王妃だ」
「やはり……」
鹿族の小さくかわいらしい王太子はうれしそうに目を輝かせ、またもや手を差し出した。
ユーチェンは戸惑いつつもうれしそうに手を出して握手して、それから王太子に微笑みかけた。
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