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第五章 アオアイへ
船上のレストラン
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船内では毎晩のように宴が開かれ、紗国から乗り合わせた貴族階級らをもてなしていた。
俺たちのことを知る者は当然いないが、最上級の船室にいることはすでに皆に知られていて、どこかの国の御曹司だと思われているようだった。
「やはり階級社会なのだな……」
「阿羅彦様?」
となりに立つ玲陽が俺のつぶやきに首を傾げた?
「なにかございましたか?」
「いや……」
俺たち二人は周りから恭しく扱われ、レストランの一番良い席に案内された。
心地よい風が舞い込んで良い眺めの席だった。
ステージでは楽団が美しいメロディーを奏でている。
まず、前菜の盛り合わせが出された。
芸術のようなそれに溜息がでるようだ。
ここでの食事は各国の料理をうまく取り入れた多国籍料理ということだったが、見た目はフランス料理のそれだ。
「さすがに素晴らしい料理です」
玲陽もうれしそうに微笑んだ。
紗国とアオアイを結ぶ高速船は、貴族階級しか乗らないので、とくに贅沢なのだとは聞いていたが、ここまで豪華な旅になるとは想像していなかった。
「我らには今のところ、資金に限界があるのだが……これらは皆ユーチェンの父の取り計らいか?」
「ええ、あの方は紗国の重鎮ですからね、ユーチェン様に今までのことを謝罪なさった後、これからはできるだけのことをさせてほしいとおっしゃっていました、この旅行の費用も心配なされるなと、そう一言申されて」
「なるほどなあ、しかし、豪華なことだ」
ワイングラスにワインが注がれた。
紫色は薄くそして軽く発砲しているように見える、俺はそれを口に含ませてみた。
その味の豊潤さに「ほう」と知らずに声が出る。
「こちらのワインは瀬国のワインでしょうね、おいしくて有名なのですよ」
「やはり葡萄から作るのか?」
「ええ、葡萄ですね」
なるほどこちらにも葡萄がある……か。
「阿羅彦様は、時折そのような話し方をされますね。阿羅彦様の生まれ育ったところとは一体……」
「ああ、そうだな……玲陽には話してしまっても良いだが、どうせ信じぬだろう」
「私は阿羅彦様のお話なら何でも信じますよ」
「そうか」
俺はちょうど夕日が沈もうとしている海を見つめた。
美しく茜色に染まる海は幻想的だ、しかし海そのものは地球のものとさほど変わりはない。
「俺は、この世界で生まれたものではないよ。誰かから聞いたことはあるだろう? ほかの世界から迷い込んだ存在なのだ」
「……」
玲陽はワインをテーブルに置いて、じっと俺を見つめた。
「ある日、俺は両親とともに祖父の家に向かっていたが、気が付くと森の中にいたのだ」
「森……森とは?」
「龍の統べる森だよ」
「え……つまり、人間が入ってはいけないと言われている魔物の巣窟にですか?」
「ああ、そうだ」
「何も持たずに?武器も装備もなしにということでしょうか?」
「そうだな……元居た世界では武器を持って歩くのは警官であるとかそういう立場の者だけだ、今思うと俺はずいぶんと平和な世界にいたのだなと感じる」
「そんな平和な世界から突然こちらへ……しかも森にですか?」
玲陽は心配そうに手を握りしめた。
「済んだことだよ玲陽、それに心配には及ばない」
「それは……そうでしょうが……」
「こちらに来てすぐ、俺を見つけてくれた人がいた、ジルという者だ」
「ジル……ああ、そうですか……ジル様というのは、あなたを助けた方なのですね」
「知ってる口ぶりだな」
俺は意外に思って玲陽をじっと見る。
「はい、阿羅彦様は時折、寝言でジル様の名をお呼びになっています」
「……そうか」
俺は思わず笑って、ワインをグッと飲んだ。
その時、魚介類を煮込んだブイヤベースと野菜のフランがテーブルに置かれた。
「固まっていないで、食事を楽しめ玲陽」
「はい」
無理やり作ったような笑顔で玲陽は食事を始めた。
「ジルは、俺を作り変えてくれたんだよ」
「え?」
「俺の魂はな、半分にもぎ取られたような、そんな形だったそうだ。ジルは淫魔だから魂を作り替えることができたのだ、俺の足りない部分に自分の魔力を注いで、丸く作り替えたらしい。そのおかげで今俺は生きているのだろうと思うよ」
玲陽は呆気にとられたような顔で食事をする手を止めて固まった。
「今このことを知っているのはクレイダとお前だけだよ、玲陽」
玲陽は一瞬複雑そうな顔になったが、フッと笑って頷いた。
「はい、阿羅彦様。話してくださってありがとうございます」
「クレイダはこの話を眉唾物だと思っている。だが、これは本当なのだよ」
「はい、阿羅彦様が嘘をおっしゃっているのではないと私にはわかります」
「ならばよかった」
「はい」
俺はもう一度ワインを飲んだ。
俺たちのことを知る者は当然いないが、最上級の船室にいることはすでに皆に知られていて、どこかの国の御曹司だと思われているようだった。
「やはり階級社会なのだな……」
「阿羅彦様?」
となりに立つ玲陽が俺のつぶやきに首を傾げた?
「なにかございましたか?」
「いや……」
俺たち二人は周りから恭しく扱われ、レストランの一番良い席に案内された。
心地よい風が舞い込んで良い眺めの席だった。
ステージでは楽団が美しいメロディーを奏でている。
まず、前菜の盛り合わせが出された。
芸術のようなそれに溜息がでるようだ。
ここでの食事は各国の料理をうまく取り入れた多国籍料理ということだったが、見た目はフランス料理のそれだ。
「さすがに素晴らしい料理です」
玲陽もうれしそうに微笑んだ。
紗国とアオアイを結ぶ高速船は、貴族階級しか乗らないので、とくに贅沢なのだとは聞いていたが、ここまで豪華な旅になるとは想像していなかった。
「我らには今のところ、資金に限界があるのだが……これらは皆ユーチェンの父の取り計らいか?」
「ええ、あの方は紗国の重鎮ですからね、ユーチェン様に今までのことを謝罪なさった後、これからはできるだけのことをさせてほしいとおっしゃっていました、この旅行の費用も心配なされるなと、そう一言申されて」
「なるほどなあ、しかし、豪華なことだ」
ワイングラスにワインが注がれた。
紫色は薄くそして軽く発砲しているように見える、俺はそれを口に含ませてみた。
その味の豊潤さに「ほう」と知らずに声が出る。
「こちらのワインは瀬国のワインでしょうね、おいしくて有名なのですよ」
「やはり葡萄から作るのか?」
「ええ、葡萄ですね」
なるほどこちらにも葡萄がある……か。
「阿羅彦様は、時折そのような話し方をされますね。阿羅彦様の生まれ育ったところとは一体……」
「ああ、そうだな……玲陽には話してしまっても良いだが、どうせ信じぬだろう」
「私は阿羅彦様のお話なら何でも信じますよ」
「そうか」
俺はちょうど夕日が沈もうとしている海を見つめた。
美しく茜色に染まる海は幻想的だ、しかし海そのものは地球のものとさほど変わりはない。
「俺は、この世界で生まれたものではないよ。誰かから聞いたことはあるだろう? ほかの世界から迷い込んだ存在なのだ」
「……」
玲陽はワインをテーブルに置いて、じっと俺を見つめた。
「ある日、俺は両親とともに祖父の家に向かっていたが、気が付くと森の中にいたのだ」
「森……森とは?」
「龍の統べる森だよ」
「え……つまり、人間が入ってはいけないと言われている魔物の巣窟にですか?」
「ああ、そうだ」
「何も持たずに?武器も装備もなしにということでしょうか?」
「そうだな……元居た世界では武器を持って歩くのは警官であるとかそういう立場の者だけだ、今思うと俺はずいぶんと平和な世界にいたのだなと感じる」
「そんな平和な世界から突然こちらへ……しかも森にですか?」
玲陽は心配そうに手を握りしめた。
「済んだことだよ玲陽、それに心配には及ばない」
「それは……そうでしょうが……」
「こちらに来てすぐ、俺を見つけてくれた人がいた、ジルという者だ」
「ジル……ああ、そうですか……ジル様というのは、あなたを助けた方なのですね」
「知ってる口ぶりだな」
俺は意外に思って玲陽をじっと見る。
「はい、阿羅彦様は時折、寝言でジル様の名をお呼びになっています」
「……そうか」
俺は思わず笑って、ワインをグッと飲んだ。
その時、魚介類を煮込んだブイヤベースと野菜のフランがテーブルに置かれた。
「固まっていないで、食事を楽しめ玲陽」
「はい」
無理やり作ったような笑顔で玲陽は食事を始めた。
「ジルは、俺を作り変えてくれたんだよ」
「え?」
「俺の魂はな、半分にもぎ取られたような、そんな形だったそうだ。ジルは淫魔だから魂を作り替えることができたのだ、俺の足りない部分に自分の魔力を注いで、丸く作り替えたらしい。そのおかげで今俺は生きているのだろうと思うよ」
玲陽は呆気にとられたような顔で食事をする手を止めて固まった。
「今このことを知っているのはクレイダとお前だけだよ、玲陽」
玲陽は一瞬複雑そうな顔になったが、フッと笑って頷いた。
「はい、阿羅彦様。話してくださってありがとうございます」
「クレイダはこの話を眉唾物だと思っている。だが、これは本当なのだよ」
「はい、阿羅彦様が嘘をおっしゃっているのではないと私にはわかります」
「ならばよかった」
「はい」
俺はもう一度ワインを飲んだ。
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