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第五章 アオアイへ
帰らぬ人
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アオアイに到着して三日目、迎賓館でアオアイからの使者を受け入れ、様々なことを教えられた。
この島では人々は決して暴力沙汰を起こさないし、そもそも邪な考えさえも浮かびにくい。
日々の暮らしの中で悲しい思いや悔しい思いはもちろんするだろうし、誰かを嫌いになることももちろんあるだろう。
しかしそこから、刃傷沙汰になることは決してない。
それはこの国の特産物である沈滞石のなせる技だ、沈滞石に体の一部でも触れていると、人は魔力を発揮できなくなるとは聞いていたが、心を静める力まであるとはこの目で実際に見ても信じがたいことだった。
「で、このテーブルも、ということか?」
「はい、阿羅彦様」
アオアイからの使者は、みな体が小さい。
小さな動物の獣人達なのだ。
俺はその小さくかわいらしい4人の使者をじっと見つめた。
「それは、我らを特に警戒してということではなく?」
「はい、アオアイでは、どの家庭でも大抵机や椅子、ベッド、そして壁や床に至るまで、沈滞石を使用しておりますよ、とはいえ、一般に使われているものは家具の一部に沈滞石がはめ込まれていたりするだけで、もちろんこのような芸術的なものではありません。
しかし、ここは賓客をおもてなしする場ですからね、沈滞石は比較的柔らかく装飾を施すのも容易なので、王族のためにはこのように美しい彫刻も職人たちが技を競うように作っているのですよ」
長いひげを生やしたリスのような使者はつらつらと言葉を並べた。
その様はどこか人形劇を見るかのようだった。
「……そうか。まあ、わかった」
「これで大体のアオアイのご紹介は終わりました、明日は王城へおいでいただき、王と面会をしていただくことになりましょう、招待状は後ほどお届けとなります」
「ああ、了解した……で、一つ聞きたいのだが」
「はい?」
立ちかけたリスやイタチのような獣人はもう一度座りなおし、俺を見つめた。
「我が国の重鎮なのだが……玲陽というものがいて、昨日兄に呼ばれ王城へ行ったはずなのだが、昨夜戻らなかったのだ」
目を丸くして口を少し開いて一瞬止まった使者達は、お互いの顔を見合わせて首をひねった。
「いえ……その、確かに玲陽様というのは阿羅彦様ご一行の名簿にありますな、参謀としてご出席ということですね」
「ああ、そうだ。彼はラハーム王国の出身なのだが、どうやら実兄が国の仕事でこの地を訪れていたようだ、知らせを受け、玲陽は出かけたのだが……」
リスの使者は名簿をじっと見つめ、そして納得がいかないような顔つきで顔を上げた。
「王城への出入りは記録がございます、すぐに調べこちらにお知らせしましょう、おかしいですね」
俺は頷き、そして彼らを見送った後、クレイダやユーチェンらと資料を広げ明日のことを話し合った。
アオアイの王は俺たちときちんと向き合ってくれている、国同士として友好関係を結んでくれるのは間違いない。
そうすれば、よその国もそれに追随してくれるだろう。
「良かったです、理解ある態度で皆様接してくださって」
ユーチェンはホッとしたように紅茶を飲んだ。
「そうだな、当初は国とは認めてもらえないという話しだったが、どこで話が好転したのやら」
クレイダは隣に座る弟と共に腕を組んで難しい顔をしていた。
「で、玲陽のことは?」
ユーチェンが心配気に俺の顔を見つめた。
「入城記録を調べ、知らせてくれるようだ」
「そうですか……玲陽が何も知らせずあなたの元へ帰ってこないなんてありえません、何か悪いことでなければよいのですが」
顔を曇らせて手を握りしめたユーチェンはバルコニーを見つめた。
南国の乾いた心地よい空気が吹いてくる。
我々の不安をよそに、どこまでも美しく陽気な景色が見えた。
この島では人々は決して暴力沙汰を起こさないし、そもそも邪な考えさえも浮かびにくい。
日々の暮らしの中で悲しい思いや悔しい思いはもちろんするだろうし、誰かを嫌いになることももちろんあるだろう。
しかしそこから、刃傷沙汰になることは決してない。
それはこの国の特産物である沈滞石のなせる技だ、沈滞石に体の一部でも触れていると、人は魔力を発揮できなくなるとは聞いていたが、心を静める力まであるとはこの目で実際に見ても信じがたいことだった。
「で、このテーブルも、ということか?」
「はい、阿羅彦様」
アオアイからの使者は、みな体が小さい。
小さな動物の獣人達なのだ。
俺はその小さくかわいらしい4人の使者をじっと見つめた。
「それは、我らを特に警戒してということではなく?」
「はい、アオアイでは、どの家庭でも大抵机や椅子、ベッド、そして壁や床に至るまで、沈滞石を使用しておりますよ、とはいえ、一般に使われているものは家具の一部に沈滞石がはめ込まれていたりするだけで、もちろんこのような芸術的なものではありません。
しかし、ここは賓客をおもてなしする場ですからね、沈滞石は比較的柔らかく装飾を施すのも容易なので、王族のためにはこのように美しい彫刻も職人たちが技を競うように作っているのですよ」
長いひげを生やしたリスのような使者はつらつらと言葉を並べた。
その様はどこか人形劇を見るかのようだった。
「……そうか。まあ、わかった」
「これで大体のアオアイのご紹介は終わりました、明日は王城へおいでいただき、王と面会をしていただくことになりましょう、招待状は後ほどお届けとなります」
「ああ、了解した……で、一つ聞きたいのだが」
「はい?」
立ちかけたリスやイタチのような獣人はもう一度座りなおし、俺を見つめた。
「我が国の重鎮なのだが……玲陽というものがいて、昨日兄に呼ばれ王城へ行ったはずなのだが、昨夜戻らなかったのだ」
目を丸くして口を少し開いて一瞬止まった使者達は、お互いの顔を見合わせて首をひねった。
「いえ……その、確かに玲陽様というのは阿羅彦様ご一行の名簿にありますな、参謀としてご出席ということですね」
「ああ、そうだ。彼はラハーム王国の出身なのだが、どうやら実兄が国の仕事でこの地を訪れていたようだ、知らせを受け、玲陽は出かけたのだが……」
リスの使者は名簿をじっと見つめ、そして納得がいかないような顔つきで顔を上げた。
「王城への出入りは記録がございます、すぐに調べこちらにお知らせしましょう、おかしいですね」
俺は頷き、そして彼らを見送った後、クレイダやユーチェンらと資料を広げ明日のことを話し合った。
アオアイの王は俺たちときちんと向き合ってくれている、国同士として友好関係を結んでくれるのは間違いない。
そうすれば、よその国もそれに追随してくれるだろう。
「良かったです、理解ある態度で皆様接してくださって」
ユーチェンはホッとしたように紅茶を飲んだ。
「そうだな、当初は国とは認めてもらえないという話しだったが、どこで話が好転したのやら」
クレイダは隣に座る弟と共に腕を組んで難しい顔をしていた。
「で、玲陽のことは?」
ユーチェンが心配気に俺の顔を見つめた。
「入城記録を調べ、知らせてくれるようだ」
「そうですか……玲陽が何も知らせずあなたの元へ帰ってこないなんてありえません、何か悪いことでなければよいのですが」
顔を曇らせて手を握りしめたユーチェンはバルコニーを見つめた。
南国の乾いた心地よい空気が吹いてくる。
我々の不安をよそに、どこまでも美しく陽気な景色が見えた。
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