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第五章 アオアイへ
盲点
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クレイダが足音を鳴らして部屋に飛び込んで来た。
俺は寝る準備をしていたが、そろそろ知らせが来る頃だろうと思っていたので特に驚かなかった。
「アラト」
開口一番、俺の名を呼んだ。
低い声だ、緊張しているのがわかる。
「ん、玲陽のことか?」
「ああ、そうだ」
「まあ、座れ」
俺は、迎賓館付きの小さな使用人に部屋の外へ出るよう目で促し、代わりにクレイダをソファーへ誘った。
「今……文が来た」
「どんな?」
「もう、ここへは帰らぬと、そう……」
そこまで言ってクレイダが唇をかみしめた。
俺はため息をついてクレイダから手渡された文を見る。
丁寧な字で書かれた文面は必要最低限のものだ。
「これが、本当に玲陽の字だと?お前そう思うか?」
「え?」
クレイダは瞬きを繰り返し、ポカンとして俺の顔を見つめた。
「だから、これは本当にあいつが書いた文なのか?と聞いてる」
「そんなこと……そりゃまあ……誰か他のやつが字を真似て書いたものかもしれないが……」
「玲陽ならば、ここに帰らぬと文一つ寄越しただけでいなくなったりするはずがないだろう、しかも祖国に何の未練もない男だ」
「それは……」
クレイダは、食い入るように文を見つめ、そしてそっと撫でた。
「ならばこれは、嘘なのか?誰かが我々を陥れようとしているのか、さもなくば」
「これは玲陽の字ではないよ、俺にはわかる。ほのかに漂う気が違う」
「気?字から気がわかるというのか」
「ああ、親しい者が書いた字ならば、ほのかにわかる程度だがな」
クレイダは今度はあんぐりと口を開けて俺を見つめた。
「アラト、お前ほんとうに……」
「それはいい、問題はこんな文を寄越してまで玲陽をこちらに戻したくない者がいるということだ」
「……ああ、ああ、そうだな」
「その相手はまあ……」
「うん、あいつの兄さんだろうが」
「玲陽の兄はラハーム王国の役人ということだったな、偶然ここに来ていたと」
「ああ、そう聞いている」
「ここは、アオアイだ。沈滞石で守られているはずだが……どうだ」
「そうなんだよ、この地で悪事はできない。誘拐なんてもってのほかだ」
俺は机に置かれた文をもう一度手に取って眺めた。
「だが……船の中ならば、どうだ?」
「船?」
クレイダは額に汗を浮かべて俺を凝視した。
「ラハーム王国の船か」
「ああ、港までは沈滞石があるだろう。だが、船に乗ってしまえばそこはもうそれぞれの国と相違ない。アオアイの法律もそこまでは追えない」
俺はバルコニーに出て海を眺めた。
日が沈み、暗くなった景色だ。
夜のマーケットが灯すランタンの光と、各国の船の灯りがあって、素晴らしい夜景となっている。
夜風が額にかかる髪をさらった。
「ちょっと、玲陽の様子を見て来るよ」
「は??」
クレイダは焦って立ち上がり、俺のそばに来た。
「ちょっとアラト……一人は」
「いや、一人でいくよ、大勢で行ったら宣戦布告になってしまうよ?」
俺はおどけたように言ってクレイダの肩を叩いた。
「明日は、城へ上がるんだ、アラト、お前に何かあったら……」
「大丈夫だ」
「アタシが代わりに」
「いや……お前、他国の船にどうやって乗船するつもりだ」
「それはアラトだって同じじゃ」
「俺か?俺は、夢の中であいつに会って連れ帰ってこれるよ?」
「あ……」
「大丈夫だ、心配するな、俺のことも玲陽のこともだ」
俺は心配げなクレイダを安心させるように微笑んだ。
俺は寝る準備をしていたが、そろそろ知らせが来る頃だろうと思っていたので特に驚かなかった。
「アラト」
開口一番、俺の名を呼んだ。
低い声だ、緊張しているのがわかる。
「ん、玲陽のことか?」
「ああ、そうだ」
「まあ、座れ」
俺は、迎賓館付きの小さな使用人に部屋の外へ出るよう目で促し、代わりにクレイダをソファーへ誘った。
「今……文が来た」
「どんな?」
「もう、ここへは帰らぬと、そう……」
そこまで言ってクレイダが唇をかみしめた。
俺はため息をついてクレイダから手渡された文を見る。
丁寧な字で書かれた文面は必要最低限のものだ。
「これが、本当に玲陽の字だと?お前そう思うか?」
「え?」
クレイダは瞬きを繰り返し、ポカンとして俺の顔を見つめた。
「だから、これは本当にあいつが書いた文なのか?と聞いてる」
「そんなこと……そりゃまあ……誰か他のやつが字を真似て書いたものかもしれないが……」
「玲陽ならば、ここに帰らぬと文一つ寄越しただけでいなくなったりするはずがないだろう、しかも祖国に何の未練もない男だ」
「それは……」
クレイダは、食い入るように文を見つめ、そしてそっと撫でた。
「ならばこれは、嘘なのか?誰かが我々を陥れようとしているのか、さもなくば」
「これは玲陽の字ではないよ、俺にはわかる。ほのかに漂う気が違う」
「気?字から気がわかるというのか」
「ああ、親しい者が書いた字ならば、ほのかにわかる程度だがな」
クレイダは今度はあんぐりと口を開けて俺を見つめた。
「アラト、お前ほんとうに……」
「それはいい、問題はこんな文を寄越してまで玲陽をこちらに戻したくない者がいるということだ」
「……ああ、ああ、そうだな」
「その相手はまあ……」
「うん、あいつの兄さんだろうが」
「玲陽の兄はラハーム王国の役人ということだったな、偶然ここに来ていたと」
「ああ、そう聞いている」
「ここは、アオアイだ。沈滞石で守られているはずだが……どうだ」
「そうなんだよ、この地で悪事はできない。誘拐なんてもってのほかだ」
俺は机に置かれた文をもう一度手に取って眺めた。
「だが……船の中ならば、どうだ?」
「船?」
クレイダは額に汗を浮かべて俺を凝視した。
「ラハーム王国の船か」
「ああ、港までは沈滞石があるだろう。だが、船に乗ってしまえばそこはもうそれぞれの国と相違ない。アオアイの法律もそこまでは追えない」
俺はバルコニーに出て海を眺めた。
日が沈み、暗くなった景色だ。
夜のマーケットが灯すランタンの光と、各国の船の灯りがあって、素晴らしい夜景となっている。
夜風が額にかかる髪をさらった。
「ちょっと、玲陽の様子を見て来るよ」
「は??」
クレイダは焦って立ち上がり、俺のそばに来た。
「ちょっとアラト……一人は」
「いや、一人でいくよ、大勢で行ったら宣戦布告になってしまうよ?」
俺はおどけたように言ってクレイダの肩を叩いた。
「明日は、城へ上がるんだ、アラト、お前に何かあったら……」
「大丈夫だ」
「アタシが代わりに」
「いや……お前、他国の船にどうやって乗船するつもりだ」
「それはアラトだって同じじゃ」
「俺か?俺は、夢の中であいつに会って連れ帰ってこれるよ?」
「あ……」
「大丈夫だ、心配するな、俺のことも玲陽のこともだ」
俺は心配げなクレイダを安心させるように微笑んだ。
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