俺が出会ったのは、淫魔だった

真白 桐羽

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第五章  アオアイへ

アオアイの王族

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 翌日、俺たち阿羅国代表はアオアイ城の長い廊下を皆で歩いていた。
王の謁見へと向かっているのだ。
城の内部は外観と同じでどこも沈滞石で出来ている、白亜色で美しい。
俺はふと立ちどまり、壁に手を当て小さく微笑んだ。

この国にいるうちは、この石が皆を守ってくれるはずだ。

「阿羅彦様?」

少し後ろを歩いていた玲陽がそばに来た。

「うん、何でもない……この、沈滞石というのが不思議なものだと、そう思っただけだよ」
「なるほど」

まじめな玲陽は私の言葉をそのまま受け取り、自らの手も同じように壁に当てた。
俺はその様子をかわいいと思った。

後ろを振り向くと、微笑むユーチェンと難しい顔をしたクレイダが立っていた。
そのさらに後ろには、阿羅国の特産品となるものを持った部下が並んでいる。

俺はその者らに微笑みを返してまた歩き出した。

廊下の先を歩いていた案内の役人が立ちどまり、大きな扉の前でこちらを振り返った。

「ここから先は陛下との謁見室になっております、ご準備よろしいでしょうか?」
「ああ、開けてくれ」

俺の声を合図に、扉の両側に立っていた使用人が恭しく開けていく。
重く見えるが、軽やかに、そして滑らかにうごく彫刻の美しい石の扉を見つめていると、やがて中の様子が見えてきた。

「なんと、美しい」

思わずそう声を出して感心する俺に、案内の役人は誇らしげに頷いて室内に足を踏み入れた。

美しい格子柄を組んだ床は磨かれていて鏡のようになっている。
壁には美しいレリーフ、そして天井には美しい絵画が描かれている。
それもこれも沈滞石で出来ているというのだから恐れ入る。

王の玉座は大きな窓の前にあった。
小さな王はその玉座の前に立ち、我々を迎えてくれていた。

南国アオアイの強い日差しを受けて逆光になっているはずなのに、美しい白亜の石が乱反射していて王に影はできていない。
スポットライトが当たっているかのように王が引き立てられていた。

俺はしばしその幻想的な姿に見入ったが、やがて、小さな王の若さに気づき、その愛らしさに驚いた。

「よくおいでくださった、阿羅国の方々」

高い声で声を掛けられ、王がまだ青年前では?という疑問が新たに浮かんだ。
しかし、前情報では老獪な鹿族の王は今年60歳になると聞いていたのだが。

「正式にお迎えいただき、感謝いたしまする」

俺の言葉に鷹揚にうなずき、そして微笑んだアオアイ王は顔すらもまだ10代のようだった。

「私はアオアイ王の代理、王太子のマドアと申す」
「……これは……マドア王太子様でしたか」

代理で王太子が対応するとは聞いていなかった。

「父は老齢で時折寝込まれる。前触れ無しに私が対応することがあるのですよ」
「そうでしたか……お具合は?」
「ああ、ご心配には及びませんよ、いつもの発作です」

小さな王太子は気さくに微笑むとすたすたと歩き近寄ってきた。
思えばこの小さな鹿族の青年は最初から玉座には座っていなかった。
その名の通り、王のみが座れる椅子ということなのだろう。

「私はまだ21歳の若者ですが、こう見えて父の名代をもう5年もしております。安心してくださいね」

差し出された右手に俺も右手を出して固い握手をした。

「そうですか、お若いのにしっかりなさっておられて、さすがですね」
「いえいえ、あなただって、私と同年ぐらいにしか見えませんよ?おいくつですか」
「私は、年を数えるのを忘れてしまいましてね」

その言葉に一瞬目を丸くしてから楽しそうに破顔した。

「なるほど、年齢は関係ないと」
「そうですね」
「うれしいお言葉です」

俺は王太子の言葉に本音が滲むのを見た。
若さゆえの気苦労をしてるのかもしれないなと想像した。

「で、阿羅国の出した書類の説明はね、役人らに話を聞いたし、実は私自身も目を通したのですよ」
「それは光栄です」
「国として認めてほしいと願われていると」
「ええ、我々は人の踏み込まない森のさらに奥に国を築きました」
「私などが想像もつかないような遠くですね」
「ええ、あの森を越えるには特別な訓練が必要ですから」
「しかし、阿羅国はそこを荷物の運搬をして各地で商売をしてきたと」
「はい、それらの交易品がこちらになります」

後ろに控えていた玲陽が美しく並べられた特産品を指し示した。

「ほう……」


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