俺が出会ったのは、淫魔だった

真白 桐羽

文字の大きさ
上 下
62 / 196
第五章  アオアイへ

船上で

しおりを挟む
 船に乗る人数は約10名。
王のお付きに護衛としては少ない人数かもしれないが、魔物の気配を消すことに苦労する者たちはこれ以降は連れていけない。
アオアイに入国する際はかなり厳しく検査があると聞いている。

「阿羅彦様」

玲陽がそっと俺の横に立った。
船室は一番広い豪華な造りだ、ユーチェンの父の計らいで乗ることになったこの高速船ならば5日ほどでアオアイに到着できるそうだ。
この大きな部屋には私と玲陽、ユーチェンと百合彦は隣の部屋だ、そこもまた豪華な設えだと聞いている。

「どうかしたのか?」
「その……」

言いにくそうに口ごもった玲陽をじっと見た。

日が沈むころに出発した船だったが、今ではすっかりと日が暮れて辺りは薄暗い。
何もさえぎるものの無い海の上にいて、大きな青い月の優しい光だけが部屋に差し込んでくる。

「ユーチェン様が、『王妃という立場は私かもしれないが、実質の伴侶はあなただから』と、そうおっしゃって」
「部屋のことか?」
「はい、部屋のこともですが、アオアイに着いた後も、阿羅彦様のお隣に立つのは私であるべきだと、そうおっしゃるのですよ」

困ったように少し笑って、そして、ティーカップを並べていく姿は、すっかりと寛ぐスタイルになってゆったりとした白いシャツが似合っている。
こんな姿をしていると痩せて見えるが、鍛えられた体は美しい筋肉に覆われて引き締まっているのを俺は知っている。

「そうか……伴侶……なあ」

俺はバルコニーに出て、備え付けの椅子に座った。
潮風が吹いてきて、なんとも心地よい。

「しかし、王妃様を差し置いて、私が公式の場でお隣に立つなどあってはならぬことですから」
「ユーチェンはどういうつもりでそう言ったのだろうか?こうやって無理をして連れてきている意味がわからないでもあるまいに」
「そのことは私もお話しましたが、ユーチェン様は百合彦様のためにここに一緒に来ているにすぎないと、そうおっしゃって」
「ふむ……まあ、百合彦のような幼子は一人ではまだなにもできないのだ。世話をするお付きの者や母親が近くにいるほうが良いに決まっているが……それとこれは違うのだがな」

俺は考えることを放棄して玲陽の入れてくれた紅茶を飲んだ。
香り高い紅茶はラハーム産のものだ。
高級なそれも、当然のように部屋に備え付けてあった。

玲陽はラハーム王国の貴族の出身だ。
紅茶は本国にいたことから普通に身の回りにあったもので、実家にいたころから良く飲んでいたそうだ。
色素が薄く堀の深い顔つきは、元日本人である俺から見ると、まるで西洋人のようで、紅茶や今着ているような白くゆったりとしたシャツがとても似合う。

儚くて、そして美術品のように高貴で美しかったジルとはまた違って、健康的で溌剌とした強さもある。

イバンとは同じ出身で同じ蛇族だ。
人型の今でも服を脱げば鱗が肩や背にある。
それを指で撫でるのが俺は好きだ。

「こちらにおいで」

俺の誘いに玲陽は静かに微笑んで隣に座った。

「阿羅彦様」

玲陽の冷たい手に自分の手を重ねた。
彼は蛇族で、いつもこんな風に冷たい、当たり前だがイバンと同じだ。

「お前のことを軽んじるつもりはないよ、だが、第一子を産んだユーチェンを王妃としてアオアイでは活動をするつもりだ。しかし、愛しているのはお前だ。わかるな」
「はい、それはもう」

お互い、指を絡ませて強く握りあって、どちらからともなくキスをした。

「お前はこのことをどう思っている? 本音では傷ついているということはないか?」
「いえ、私は阿羅彦様にこうして愛していただけるだけで、満足でございます」
「そうか」

俺は玲陽のシャツのボタンを一つずつ開けていって、手を滑り込ませた。
滑らかな肌は吸いつくようで、固く思える筋肉の盛り上がりは弾力があって頼もしい。
胸の先を少しつねると「……っ」っと声にならない声をあげた玲陽がかわいらしい。

「ベッドにいこうか」
「はい……阿羅彦様」

玲陽は月の光を受けて怪しく輝いていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

冥府への案内人

伊駒辰葉
BL
 !注意!  タグはBLになってますが、百合もフツーも入り交じってます。  地雷だという方は危険回避してください。  ガッツリなシーンがあります。 主人公と取り巻く人々の物語です。 群像劇というほどではないですが、登場人物は多めです。 20世紀末くらいの時代設定です。 ファンタジー要素があります。 ギャグは作中にちょっと笑えるやり取りがあるくらいです。 全体的にシリアスです。 色々とガッツリなのでR-15指定にしました。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

確率は100

春夏
BL
【完結しました】【続編公開中】 現代日本で知り合った2人が異世界で再会してイチャラブしながら冒険を楽しむお話。再会は6章。1話は短めです。Rは3章の後半から、6章からは固定カプ。※つけてます。5話くらいずつアップします。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~

ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。 *マークはR回。(後半になります) ・ご都合主義のなーろっぱです。 ・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。 腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手) ・イラストは青城硝子先生です。

処理中です...