俺が出会ったのは、淫魔だった

真白 桐羽

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第五章  アオアイへ

到着の朝

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 次の朝目覚めると、凪いだ海に小島が浮かぶ美しい湾が見えた。
すっかり準備を整えていた玲陽が俺が目覚めたことを知り、装束の準備を始めた。

「今日はこれをお召しになってください。ここからはアオアイ王国です、小国ですが、この国を侮ってはいけません。中立を謳ってそれを曲げずに一度もどこの国とも対立をしたことがなく、今や各国も競ってこの国の教育機関に子弟を送りだすのです」
「様々な国の王子や姫がいるとは聞いている、そなたもか?玲陽」

玲陽は腰ひもを結ぶ手を止めて、自分の手をじっと見つめた。

「いえ……私は、一族の中でそれほど大切にされてはいませんでしたので、兄らは皆アオアイで学んでいます。つまり、貴族の子はよほどの理由がない限りこの学園を目指すのです」
「よほどの理由とは?」
「そうですね、体が弱いとか、もしくは、選抜で残れなかった者。試験に落ちた場合は不名誉ではありますが、自国の最高学府で学ぶのですよ」
「別に留学だけが全てではないだろうにな。自国の学校だって良いはずだが、そんなに不名誉か?」
「はい、そうですね……自国の学び舎は、多くは優秀な庶民が行くのですよ。もちろん教授方も高名な方々で、何一つ遜色はありません。しかし、権威という面では大きく劣るのです

「お前も、か?」
「はい、私はラハーム王立学園で学びました」
「なるほど、だからこんなに優秀なのだな」

俺が微笑むと、玲陽の顔色が少し紅潮した。

「そして、アオアイの特徴は、世界的な裁判所があることです。ここで裁かれることは世界基準になります」
「ああ、そうだな。俺たちはそこで申し立てるということになる。うまくいけばいいのだが」
「大丈夫でございましょう。阿羅彦様なら」

玲陽は帯を結びながら背後でそう言った。

「ああ、そうでした。アオアイ産の沈滞石というものがありまして、それに触れている間はどんなものも魔力を発動させることができません。そして、アオアイでは無許可の飛翔も禁止されております」
「ああ、あの資料にあった石だな。どんなものか興味があるな」
「ええ、国外への持ち出しは禁止されているものですから、ここでしか見れませんしね。しかし港に降りればすぐに見れますよ、まず、石畳などもそれで造られていますからね」
「そうなのか……そんなに多量にか?」
「はい、沈滞石は人の心を落ち着かせる効能もあるのです、街中で争いが起きないように、建材として一般的に使われているのですよ」
「そうか……」

玲陽は最後に薄手の羽織を着せてくれて、俺の準備は整った。
姿見に移る俺は、時代劇に出てくる殿様のようだった。
美しい文様の織り生地はとてもしっかりとした厚さがある。
ユーチェンの得意分野のそれは、今や阿羅国の産業として密かに色々な国で流通し始めていた。

「では、行こうか」
「はい」

俺はアオアイの検査官が待つ広間に向かった。
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